第42話 何で、こうなるの
訓練場を後にした僕達は、侯爵が居る研究所に向かう。
僕は魔弾銃|(仮)を見る。
(引き金を引いて、弾が発射されるのに少しタイムラグがあるな。侯爵に改善点を言おう)
そう考えながら歩いていたら、研究所についた。
ノックもなしに入るのは失礼だと思い、僕がドアをノックした。
返事がない。
もう一度叩くが、反応はない。
なので、僕は扉を開ける。
扉を開けた先には、研究員らしい人達が紙を片手にあっちこっち走り回っていた。
皆一様に目が血走っていた。
僕はそれを見て、ドン引きした。
(な、何だ?)
この前来た時は、皆静かに研究してたのに、今は皆忙しそうに動いている。
「お邪魔したらまずいかな?」
「う~ん、これは」
「流石に声を掛けるのは、気が引けるな」
「こんなに忙しそうだし、今日の事は明日にした方が良いとおもうな」
「あたしもユキッチに賛成」
皆がそう言うならそうした方がいいかな。
僕は開けた扉を閉めようとしたら、研究員の一人が開いている扉に目を向けた。
そして、僕と目があった。
「あっ、どうもこんにちは」
頭を下げて挨拶する。
「・・・・・・・・・・・・」
研究員の人は僕を見て何も言わない。
どうしたのだろう?
「・・・・・・あ」
「あ?」
「あの銃のアイディアを出した異世界人が来たぁぁぁぁっ⁉」
その声を聞いて、走り回っていた研究員達が、僕の方を見てきた。
中には持っている物を落とす人までいた。
「「「か、確保ッッッッッ‼」」」
研究員達が僕を捕まえようと襲いかかる。
「なんで~~~~~⁉」
僕はもみくちゃにされながら大声をあげた。
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「うちの者が大変失礼な事をしたそうで、どうかお許しいただきたい」
「いえ、僕は特に怪我らしい怪我はしていませんから。むしろ、研究員の方々はどうなのですか?」
「皆、全治一週間ほどの怪我を負っています」
「こっちこそすいません」
僕は研究所にある侯爵の部屋に居る。
あの後、研究員にもみくちゃにされた僕は脱げだす事も出来なかった。
それを見た椎名さんが一瞬でキレた。
僕をもみくちゃにする研究員達に襲いかかり、某アマゾネスのように研究員達を吹き飛ばしていく。
侯爵が研究所に入ると、うずたかく積まれた研究員の山が目に入った。
そんな中で、鬼のような目で周囲を睥睨する椎名さん。
正直、怖かった。
研究員達は今頃、健康管理室で治療を受けているだろう。
僕達は侯爵の部屋に通され、茶を飲んでいる。
「それにしても、どうして研究員の人達は、僕をその、確保しようとしたのでしょうか?」
そこが分からない。
侯爵はどう伝えたらいいのか分らず困っている。
困っている侯爵は、おもむろに口を開く。
「その・・・・・・イノータ殿がアイディアを出したあの銃が・・・・・・」
「あの魔弾銃|(仮)が何か?」
改善点はあったけど、特に問題がない代物だ。
「先程、銃の威力を見ていたのですが・・・・・・皆、その威力を見て言葉を失ったようで」
さっきの銃を使っている所を見ていたんだ。
どうやって見たんだろう?
訓練場の周りは塀が出来ているから、見えない筈だけど。
「それで、あんな状態に?」
「ええ、設計から製造までわたし一人でしたので、弟子達はその威力と汎用性に驚きながらも、新しい研究のテーマになると思ったようです」
確かに、理論上では弾丸に魔法を込めて発射しても、また弾丸に魔法を込めたら発射できるように作られたのだ。
そこから色々と応用が出来るだろう。
例えば魔法を充填できるということだから、うまく使えば魔法の力を源である魔力を充填できるかもしれない。そうしたら、魔力を使いきった魔法使いを回復させることができるだろう。
まだ、実験をしていないので分からないが、多分出来ると思う。
「それで思わず、ノッ君を確保しようとしたの?」
「はぁ、恐らくは・・・・・・」
侯爵は言いながら、ハンカチで流れ出る汗を拭う。
「阿呆しか居ないのか。ここには?」
「研究員は皆優秀な者しかしないのですが、少々研究熱心でして」
「流石に常識を疑いますね」
「ホントだよね~」
まぁ、それだけ研究熱心だということだろう。多分。
「イノータ殿には大変失礼な事をしました。お詫びにわたしの出来る事でしたら何でもいたします」
「いえ、そんなことをしなくて・・・・・・あっ、そうだ」
「何かありましたか?」
「ちょっと頼みたい事があったのですが、聞いてもらえますか?」
「ええ、構いませんよ。何でしょうか、大抵の事なら叶えてあげます」
「じゃあ、今度お宅の厨房を使わせてもらいますか」
「はっ?」
侯爵は思っていた事よりも、遥かにハードルが低い事を言われて、目を点になる。
僕も言っていて、こんな事を言われたら驚くだろうなと思う。
「いえ、ちょっと友人に頼まれごとがありまして、それを作るのに王宮の厨房を使うのは少々気が引けるし、かと言ってそこいらの店を借りるにしても、設備が整っているか分からないので」
「はぁ、それで我が屋敷ですか」
「はい。この前、屋敷にお邪魔させてもらった時に、夕飯に出て来た料理が美味しかったので、それなりに設備が整っていると思いました」
「何を作りたいのか分かりませんが、わたしは別に構いませんよ」
「じゃあ」
「一応、娘に言っても構いませんか? あれは厨房をよく使うので」
「はい、いいですよ」
エリザさんなら一言いえば快く貸してくれるだろう。
口は悪いが良い人だし。
うん? 何か周りから冷たい視線を感じる。
周りを見ると、マイちゃん達がジト目で僕を見ている。
「ふ~ん、何時の間にか侯爵の家に行くようになったんだ」
「あの時の女の匂いは、あの女ね」
「ノブはあんな性格の女が好きなのか?」
「流石イノッチ、手が早い」
何だろう。不名誉な事を言われている気がする。
その後も、皆に色々言われたが、僕が大した事がなかったと言うと、納得してくれた。
お風呂の件は言っていない。
言えば、確実にヤバイ事が起こると分かる。
侯爵との話を終え部屋を出たら、研究員の獲物を見るような目で見送られながら、研究所を出た。
僕達はそのまま解散した。
皆、何処かに行くそうだが、僕は部屋に戻る事にした。
「ふぅ、今日も色々あったな。夕飯が出来るまで少し横になるか」
部屋に入ると、何故か一羽の烏がテーブルにいた。
「うん? この烏、何処から入って来たんだ?」
椎名さん対策で部屋には完全に施錠しているので、カギを持っているメイドさんと僕以外は誰も入れない筈だ。
なのに、この烏はどうやって入って来たのだろう。
『ようやく来たか。待ちかねたぞ。我が契約者よ』
その声は、モリガン⁉
どうして女神の声がするんだ?




