第84話 いざ、副都へ。
「……まぁ、早く着いた方が何をするにしても問題ないだろうと思って選んだんだ」
「ふむ。お前がそう言うのであればわたしは文句ないぞ」
「じゃあ、すいませんが。地図をくれるかな」
「分かった」
ユエが手を叩くと近くに居た店員が近寄って来た。その店員の耳元に話しかけると、店員は一礼して何処かに行った。
少しすると、店員が丸められた紙をを持って来た。
その紙をユエに渡した。
「ご苦労。下がって良いぞ」
「はっ」
店員が一礼してその場を離れると、ユエはその紙を僕に渡した。
「公都近辺が記されている地図だ。上手く使え」
「ありがとうございます」
地図を貰えて安堵していると、ユエが近づいて来て耳元で囁く。
「あの女には注意しろよ」
「あの女って?」
「決まっている。リリムの事だ」
「……そんなに馬が合わない?」
「うむ。正直に言って椎名と同じ匂いがするからな」
それはどうとれば良いのだろう。
二面性があるという事か? それとも粘着質な所があると言いたいのか?
どちらにしても前世の僕に仕えていて、それでいて前世の記憶を持った僕に仕えてくれているのだから、多少の事は目に瞑るつもり。
「大丈夫だよ。僕を裏切るような事はしないよ」
「そういう意味では……もう良い。お前がそういう事に疎いのは転生しても変わらないから仕方がないと諦める事にした」
「? どういう意味?」
「自分の胸に訊け」
そう言いながらユエは僕から離れて顎でしゃくる。
その先を見ると、カーミラが居た。
「…………」
カーミラは何故かイライラしていた。何故?
「はぁ、用事はそれで終わりか?」
「そうだね」
「では、早く出立の準備をしろ」
「うん。じゃあ、これで」
「出立の日は見送りに行くからな」
そう言うユエに手を振って僕達は店を出た。
店を出ると、カーミラは「何を話していたの?」と聞いてきた。
別に隠す事ではないので言われた事をそのまま教えた。
すると、カーミラはさもありなんと言わんばかりに頷いた。
癖はあるけど悪い人ではないのだけどな。
そう思いつつ、僕達は宿に戻った。
談話室の前を通りかかるとソフィーとリリムが話をしていた。
「成程。幼少のリウイ様はそんなに可愛かったんですか?」
「ええ、イザドラ様もリウイ様を前にすると顔をトロンとして抱き付いていましたよ」
「イザドラ様と言うのはどなたですか?」
「リウイ様の二番目の姉君です。普段は気難しい方なんですよ」
「そうなのですか」
「リウイ様を姉君達の中で一番溺愛しておりましてね。それはもう目に入れても痛くないくらいに猫可愛がりしていましたよ」
「姉君は何人おられるのですか?」
「五人ですよ」
「結構多いですね。ちなみに兄君は?」
「全部で十五人ほどいますよ」
「十五っ! 流石に多すぎでは?」
「そうですね。何せリウイ様の御父君は艶福家でしたから。最もリウイ様もその血を引いておられますけどね」
「ふふふ。その通りですね」
微笑む二人。
女性にモテてる? 僕が? 全然、そんな気がしないのだけどな。




