第35話 後は任せた
「どうも、初めましてかな? 『翔鵬商会』の会頭をしているリウイと申します」
とりあえず挨拶をする僕。
何事も挨拶が大事だ。どんな相手でも。
「お前がっ。・・・・・・そうか、お前がか」
アルトリアの背に乗る僕を見上げるアル―マン。
不躾な視線だけど、まぁ気にしない。
「こんな所で会うとは奇遇だな」
「そうですね。そちらも大変なのにこんな所で、油を売って良いのですか?」
笑顔で訊ねるとアル―マンは不快そうに顔を歪めた。
ああ、この人交渉に向いてないな。そんな露骨に顔に出たら何が欲しいか分かるだろうに。
「ふ、ふん。わたしの商会を心配してもらい感謝する。わたしはそちらの女性に用があるのだが?」
「用? 強引に腕を引っ張っていくのが用ですか? 誘拐と言われてもおかしくないのでは?」
「むっ。子供のお前には分からない事があるのだっ」
「それに偉い役職に就いている者達は如何とか言っていたような。ちなみに、聞きますけど。その人達、店には来ているのですか?」
「いや、知らないが」
「ああ、じゃあその人達を頼っても駄目ですね。もう甘い汁を吸えないんだったら付き合う道理はないですから」
「こ、こどものお前に何が分かるっ」
「寧ろ子供でも分かるのに、どうして貴方は分からないのですか?」
まぁ、僕の場合、前世の知識があるから分かるだけだけどね。
「・・・・・・いいから、そこを退けクソガキっ」
「退く理由はないのですけど? それにシャルさんはうちの従業員です。借金があると言うのであれば明日にでも用意しますけど?」
「何でお前が用意する必要があるんだっ」
「うちの従業員だから」
まぁ、一番の理由は料理が美味いこの一言に尽きるんだけどね。
ぶっちゃけ僕の周りの人達って料理が作れない人が多い。
ティナ、カーミラ、シャリュ、ハダ、レグルス、デネボラ、フリ、ゲリ、バシド等々。
意外にもアングルボザとアマルティアが作れたのは驚いた。部族で作る料理だったけど、癖はあるけど食べれる。ソフィーは人妻だったからか料理は難なくできる。
子供の頃はソフィーの料理で育ったからな、おふくろの味ならぬ乳母の味だ。
母さんも料理は出来ないという訳ではないのだが、どちらかと言うと酒のツマミか丼物が多い。
その点、シャルは料理を作り慣れている様で色々とバリエーションがあって飽きないし美味しい。
「ふん。従業員だからと言って随分と気に入っているようだなっ」
「まぁ、否定はしないかな」
シャルさんみたいにこう穏やかな人は周りに居ないので貴重だからな。
僕の周りはどうも、ぶっ飛んだ女性が多いから。
「ふん。どうでも良いが。俺はその女に用があるんだ? 退かないのなら」
アル―マンは後ろに控えている男達に目で合図する。
男達は前に出て来た。
……ふむ。全部で十五人か結構多いな。アルトリア一人では流石にきついかも。
「お任せを。リウイ様」
「いや、これから商談に行くのに怪我を負ってもらうのは困るから」
アルトリアと話しながら、僕は視線を横に向ける。
うん。ちゃんと居るな。じゃあ、任せるか。
「先生方。出番ですぞ」
僕はそう言いながら手を叩いてある方向に目を向ける。
「……おい。あれって気付かれてないか?」
「ふん。お前の厳つい顔が目立ったからだろうがっ」
「ええい、そんな事は良いから行くぞ。お前達っ」
僕達の周りを囲んでいる人だかりを避けながらこっちに来る人達。
こっちに来た人達は『義死鬼八束脛』の幹部で部隊長のベリアルとウラーとイクスの三人であった。
更にその三人の後ろには自分の部隊の隊員なのか十人ほど付いていた。
「あの、若。何時から俺達が後を付いている事に気付いたんですか?」
「店を出て少ししてかな」
歩いていると何故か後ろが騒がしいと思い振り返ると、何故かベリアルとウラーが口喧嘩をしていた。
非番かなと思い声を掛けるのを止めたのだが、その後も度々口論している所を見た。
これはもしかして、ダイゴクあたりが密かに護衛として付かせたんだなと思い無視する事にした。
「悪いんだけど、この人達の相手をしてね。僕達はいく所があるから」
「はい。……どうして、バレたんだろうな?」
「だから、先程から言っているだろう。お前の厳つい顔をその無駄にデカい身体でバレたんだと」
「そんな訳があるかっ。どちらかと言えば、手前の方が俺よりも目立つだろうがっ」
「お前達。そんな事は良いから、今は目の前の事を処理するの手伝え」
三人の漫才みたいなやり取りを背で聞きながら、僕はシャルさんをアルトリアの背に乗せて『鳳凰商会』へと向かった。




