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第75話 これはどうするべきか

「どうかしましたか?」

 リリムの顔を見て驚く僕をリリムは不思議そうに見ている。

 落ち着け。此処は冷静にならないと駄目だ。

 ここで「久しぶり」と言ってもリリムは何を言っているんだこの人みたいな可哀そうな目で僕を見るのは目に見えている。

 なので、此処はリリムの顔を見て驚いた風に装う。

「い、いやぁ~、墓の掃除をしている人がこんなに綺麗な人だと思わなかったので驚いています」

 事実、リリムが墓守をしているのは驚いた。

 傭兵をしているか何処かの国に仕えているのかのどちらかだと思っていた。

「ふふ、此処の墓に来て皆そう驚きますね」

 リリムは慣れているのか微笑むだけであった。

 しっかし、こう見ても千年前と全く変わらないな。

 刃の様に鋭い切れ長の瞳。赤みがかった射干玉の髪を後ろで一つに纏めている。

 女性にしては高い身長で、今の僕だったら見下ろされている感じだ。

 豊かな胸部。柳の様に細い腰。桃のような豊かな臀部。

 見事なプロポーションを持っている上に身長も高いので領地では「お姉様」と言われていた事を僕は知っている。噂では本人非公認の親衛隊まであるとかないとか。

 あくまで噂だし、もう千年も前の事なので真偽は程は分からない。

「あの、地図を見て来たのですが。此処が初代公王と公后様の墓なのですか?」

「ええ、そうです。初代公王陛下の墓です」

 うん? 何故セリーヌ王女の墓でもある事を付け加えないんだ?

 まぁ、良いか。

「お参りをしてもいいですか?」

「ええ、ご案内します」

 リリムが案内してくれると言うが、別に直ぐ傍に卒塔婆があるので案内する程の者ではないのだが。

 僕はリッシュモンドを見る。

(どうする?)

(案内したいと言うのであればさせれば良いのでは?)

(そうだね)

 目だけで会話した。

「じゃあ、お願いします」

 僕が頭を下げると、リリムは「どうぞ」と言って先を歩いたので僕達はその後に付いて行った。

 卒塔婆の傍に来ると、僕は傍まで寄って何と書かれているか見る。

『初代公王イノータ・ノブヤス・フォン・ターバクソン此処に眠る』

 と書かれていた。

 隣の卒塔婆も『初代公后セリーヌ・テシュオス・ロンバルディア此処に眠る』と書かれていた。

「初代公王にしては随分とつつましやかな墓だな」

 と言いつつ僕としては十分に立派な墓だと思う。

 もし、遺言を残せる状態だったら、こんな墓にしてくれと言い遺しただろうな。

「生前の公王陛下は金を使う時は使いますが、それ以外の時は倹約するという倹約家な所がありましたので、家臣の者達が墓を作るという話になった時にこのような墓にする事したのです」

 流石は僕の家臣達だ。僕の好みがよく分かっているな。誇らしいね。

 僕は墓の前で手を合わせて、セリーヌ王女に謝る。

 夫らしい事を何一つしないで死んでごめんね。

 僕の子供を立派に成長させてありがとう。

 心の中でそう思った。

「……さて、帰るか」

「はっ」

 僕達は宿に戻ろうとすると、リリムが前に立ちはだかった。

「何か?」

「…………」

 リリムは何も言わないで僕をジッと見る。

 そうしてジッと見られていると何事かと思い、思わずリッシュモンドと顔を合わせる。

 すると、突然。リリムはその場で跪いた。

「何を⁉」

「この千年の間、再びお会いする時をお待ちしておりました。我が主君ノブ(・・)ヤス(・・)様」

 リリムの口から前世の僕の名前が出て来た。

 そうリリムには他の十傑衆と違い、普段から僕の本当の名前を呼ぶ様にしていた。

 別にイノータでもノブヤスでも好きに呼んでくれと頼んだのだが、殆どの人は「男爵様」「イノータ様」と呼んでいた。

 そんな中でリリムだけ僕の事を「ノブヤス様」と呼んでくれた。

 と言うか、今はそんな事はどうでも良い。僕はまだ名乗ってもいないのにどうしてわかったんだ⁈

「ふふ、リッシュモンドが人に仕えている時点で、その方はもうノブヤス様しかいません」

「えっ⁉ どうしてリッシュモンドだって分かったんだ⁉」

 死人だとバレない様に仮面を被っているのに。

「死人には死人特有の気配がありますから。幾ら仮面で隠しても分かりますよ」

 気配で分かるとか最早達人だな。

「それに」

「それに?」

「……いえ、女の勘ですよ」

 女の勘ね。案外侮れないな女の勘。

「バレたら仕方がないか。そうだよ。久しぶりだねリリム」

「はい♥ ノブヤス様」

「それにしても、分かっているのなら最初から言ってくればいいのに」

「ふふ、長い間会えるのを楽しみにしていたのですから、これぐらいはしてもいいでしょう」

 微笑むリリム。

「ところで、どうしてノブヤス様は魔人族の御姿に?」

「ああ、それはね」

 僕はリリムに転生して今迄の事を話した。

 リリムがリウイが転生した猪田だと分かった理由。


 とある日の夜。

 ターバクソン男爵領にある領主の館。

 その館にある領主の寝室にて。

「zzzzzz」

 猪田はぐっすりと眠っていた。

 その寝室のドアが音もなく開いた。

 開いた扉から人影が音もなく猪田の部屋へと入り込んだ。

 人影はそのまま音もたてずに猪田のベッドまで近づいた。

 人影が猪田のベッドまで来ると、窓から月の光が差し込んだ。

 月光により、人影の正体が分かった。リリムであった。

 リリムはそっと猪田の顔に手を近付かせて起きているかどうかを確認させた。

「……大丈夫眠っているわね」

 猪田が眠っている事を確認すると、リリムは猪田の寝顔を見る。

「ふふふ、可愛い寝顔。何時までも見ていたいけど、今日は別件の用事があるから、それはまた今度」

 リリムは唇の端を噛んで血を流させた。

 その血を舌で舐め取り口の中に含む。

 そして、今度は自分の顔を猪田の顔に近付けて唇と唇を重ねた。

「……ンチュ……」

 リリムは唇を重ねると血を含んだ唾液を舌に乗せて猪田の口の中に流し込んだ。

 無意識なので眠っている猪田は流し込まれた唾液をそのまま嚥下した。

 それを確認すると、リリムは手の平に小さな魔法陣を展開した。

 その魔法陣を猪田の胸元に置くと、魔法陣は猪田の身体に吸収されていった。

「ふふふ、これで儀式は完了。これで『永劫(エーヴィゲ) 回帰(ヴィーダークンフト)』は発動しているわ♥」

 『永劫回帰』

 これは魔人族に伝わる魔法儀式。

 この儀式は込められた魔力の量によって効果が変わる。

 少なければ現世で何があっても離れる事が出来ない程度だが、多ければ来世になってもまた会えるという感じの魔法儀式。

 リリムは更に己の血を触媒にしつつ魔力を大量に込めた。

 触媒を使い魔力を込めた効果は、何度生まれ変わっても再び会えるという効果になる。

 リリムは猪田の頬を愛しそうに撫でながら呟く。

「貴方は人間。わたしは天人族と魔人族との混血。貴方の方が先に寿命が尽きるでしょう。でも、大丈夫ですよ。例え死んでも、生まれ変わった貴方を見つけてまたお仕え致しますわ。例えどんなに醜い種族に生まれ変わっても見つけてあげますわ♥」

 リリムはそう言って猪田の頬に唇を押し付けた。

「心の底から愛しています。ノブヤス様♥」

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