第31話 そう来るのならこっちも手段は択ばないぞ
その夜。
家に戻ったクリストフ達がこっそりと家を出て行くのを物陰から僕達は見た。
恐らく脅迫状なか何かで呼び出されたのだろう。まぁ、そうなる事を予想して僕達は物陰に隠れていたんだけどね。
「我が君。どうしますか?」
「後をこっそりとつけよう」
「「はっ」」
僕と一緒に居るアルトリアとルーティと共にクリストフ達から少し離れて後を追う。
家を出たクリストフ達の後を追い掛けると、人通りの少ない裏通りに入った。
其処から更に進んだ先に、あまり広くない空き地があった。
其処には正体がバレない様に覆面をした男達に両腕を縄で縛られた上に目隠しされたジェシーの姿があった。
「リウイ様。踏み込みますか?」
「向こうがちゃんと約束を守るかどうか分からないから、少し様子を見よう」
僕達は物陰から様子を見た。
「「「ジェシー‼」」」
「その声、姉さん達に、お母さん⁈」
「今助けるから、待ってなさいっ」
リリーさんにそう声を掛けられてジェシーは首を縦に振る。
「手紙に書いた者は持って来たか?」
覆面している男達の中でリーダー格の男が口に出した。
クリストフが懐に手を入れて何かを出した。
「ああ。タイヤの製造方法とプラチナの加工方法をなどを記した物だ」
「良しっ。まずはその紙を其処に置け」
男が指差した先は、丁度クリストフと男達の中間であった。
「まずは娘の解放が先だっ」
「お前がその紙を其処に置いたら娘も解放する。もし、従えないと言うのなら」
男は腰に差している剣を抜いて、ジェシーの首元に当てる。
「っ⁈ お前っ」
それを見た瞬間、二コラは腰に差している剣の柄に手を掛けたがシャルがその手を掴んで首を横に振る。二コラは悔しそうに唇を噛み締める。
「リウイ様。此処からでもジェシーに傷を付けずにあの者達に矢を当てる事が出来ますが?」
ルーティは短弓を出して聞いてきた。
「……アルトリア」
「はっ」
「僕を背に乗せてくれる」
「御意」
アルトリアは屈んで僕を背に乗せてくれた。
「矢を放つ準備だけはしておいて。アルトリアは僕が手を叩いたらジェシーに向かって駆けて」
「承知」
「分かりました」
ルーティは矢束から矢を数本取り、何時でも放てる用意をした。
そうしている間にクリストフは歩き出して、男に言われた所に持って来た紙を置いた。
「よし。ほら、行け」
男がジェシーの背中を押した。それを見た二コラは目を細めた。
その目力に押されたのか、男達の何人かが後退りする。
背中を押されたジェシーはとりあえず前へと進んだ。
何処も痛そうに歩いていないジェシーを見て、リリーさん達は安堵の表情を浮かべた。
暗がりだけど何処も怪我してそうに見えないのに、どうしてあんなに安堵しているんだ?
まぁいいか。そうして、ジェシーが歩いていたが、暗がりだからリリーさん達には見えないだろうけど、細い黒い糸が身体に巻き付いていた。その糸を辿っていくと男の一人が糸を持っていた。
「ルーティ。ジェシーの身体に巻き付いている黒い糸が見える?」
「はい」
「じゃあ、僕が手を叩いたと同時に、あの糸に矢を当てて」
「お任せください。今宵は月は出ていませんが、風も無いので当てるのに何の支障もありません」
「任せたよ」
僕はクリストフ達の方を見る。
ジェシーは順調に進んでいき、紙の方も男の一人が近づいて行く。
双方、後十歩ぐらいで手が届くという所で、僕は手を叩いた。
その瞬間、アルトリアは駆けだしてルーティは矢を番えたと思ったら放った。
ピュンっという音がしたと思ったら、放たれた矢はジェシーと男の間にある糸に当たる。
矢が当たると、糸は切れた。
「んあっ⁉」
「どうしっ んっ⁈」
男の一人が変な声を上げたので、リーダー格の男が訊ねようとしたら僕達が目に入った様だ。
「そのまま駆けてジェシーと紙を奪還っ」
「邪魔する者は?」
「ふっ飛ばして良いよ」
僕が命じるとアルトリアはスピードを緩めないで駆けだした。
そして、僕はジェシーを抱え込んだ。
「よしっ」
「い、いや、たすけて・・・・・・」
視界を失っている所にいきなり抱え込まれたので暴れるジェシー。
「いた、いたいた、あ、あばれないで、ぼくだから……」
「その声、もしかしてりういさん?」
よし。何とか落ち着いた。
「退けえええええっ」
「ぐひゃあああ⁉⁈‼」
アルトリアが叫んだ先には男が居たが、男はアルトリアの体当たりを受けて敷地を区切る壁に当たって埋め込まれる様に沈んだ。
アルトリアは気にせず、足元にある紙を拾う。良し。これで任務完了だ。
「何だ。てめえは?」
「通りすがりのケンタウロス・ライダーです」
「そんなふざけたライダーが居るか⁉」
「此処に居るぞ!」
僕が胸を張って言うと、男達は無言で腰に差している剣を抜いた。
別に馬鹿にした訳ではないのだけどなと思いつつ、僕は手を挙げる。
すると、魔法で姿を隠していたルーティの部下達が姿を見せた。皆、矢を構えていた。
「エルフ!」
「青い肌のエルフって見た事ねぇぞ⁈」
男達はいきなり現れたルーティの部下達に驚きながらも剣は離さなかった。
「じゃあ、ルーティ、後は任せた。死なない程度なら何をしても良いから」
「はっ」
後の事はルーティに任せて、僕はクリストフ達に帰るように促した。
僕達が空き地を出ると、其処から複数の悲鳴が聞こえて来たけど、気にしない気にしない。




