第18話 後少しで
数時間後。
チラシを配る人達を乗せた馬車が帰って来た。
「人ごみに紛れて見ましたけど、なかなか話題になっていましたぜ。殆ど紙を配る女性の方を見ていましたが、中にはタイヤに目を向ける者達も居ましたぜ」
馬車がどんな風に見られるのか気になりダイゴクに見に行かせたけど、予想通りの反応だった。
最初は珍しい物を売っている店と思ってくれればいい。後は徐々に売り上げを伸ばしていけば問題ない。客が来ないと商売にもならないからな。
「若。気になっていた事があるのですが訊いても良いですか?」
「なに?」
「タイヤが素晴らしいのは分かりましたが、どうやって嵌め込むのですかい?」
「ああ、それは。……あっ、考えてなかった‼」
それを聞いてダイゴクは呆れたような驚いたような何とも言えない顔をした。
「どうしますか?」
「う~ん。そうだな」
タイヤを嵌め込んだ車輪を売る? それともこちらの費用で車輪を嵌め込む?
どうしたら良いかな。
そう考えているとアクパラが来た。
正確に言えば浮かんでいるから漂って来たというのが正しいか。
「どうしたのじゃ。何か悩んでいる様じゃが?」
「ああ、実はタイヤをどうやって売るのか考えていなかった事を分かったんだ」
「ほほほ、もう開店準備が着々に出来ていると言うのに今頃そのような話題が出るとはな」
笑うアクパラを見て、顔を顰める。
しかし、直ぐにアクパラが良い案を出してくれた。
「今からタイヤを嵌め込む方法を他の者達に教え込むよりも、最初からタイヤを嵌め込んだ車輪を売った方が良いじゃろうな」
成程。良い案だ。
車輪の大きさに合わせたタイヤを作るよりも、最初から馬車にあったタイヤ付きの車輪を売った方が良いか。どれくらいの大きさか分からない人はこちらで計って車輪に渡せば良いだけだしな。
「良いですね。それでいきましょうや。若」
「そうだね。じゃあ、車輪の手配をしてくれる?」
「お任せを」
ダイゴクがそう言って車輪を用意しに行った。
すると、次はシャリュが来た。
「リウイ様。お客様が参りました」
「客? 知り合いかな?」
「いえ、コルト商会の者と言っていました」
副都で知っている商会は『鳳凰商会』だけだ。何が目的で来たのやら。
「……とりあえず、ハヌカーンに応対させて」
「分かりました」
シャリュは一礼して離れて行った。
「賢明じゃな。知らぬ者に会う時は十分に警戒するのは当然の事じゃ」
「ところで、そのコルト商会?というのは何が目的で来たと思う?」
「恐らくタイヤを見て商売になると思い、一口乗ろうと来た者じゃろうな」
「やっぱりそうだよね」
そうじゃなかったら開店してない状態で此処に来るわけがない。
「もし、今後そういう話があったらどうするのじゃ?」
「六:四で良いと思うな」
「ほぅ、太っ腹じゃな」
「こっちも少し儲けが無いと駄目だし、向こうも儲けが無いと駄目だからこれぐらいで良いと思うんだ」
「ほほほ、なかなか考えている様じゃな」
これでも店の経営をしているからね。これぐらいは。
「ところで、店の名前は何と言う号にするのじゃ?」
「ああ、それはね。色々とあったけどマーベラス商会にした」
「どういう意味じゃ?」
「前世に居た世界の言葉で素晴らしいという意味だよ」
「素晴らしい商会という訳か。なかなか面白いネーミングセンスじゃな」
悪くはないと思うけどな。多分。




