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第37話 おお、これが魔法の契約か

 カドモスさんに連れられ、僕達はある部屋に向かう。

 歩きながら、その部屋について聞いてみた。

 その部屋は魔法の契約をするときに使う部屋だそうだ。

 魔法の契約とは、この世界にいる神様や精霊との儀式みたいなものだろう。

 この世界には色々な神が居る事は、前にアスクレイ侯爵の話を聞いて知っているので、驚く事ではない。

(神か・・・・・・元いた世界でも見た事無いのにいると言われても信じられないな)

 もし、この世界で「神は死んだ」とか言ったら、どんな目に遭うだろう?

 そんな事言わないので分からないが、悲惨な目に遭うのだけは分かる。

「ここになります」

 カドモスさんが止まり、部屋を手で示した。

 部屋の前には衛兵が四人も立っている。警備でそれぐらい立っていると言う事は、重要な場所という事が分かる。

 衛兵が敬礼する。カドモスさんは笑顔で手を振る。

「準備の方は?」

「既に完了しているそうです」

「では、入らせてもらおうか」

「はっ」

 衛兵が扉を開ける。カドモスさんが先に入って行くので、僕達も続いた。

 部屋に入ると、僕は部屋の中を見回した。

 色々な事に使っている会議室くらいの広さだ。至る所に窓が付いているので、会議室よりも明るいと思える。

 床には丸い陣形にこちらの文字が書かれていた。

 恐らく、これが契約する為の魔法陣だろう。

 カドモスさんは魔法陣を見回す。変な所がないか、確認しているようだ。

「・・・・・よし、大丈夫だな」

 チェックを終えたカドモスさんは僕達に顔を向ける。

「それでは、皆様は一人ずつ魔法陣の中に入っていただきます。入ってから契約の詠唱を唱えたら、契約できる者が現れて、そこで契約して初めて魔法が使えます。では、誰からしますか?」

 そう言われて、皆我先に手を挙げる。

 皆、魔法を使えると聞いて、使いたくて堪らないようだ。

 なので、ここは公平に名字の順にする事になった。それも逆のバージョンで。

 皆が言うには、あいうえお順だったら、日本と変わらないだろうとの事だ。

 それで、トップバッターは和田祐介わだゆうすけ君だ。

 和田君は身長が低く、男子の中で一番小さい。どれくらい小さいかと言えば、身長が百五十四センチしかないのだ。その上、顔が童顔なので、うちの制服を着ていても小学生がコスプレしているようにしか見えない。

 しかし、小さくて可愛いと年上の女性にモテている。

 和田君はその甘いマスクを活かして、年上の女性とッかえひっかえに付き合っているそうだ。

 僕も何度か、和田君が年上の女性とデートしているのを見た事がある。

 それも全員、別の人だ。色々な女性と付き合えるなんて凄いなと感心した。

 彼が言うには「君には負けるよ」とい言われたが、正直意味が分からない。

 明るく誰とでも付き合える如才ない性格だ。

 僕もそれなりに話すが、友人かと言われたら微妙だ。

 何せ、一緒に遊んだことがないのだ。というよりも、クラスの皆遊んだ事ないんじゃないのかな。

 放課後になると、年上の女性とデートするそうなので、僕達と遊ぼうとしない。

 でも、クラスの皆に嫌われていないという、不思議な人だ。

 そんな考えに耽っていたら、和田君が魔法陣の中に入った。

「では、わたしの後に続いて詠唱してください」

「はい」

『我、此処に万物の力をこいねがうう』

『わ、我、此処に万物の力を希う』

 カドモスさんに続けて、詠唱する。流石に恥ずかしいのか、少し声が上ずっている。

『遍く力よ。我が求めに応じて、此処、御成りあそばせたまえ』

『遍く力よ。我が求めに応じて、此処、御成りあそばせたまえ』

 詠唱が終ると、魔法陣が輝きだした。

 そして、風もないのに、突風が部屋を駆ける。

「くっ」

 あまりの光の強さと風の勢いに、僕は手で目を抑え飛ばされないように、足に力を入れて踏ん張る。

 やがて、風が止み光の収まっていく。

 僕は手をどけて、魔法陣を見る。

 すると、そこにはうっすらとだが、黒い法衣纏い白い髭を生やした老人が見える。

 そして槍を持っている。

『我が名はオーディン。呼びかけに答え、ここに来たれり』

 初っ端から大物が出た‼


 幽霊みたいな姿で現れた神は自分の事をオーディンと名乗った。

(オーディンって、北欧神話に出て来る神じゃないかっ⁉)

 しかも、主神じゃないか‼

 凄いのが来たな。

「あ、・・・・・っと、ええっと・・・・・・・」

 和田君は現れた神にどうしたらいいのか分からず、言葉を詰まらせる。

 どうしたらいいだろうと、カドモスさんを見る。

「ワダ殿、こう言うのです。『我、貴方様の力の一端を授かる事の願い、貴方様の呼ばん』っと」

「分かった」

 和田君は一度目をつぶり、息を深く吸う。

『我、貴方様の力の一端を授かる事を願い、貴方様を呼ばん』

 言われた通りの言葉を言う。

 その言葉を聞いて、オーディンは髭を弄りながら、一つしかない目で和田君を見る。

『汝、異世界から来た者か?』

「は、はい。そうです」

『成程。では契約を交わそう。汝、契約の代償は何を渡す?』

「代償?」

「契約するには代償が必要何です。ここは無難に信仰すると言って下さい」

 カドモスさんが横から口を挟む。

 和田君はそれを聞いて頷いた。

「信仰を」

『・・・・・・そうか、では汝に我が力の一端を授けん』

 オーディンが手を翳した。その手から光が放たれる。

 その光を浴びた和田君の身体が輝きだす。

 輝きが止むと、和田君は自分の掌を握ったり開いたりした。

『対価は与えた。汝、これより我の信徒となり』

「は、はい」

『汝、何時如何なる時も、我を信仰せよ』

 そう言って、オーディンの姿がかき消えた。

 オーディンの姿が見えなくなると、誰ともしらず安堵の息が漏れた。

「これで魔法の契約が完了です。ワダ殿、どんな魔法を授かりました」

「うん、頭の中でオーディンの声で『風魔法』を習得したとか聞こえた」

 それを聞いて、皆凄いとか言いながら羨ましそうに和田君を見る。

「今のが魔法の契約手順です。分かりましたか?」

「「「はい」」」

 皆気持ちいい位良い声で答える。

「注意しないといけないのは、神や精霊を呼ぶことが出来たら、決して魔法陣から出ない事です。もし、出たら向こうは侮辱したと思い、殺されるかもしれません。これだけは注意してください」

 それを聞いて、皆少し引いた。

 カドモスさんも苦笑する。

「まぁ、魔法陣を出なけければ安全ですから、大丈夫ですよ。では、次の方、どうぞ」

「ぼ、ぼくです」

 そう言われて、前に出たのは香具師(やし)健司(けんじ)という男子だ。

 眼鏡を掛けて身長がそれなりにあるのだが、肉付きがないのでひょろっとしている。

 クラスの男子達も「骨と皮しかない眼鏡」と言っているぐらいだ。

 香具師という苗字だが、別にソッチ系の家ではなく、親は普通の家庭らしい。

 性格は気弱だ。何せ、戦争に参加しない組の一人だ。

 職業は確か『学者』だ。皆まんまだと言っていた。

 香具師君は少しビクビクしながら、魔法陣に向かう。

 あまりに遅いので、クラスの皆は声をあげる。

「とろとろすんなよ。後がつっかえているだから、早くしろよ」

「そうだ。早く契約して、魔法を使いたいんだよっ」

「は、はひっ」

 香具師君は急いで魔法陣に入る。

 そして契約の詠唱を唱える。

『わ、我、こ、此処にば、万物の、ち、力をこ、こここ希う』

 どもりながらも唱えている。

 僕は頑張れと内心エールを送る。

『遍く力よ。我が求めに応じて、此処、御成りあそばせたまえ』

 詠唱が終ると、先程同じように魔法陣が輝きだす。

 その輝きが止むと、魔法陣に誰か居る。

 先程は老人だったが、今度は女性のようだ。

 腕にヴェールみたない物を持ち、白いドレスみたいな服を着ている。

 幽霊みたいにうっすらとしているが、青い髪が腰まで伸ばしているのが分かる。

 綺麗な顔で、香具師君を見ている。

(おお、女神ってやっぱり綺麗だな・・・・・・)

 その美貌に見惚れていたら、僕の頬と腹が抓られた。

「いたいいたいたいたいたいっ‼」

「「「ふんっ」」」

 何で、三人は僕を抓るのかな? ちょっと綺麗だから見惚れていただけなのに。

『我はソピアーなり、呼びかけに答え参った』

 ソピアー?

 聞いた事がない名前だな。

『汝、我が力の一端を欲するか?』

「は、はい」

『では、代価は汝の知識を求めん』

「えっ、知識?」

 香具師君はカドモスさんを見る。

「契約する神によっては、あらかじめ代価を求めるのもいます。与える物しだいで、授かる力も変わりますよ」

 香具師君は少し考えた、答えた。

「分かりました。知識を代価に与えます」

『では、汝の頭をのぞかせて貰う』

 ソピアーは手を香具師君の頭に置いた。

『・・・・・・ふむ、では貰った代価に、汝にはこれを授けん』

 ソピアーの手が輝く。輝きが止むと、頭から手がどけられた。

『確かに授けた』

 そう言って、ソピアーは消えた。

 香具師君は魔法陣を出た。

「大丈夫ですか?」

「は、はい、大丈夫です」

「神からは、何を与えられました?」

「はい。僕は『光魔法』を授かりました」

「代償でとられた知識は分かりますか?」

「いえ、今の所分かりません」

「そうですか。まぁ、少ししたら分かるでしょう。次の方、どうぞ」

 次の生徒が魔法陣に入る。

(神様って言っても色々居るんだな、・・・・・・うん?)

 魔法陣の近くにいる儀式を手伝っている人達が、小声で話しているのが聞こえた。

「可哀そうに、よりによって、ソピアーとは」

「ああ、あの女神は魔法を与える代償がデカすぎるよな」

「それで、貰える魔法はしょぼいとか、哀れすぎる」

「言わないでおこうぜ」

 僕はそれを聞いて、何も言えなかった。






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