第90話 嘘だろう⁉
「どうして、僕の身体が此処に?」
思わず口に出してしまった。
人伝で聞いた限りでは『龍の巣』には無かった。代わりに数えきれない程の龍の死体があったと聞いている。
てっきり、あの魔法筒に込められた魔法は不完全で発動して直ぐに砕け散ったと思っていた。
それなのにどうして目の前にあるんだ。
偽物もしくは似た物では無いと断言できる。
どう見ても僕の身体だ。自分の身体を見間違える人は居ない。
何より、水晶の中に入っている時点で普通ではありえない事だ。
思わず手を伸ばして水晶に触れようとしたら。
『触るなっ‼』
大声が部屋中に響き渡る。
あまりの大きな声なので部屋が震えている。
誰だと思い、声がした方を見ると其処にはこの山の主である龍が居た。
『それに触るなっ。貴様がそれに触れる事は許さんっ。少しでも触れてみろ。その身体を八つ裂きにして、鳥の餌にしてくれるっ』
何か凄い怒っているなと思いつつ、僕は水晶から少しづつ離れる。
それを見て、龍は僕の横をすり抜けて自分の背に水晶を隠した。まるで守るかの様に。
『何の用で来たかは知らぬが。一度しか言わんぞ。立ち去れ。そうすれば、ここまで来た事を許してやろう』
龍が僕を見ながら告げる。
本来であれば、その言葉に感謝しつつ来た道を引き返す所だけど、今回は事情があるので出来なかった。
「この山に棲む龍よ。まずは無断で貴方の住処に踏みいった無礼を許してください」
僕が謝罪するが、龍は何も言わなかった。
問題は此処からだ。
「あの、お尋ねしたい事があるんですけど良いですか?」
『何だ?』
僕は生唾を飲み込んだ。
此処の問いかけ一つで僕の生死が決まる。変な事を言ったら焼き殺されるかもしれない。
それでも訊ねたい事があった。
この龍の声と前世の僕の身体がある事から、ある一つの答えが頭に浮かんだ。
正直に言って当たっているかどうか分からない。でも、どうしても聞きたかった。
「……クレープは好きですか?」
『…………』
龍は怪訝そうな目で僕を見る。
なに、言っているんだこいつみたいな目で見ないでくれるかな。気持ちは分かるけど。
『何を言って、……っ⁉』
龍の反応を見て、何か思い至ったようだ。
更に此処でもう一つ訊ねる。
「僕の名前はリウイ。前世の記憶持ちです。前世の名前は猪田信康。其処にある肉体の名前だよ。……ユキナさん?」
僕は前世持ちである事を始めて口に出して言った。
最後が疑問形なのは、人(龍?)違いかもしれないと思い疑問視になっただけだ。
でも、そう言いつつも何となくだが正解だろう僕は予想する。
『………………』
龍は何も答えなかった。このまま答えるのを待つかと思っていると。
突然、龍の身体が燃え上がった。
何事だと思いつつ見ていると、燃えている龍の姿が徐々に小さくなっていった。
やがて、その炎が消えると其処には美少女が居た。
その美少女は前世で見たまんまの姿をしていた。
「本当に猪田君なの?」
「……そうだよ。椎名さん」
目の前には前世の僕の同級生の椎名雪奈さんが居た。




