閑話 近況報告 姉宛て
今回はロゼティータ視点です。
今日は天気が良いので、テラスで茶を飲む事にした。
誰も呼ばず一人で茶を飲んでいると、部屋のドアがノックされた。
部屋にいるメイドがドアの方に行き何かしら話をして終ると、妾の所まで来た。
「ロゼティータ様宛てに手紙が届きました」
「誰からじゃ?」
「差出人はソフィーディアと書かれています」
ソフィーディアか。リウイの乳母でリウイと共に魔国を出た者だ。
密かにリウイの事を報告させる事を命じていた。
「ほほ、そうか。では、妹達を呼んできてくれるか。イザドラ以外の」
「はい」
メイドは少し疑問に思ったような顔をしたが直ぐに表情を元に戻し妹達を呼びに行った。
もし、この手紙がイザドラの逆鱗に触れる様な事が書かれていれば。
『何ですって⁉』
とか言って龍の姿になって暴れまわる姿が容易に目に浮かぶ。
我が妹ながらリウイに対する愛情は姉である自分から見ても重いと言える。
本人にそう言っても『そんな事はありませんよ。普通ですよ』と笑いながら言う始末。
つける薬が無いとはこういう事を言うのだろうなと思うのじゃ。
少しすると。
メイドはイザドラを除いた妹達を部屋に連れて来た。
「ロゼ姉。何かあったの?」
「また、イザドラ姉さんが面倒ごとを起こしたの?」
「それは大変だ」
こやつらの中では妾が呼ぶ=イザドラが面倒な事を起こしたという考えているようじゃ。
イザドラが面倒を起こしていると取るべきか、妾がそういう事でなければ妹達を呼ばないからいけないのか分からないところじゃが、今はそんな事はどうでも良い。
「リウイの乳母のソフィーディアから手紙が来た。近況報告の手紙じゃ」
妾がそう言うと、妹達は顔を綻ばせた。
「ウ~ちゃん。向こうの大陸で元気にしているのね~。良かったわ」
「まぁ、そう簡単に死ぬような子じゃないしね。リウは」
「リウイは元気そうなら良い」
手紙が来た事で弟は無事向こうの大陸に着いたという事が分かり喜んでいる妹達。
「姉さん。読んでくれる」
「そう急かすな。今読み上げるから待たぬか」
ヘルミーネに急かされた妾は手紙を広げて中身を目に通す。
「ふむ。何々、大陸に着いて近くにあった『ヨドン』という都市にたどり着いたそうじゃ。で、其処でリウイの母親の部下? と思われる者達が母親の命令で暫く行動を共にする事にしたそうじゃ」
「リウイの母親ってハバキ様?」
「へぇ、ハバキのお母さんは向こうの大陸出身って聞いてはいたけど、まさか部下を持っていたんだ」
「ハバキ様なら有り得るわね。あの人、意外と面倒見いいから」
そうじゃな。妾も子供の頃は何度かお世話になった事がある。
姉妹の中で一番面倒を見てもらったのは、確かイザドラであったな。
あ奴の母親とハバキ様は親しくしておりその関係でイザドラの面倒を見ていたのじゃ。
さて、次はと。
「ふむ。一緒に連れて来たアラクネと他の者達と一緒に商売を始めたそうじゃ」
「商売?」
「へぇ、アラクネの生糸ってそんなに高く売れるの?」
「わたしも知らないわ」
生糸じゃからそれなりに高く売れる筈じゃ。
しかし、リウイは領地運営は出来ても商売まで出来るとは思わなかったのう。これは意外な才能じゃ。
「姉さん。続きを」
「そう急かすな。次は、……ふむ。これは、また」
「どうかしたの?」
「うむ。商売は順調だったようじゃが、それで因縁をつけてきた商会があったそうじゃ」
「へぇ」
「そうなんだ」
「それで?」
妹達はどうなったのか気になったのか身を乗り出した。
「連れて来た者達の力を借りて、その商会を潰して財産を根こそぎ奪ったそうじゃ。しかも、合法的に」
「はっはは、流石リウだねっ」
「あの子。やられたらやり返す子なのね。知らなかったわ~」
「とりあえず、無事でよかった」
安堵の息を漏らす妹達。
「姉さん。早く続き続き」
「じゃから急かすなと言うに。ほんにお主らはせっかちじゃのう」
フェルが話の続きを急かしたので、妾は次の文に目を向ける。
「…………なんじゃと⁉」
思わず声に力が籠った。
手紙を持つ手にも力が入ってしまった。
「どうかしたの?」
ミリアリアが妾の表情を見て不思議に思ったのか聞いてきた。
「……リウイはその都市を出て公国という国に入ったそうじゃ」
「それでそれで?」
「…………その国で古龍の娘が嫁に来たそうじゃ」
「「「? はい?」」」
妹達は妾の言葉が分からず首を傾げた。
「じゃから、リウイに嫁が来たのじゃ」
「よめ? ……嫁⁉」
「ウ~ちゃんにお嫁さん?」
「……」
妹達はようやく言葉の意味を理解したのか目を見開いていた。
「これによると押しかけ女房みたいな感じだそうじゃ」
妾がそう言うと、妹達は頭を抱えた。
「龍が長生きすると古龍になるって聞いた事があるけど、その龍の娘がリウの嫁?」
「普通に考えても有り得ないわよね」
「むうう、リウイに嫁か。むうう」
「ふん。不愉快じゃ」
妾は手紙をテーブルに叩き付けた。
「何処の馬の骨とも分からん龍がリウイの嫁に来るなど言語道断。ましてや、妾の眼鏡に適った婚約者がいるというのに、それを無視して嫁じゃとふざけた奴じゃ」
童が憤慨していると、妹達は生暖かい目で見ていた。
「何じゃ。その目は?」
「「「いえ、別に」」」
「兎も角、これは近い内に、リウイの下に行かねばならぬな。この手紙に書かれている者を見定めに」
「姉さん。聞きたいのだけど」
「何じゃ、ヘルミーネ」
「それはイザドラ姉さんも連れて行くの?」
「勿論じゃ」
妾が断言すると、妹達は生暖かい目で妾を見て来た。
いったい、何じゃというのじゃ?
弟の嫁を見定めるのは姉として当然の事じゃろうに。
「ふむ。では、行く準備をせねばな。お主らも行くのであれば準備せよ」
「は~い」
「分かったわ」
「了解した」
三人はそう返事してロゼティータの部屋を出た。
「ねぇ、フェル姉。ヘル姉」
「なに? ミリア」
「イザ姉もそうだけど、ロゼ姉もあれだね」
「そうねあれね」
「気持ちは分かるがな」
「「「過保護だね(な)」」」
三人は先程のロゼティータの反応を見て思った。




