第36話 平和主義なんだけどな
翌日。
店の開店準備を進めていると、思いもよらない人達が来た。
「だから、傷の治療費を払って頂きたい!」
「はぁ」
「我々としても事は荒立てたくないのだ。其処で、治療費だけ払うのであれば、この件は手打ちにするつもりだ」
「そうですか」
捲し立てるデカス商会会頭ボルガルを見ながら思った。
会頭が来るなんて暇なのかな?と。
朝早く店に来るなり、昨日のそちらの店の従業員がうちの店の従業員に怪我を負わした。その治療費を払って貰いたいと。わざわざ、包帯を巻いた状態の部下達を連れてやって来た。
一緒に付いてきた副頭のアル―マンも同様に包帯を巻いていた。
ウラー達から報告は聞いているが、アル―マンは傷付けていないと言っていた。
その報告をしている最中、三人共目が虚ろだったがどうしてだろう?
「おい。話を聞いていたるのか⁉」
「ああ、すいません。まさか、この忙しい時に人が来るなんて思わなくて考え事をしていました」
「きっさまっ⁉」
青筋を浮かべるボルガル。
短気なのかな?そんな事では商売をするのは大変だぞ。
「で、その治療費を払えば良いのですね。分かりました。で、おいくらですか?」
「ふん。そうだな。一人金貨二十枚だ!」
……ぼったくりすぎでは?
これは喧嘩を売られているのか? それとも金をたかりに来ただけなのだろうか?
思わずボルガルの顔を見たけど、ドヤ顔をしているのでどっちが分からないな。
う~ん。どうすべきかな?
「そんな話、受けれる訳無いでしょうが。馬鹿じゃないのっ」
「ティナっ⁉」
「そうね。こんな馬鹿な事を言う人を始めて見たわ」
「カーミラまでっ⁈」
「面白い。その喧嘩、買ってやるわっ」
「何でアングルボザまで?」
今日は狩猟で副都に外に出ている筈だけどっ。
「貴様らっ。儂らに喧嘩を売ると言うのかっ?」
「売るではなく買うだろうが。馬鹿めっ」
「あの、ちょっと僕の話を」
「良いだろうっ。その喧嘩を買ってくれるわっ。後で吠え面をかいても知らぬからなっ」
そう言ってボルガルは足音を荒げながら店から出て行った。アル―マン達もその後に付いて行った。
足にも包帯を巻いている人達は普通に歩いているぞ。演技をするのなら其処は最後までして欲しかったな~。
ボルガル達が出て行くのを見送ると溜め息を吐いた。
「……どうして、勝手に決めるかな~」
「ふんっ。向こうが勝手に喧嘩を売っただけでしょうっ」
「そうね。売ったのは向こうなんだから、負けたとしても自業自得よ」
「久しぶりの喧嘩だ。血が滾るぞっ。わたしは他の者達にも声を掛けてくるっ」
アングルボザがそう言って、店を出て行った。
……もう、勝手に話が進んでいくな。
仕方がないか。不本意だけど、売られた喧嘩は買うとしよう。
「バシド」
「此処に」
「敵が何をするつもりなのか調べてきて」
「畏まりました」
喧嘩をするのなら勝たないとね。




