第40話 さぁ、来い。準備は万端だ。
翌日。
約束の日時まであと僅かだ。
僕達は準備をしながら、時がくるのを待った。
「も、もうすこしで、じ、じかんだね。マイちゃん」
僕は全身を震わせながら、話し掛ける。
正直言って何が来るか分からないので怖い。
だが、マイちゃんはそうではないようだ。
「大丈夫大丈夫、烏ぐらいでそんな怖がる事ないじゃん。気楽にいこうよ。気楽に」
う~ん、マイちゃんの気楽さが、今では心強く感じる。
周りも、僕が怖がっているのを呆れている。
「まったく、ノブ、だらしないぞ。マイの心臓の毛でも貰ったらどうだ?」
「猪田君、深呼吸、深呼吸」
「ノブッチ、手の平に好きな人の名前を書いて、飲んだら緊張がとれるっていうよ~、やってみたら?」
「成程。じゃあ、さっそく」
「「「そこっ、嘘つかない‼」」」
「あ、やっぱりばれた」
村松さんが舌を出して笑う。
その小悪魔っぽい顔が可愛いと思った。
僕達は今、訓練場に居た。
ここに居るのは、僕とマイちゃん、椎名さん、ユエ、村松さんだ。
椎名さんとユエは普段から行動を共にしているので分るが、何で村松さんがここに居るのだろう?
「ところで、何で村松さんがここに居るの?」
「う~ん、面白そうだから」
「あっ、そうなんだ」
村松さんらしい理由だった。
でも、話していたら少し落ちついてきた。
「村松さんと話していると、落ち着くな~」
本心でそう思った。
「えっ⁉ そ、そうかな・・・・・・~~~」
村松さんは顔を赤くしながら髪を弄る。
「「「・・・・・・・・・・」」」
あれ? 何だろう。周りの空気が寒くなった気がするぞ。
もしかして、来たのかな?
でも、空を見上げても烏らしいものは見えない。寒気を感じるのは何でだろう?
「イノッチ、どうかした?」
「いや、何でもないよ」
僕はそう答えて、これからの事を考えた。
(烏と言うけど、どれくらいの大きさか分からないけど、一応色々と準備はしているから大丈夫だと思うけど、不安だな)
僕がそう考えていたら、青い空に黒い点のような移ったように見えた。
青空の中で、その黒い点があるので余計に目立つ。
その点が段々と大きくなっていく気がする。
「もしかして、あれかな?」
何となくだけどそう思った。
「ノッ君、どうかした?」
「あれ」
僕は黒い点に指差した。
マイちゃん達は僕が指差した方向を見る。
そうしている間にも、その黒い点が段々大きくなっていった。
「多分、あれだね」
「だよね」
そして、その黒い点が鳥の姿がとして見える所までやってきた。
黒い羽に、三本足だ。
昨日、女神さまが言ったのと同じだ。
(いよいよか、昨日出来た新兵器。試すとするか‼)
僕は布に包まれた物を手に取る。
黒い羽を持った烏は二、三度翼をはためかせると、僕らの前に降り立った。
翼をはためかせた事で起きた風が、乾いた土を埃となって舞い上がらせた。
僕達は砂塵に目をやられ、何度も目をこすり埃を目から追い出す。
ようやく、目をあけるようになった時には、三本足の烏が僕達を見ていた。
『我が名はネヴァン。我が主の命により、契約者の力量を計りに参った』
烏は口を開けてないのに、声が聞こえて来た。
「この声、頭の中に直接響いているのかな?」
『然り、我が汝らの頭に直接話し掛けている』
これはテレパシーみたいなものかな?
烏がこんな事が出来るなんて、流石はファンタジーだ。
『我に挑む者は前に出よ。契約する為の試練を伝える』
僕はマイちゃんを見て頷いた。
「猪田君、頑張って!」
「マイ、ノブ、気楽にやれ。変に気負うと、いい結果が出ないぞ」
「サナダッチ、イノッチ、ガンバレ~」
声援を背に受けながら、僕達は前に出る。
『汝らが、試練を受ける者達か?』
「はい、そうです」
『では、試練の内容を話す。心して聞くが良い』
僕は聴く体勢をとったが、マイチャンは不満そうな顔でネヴァンを見る。
「なんか、烏なのに、すっごい偉そうなんだけど」
「神様の使いなんだから、十分偉いと思うよ」
「でも、烏じゃん。あたし達がいた世界だと、ゴミ荒らすような厄介者だよ」
「いやいや、僕達が居た世界の烏と、この神様の使いの烏を一緒にしたら失礼だよ!」
「羽が黒いから、そうとしか思えないよ~」
「失礼だよ。マイちゃん。それに烏は色々な神話に出て来る凄い鳥なんだよ」
日本では神武天皇が八咫烏という烏が勝利に導いたと言う話があるし、中国では太陽を信仰する象徴として三本足の烏がある。他にも北欧神話にもケルト神話にもギリシア神話にも出て来るのだ。
意外にも烏は神聖視されているのだ。
『ゴホン、話ヲ続けてよいか』
「あ、すいません。どうぞ」
話しの腰を折ってしまったのだが、意外にも怒る様子はない。
(もしかして、良い烏なのかな?)
何となくだがそう思った。
『では、試練の内容を伝える。試練は我とそなた達と戦ってもらう』
「ハンデとかありますか?」
『無論、ハンデはつける。我は魔法は使わない。そして、そなた達は何をしても構わない。我の口から「まいった」と言わせたら、そなた達の勝ちだ。また、一時間そなた達のどちらかが立っていたら勝ちとする。他に何かいるか?』
「いえ、ありません」
『では、準備をするが良い。準備が整いしだい開始とする』
「あ、大丈夫です、もう、準備は整っていますから」
『なにっ⁉』
ネヴァンは僕達を見る。
僕達は真新しい鎧を着て、手には布に包まれた物と、何かかが入った木箱が沢山ある。
そして、僕達の腰に差している物は剣だけだ。
『・・・・・・汝ら、本気か?』
パッと見では、そう思うだろう。
何せ、武器といえるものが剣しかないのだから。
「はい。本気です」
『・・・・・・後悔するでないぞ』
「大丈夫です。ねぇ、マイちゃん」
「当然、ノッ君とあたしと初めての共同作業だから、抜かりはないわ」
マイちゃんは胸をはって威張る。
(共同作業・・・・・・何か違う気がするけど、まぁいいか)
共にするという意味では間違いではないのだから。
僕達は何時でも開始出来るように、身構える。
『よかろう。我を侮辱した報いを受けるが良いッ』
そうとられても仕方がないよな、大した武装している訳ではないから。
ネヴァンは顔をユエ達に方を向ける。
『そこに居る者達、何でもいいから、合図を送るが良い』
そう言われて、ユエ達はどうやって合図を送るか話し合った。
意外に、形式を拘る人? なのかな。
ユエ達は話し合った結果、習得した魔法で合図を送る事になった。
「それでは、両者準備は整ったな?」
「ああ」「いつでもいいよ」
『うむ』
「それでは、―――――」
ユエが目をつぶり念じていたら、手の平から光の球が生まれた。
その球を、上へと投げた。
光の球は、真っ直ぐあがり、ある程度の高さにまで上がると、一瞬激しく光りだした。
少し遅れて、パン、パンパンと音が聞こえてきた。
ネヴァンはまだ動かない。
僕達が突っ込んできたら、空に飛んで攻撃するのだろう。
なので、余裕で待ちかませている。
僕はその隙に、布で包まれている物から布を取り払った。
「さて、使うのも初めてだけど、テストは行ったと言っていたから暴発はしない筈」
僕は布に包まれていた物を見た。
それは、金属で出来た筒のような物だ。引き金と撃鉄も付いている。狙いつけるように照星もある。
まるで拳銃のような物だ。
事実、これは銃だ。ただし、火薬を打ち出すのではなく、魔法を打ち出すという物だ。
銘を『魔弾銃|(仮)』と名付けた。
侯爵に作るように頼んでみたが、まさかこんなに早く出来るとは思わなかった。
(けっこうあやふやな事を言ったつもりだったけど、形になるもんなんだな)
僕は昨日練習した通りに可動させる。
リボルバーのような中折れ式で、弾が一発しか入らないが十分だ。
ポケットに入れていた弾丸を、銃身に入れる。
銃身を上げる。カチッという音をたてて元の形に戻った。
僕は銃口をネヴァンの足に狙いをつけた。
初めて銃を持って撃つというのでのは、武器を持って動物を殺すのと違う意味で怖い。
(狙いをつけて、当てないと、じゃないと魔法の契約が出来なくなる。僕は良いけど、マイちゃんが)
そう思うと、余計に外せなくなり、僕の手が震える。
震える手にそっと手が重なる。
「ノッ君、落ち着いて、大丈夫。ちゃんと当たるから」
僕はそう言われて、ようやく手の震えが止まる。
「ふぅ・・・・・・」
呼吸を整えて、引き金を引く。
甲高い音を立てて、銃口から青い弾が発射された。
銃を撃ったら反動があるそうだが、この銃には反動がない。
発射された弾は、真っ直ぐに飛んで行きネヴァンの足元に当たる。
パキッッッンンン‼
当たった瞬間、弾が当たった所を凍りだした。
『こ、これはっ⁉』
ネヴァンは両足が凍り付かされたので、飛ぶ事も動く事も出来ない。
何とか動こうと、身体を動かして、氷から抜け出そうと頑張る。
「よし、成功だ‼」
僕は思っていた通りの成果と狙い通りに当たった事の喜び込めた、二つの意味で成功と言う。
『ぬううう、小癪な事をしおってぇ・・・・・・』
悪態つくネヴァンに、僕はマイちゃんを見る。
「マイちゃん!」
「OK。こっちは準備良いよ」
マイちゃんは木箱の蓋の部分を手で壊した。
箱の中には、先程僕が撃った弾丸と同じ弾がいくつもあった。
僕は入っていた弾丸を抜いて、新しい弾を込めた。
銃口をネヴァンの体に向ける。そして引き金を引いた。
先程と違い、青い弾ではなく今度は赤い弾だ。
その弾がネヴァンの体に当たると、炎となってネヴァンの身体を包む。
「次」
「ほい」
僕は弾丸を抜いて、新しい弾丸を込めて発射した。そして、また弾を込めて発射する。
その繰り返しを続ける。
ネヴァンは足が凍っているので、動くことも避ける事も出来ない。
『ぐ、ぐおおおおおおおおっ⁉』
ネヴァンは魔弾の攻撃に耐える。
耐えていれば、その内攻撃は止むだろうと思っているようだが、箱はまだ後十箱あった。
それに箱の中にある弾丸は百発あった。それに今使っている箱の中にも後五十発分の弾あった。
このまま攻めていたら、一時間過ぎるだろう。
相手は逃げる事が出来ないから、このまま攻めていたら大丈夫だ。
「「・・・・・・・・・」」
あれ? 何か試合を見ているユエ達が僕をドン引きしている気がする。
「流石、猪田君。凄いわ。普通の人じゃあ思いつかないわ。こんな方法」
椎名さんは何か凄い感心している。
「ねぇ、マイちゃん」
「なに? ノッ君」
弾を込めながら、僕は訊く。
「この作戦、変かな?」
「全然、凄い効率的じゃん」
「だよね」
僕達は相手が『まいった』と言うまで続けた。




