第83話 何となくだけど
「はいはい。どのルートを選ぶかは僕が今ここで決めるから。皆は少し静かにしようね」
手を叩きながら言うと、皆口を閉ざした。
それでようやく考える事が出来た。
さて、どうしたものか。
安全で時間が掛かる道か。多少の危険はあるがそんなに時間が掛からない道か。一番危険だけど早く着ける道の三つ内どれかを選ばないとな。
考える事少し。
「……よし。一番早い道を行こう」
僕がそう言うとボノビビ達好戦的な人達は歓声をあげる。
「そうと決めたら。早速準備だっ」
「日持ちする食料を大量に買わないとなっ」
と言って談話室から出て行った。
あまりの速さに止める間もなかった。
「まだ決定した訳ではないのだけど」
「いえ、リウイ様が決めたのですからそれで良いと思います」
リッシュモンドが断言した。
「そうかな?」
「我らの頭はリウイ様なのですから。余程無理な事でなければ従います」
リリムも同意とばかりに頷いた。
う~ん。この二人だと皆がノーと言う案もイエスという感じだからな。
「ティナ。どう思」
信頼できる幼馴染に訊こうとしたら。パコンって音がして少しすると頭に痛みが走った。
それで殴られた事が分かった。
「あんたね。一度口に出したんだから責任を持ちなさいよ。そして、あんたはあたし達のリーダーなんだからね。あんたが決めたら皆従うわよ」
「うん。そうだね」
頭をさすりながら頷いた。
ティナはこういう歯に衣着せない所があるので信頼できる。
ティナがそう言うのであれば大丈夫だろう。
皆の顔をちらりと見ると異論はないのか反対の意見はなかった。
これなら良いか。
「ありがとう。ティナ」
「ふふん。感謝しなさいよ」
鼻を高くするティナ。
ガシッ(✖2)
そんなティナの肩に手が掛けられた。
ティナは誰だろうと振り返ると、ソフィーとリリムが居た。
「乳姉弟とは言え自分の主君の問いに答えず手を出すとは、臣下として言語道断」
「本当に。同じ教育をした筈なのに、どうしてこんなにガサツな子に育ったのかしら。涙が出そうよ」
「え、えっと……これは、その……」
「ちょっと話をしましょうか」
「今日と言う今日は許さないわ。久しぶりにお母さんが説教します」
そう言って二人はティナの肩を掴みながら引き摺って行った。
「ちょ、た、たすけて、りういっ」
ティナは僕に助けを求めて来た。だが、僕は。
「ああ、リッシュモンド。公都から副都に着くまでに掛かる日数を大まかでいいから計算しておいてくれるかな。後、副都で商売をするからある程度の資金を残しつつ副都に着く前に消費する食料を買ってきてね」
「承知しました」
「は、はくじょうもののののののの…………」
ドップラー効果で徐々に声が小さくなっていった。
ごめん。今度埋め合わせはするから。
翌日。
僕はユエの店に向かう。
副都に行く事を告げる事とその副都にある店の詳細の地図を貰う為に。
護衛としてカーミラとルーティを連れて行く。
宿を出てそれなりに歩くと『鳳凰商会』の店の前まで来た。
店に入ると、ユエが店番をしていた。
「あれ、ユ、じゃなかったディアーネ会長」
「おや? リウイ殿ではないか。おはよう」
「おはよう。会長自ら店番ですか?」
「初心を忘れない様に偶に店に立つ様にしているのだ。客との触れ合いはそれだけで色々な情報が手に入るからな」
「成程。ディアーネ会長らしいね」
「ところで、リウイ殿は何の用で来たのかな?」
「ああ、実は」
僕はユエに公都を発つ予定日とどのルートで行くか教えた。
「ふむ。そのルートで行くのか?」
ちょっと驚いた顔をするユエ。
「問題あるかな?」
「いや、其方なら時間が掛かっても安全な道を行くか。もしくは、多少魔物が出ても時間が掛からない道を行くのだと思っていたから、少し驚いている」
そう言われてみるとそうだな。
どうして、その道を選んだんだと聞かれても正直に言って何となくで決めたからな
そう、ただ何となくこの道を通ったら良いと思ったのだ。




