第73話 友達とは有り難いものだ
部屋に閉じこもってから数日が経った。
ドア越しに皆声を掛けてくる。返事はするけど、部屋から出ようとはしない。
というかこの部屋から出たらまたとんでもない精神的ダメージが僕を襲うのかと思うと出て気を失う。
そう思うと出る気が無くなる。
ううっ。前世で行った事だけではなく行っていない事まで功績になっているとか、どう考えても誰も想像できないだろう。こんな事になるのだったら領地なんかもらわなければよかった。
「ふふふ、まさか転生するとか誰も想像してなかっただろうからな。仕方がないと言えば仕方が無いのかな……」
とは言え、これはくるものがあるな。
速くダイゴク達とユエは来ないかな?
そう思っていると、ドアがノックされた。
また、ティナが僕を部屋から連れ出そうとしているのかな?
その気持ちは有り難いのだけど、正直に言って暫くは外に出たくない。
「誰?」
僕がそう尋ねても、ドアの向こうにいる人は何も言わない。
そして、またドアをノックしだした。
これはドアを開けないと分からないな。
仕方がないので僕はベッドから降りると、そのままドアを方に向かいドアノブに手を掛ける。
「誰?」
「ふむ。思ったよりも元気そうだな。ノブ」
ドアの向こうに居たのはユエだった。
「ユエ‼」
思わず僕は抱き付いた。
「おっ、どうしたいきなり?」
「いや、何か久しぶりにユエに会えて嬉しくて、つい」
「そうか。ふっふふ」
ユエは何も訊かないで僕の背に手を回して背中を撫でる。
「とりあえず、部屋に入れてくれないか?」
「うん」
僕はユエから離れると、部屋に入れた。
部屋に入ったユエはベッドに腰掛けると、隣に座る様に手で叩いた。
僕はそれに従い腰掛けた。僕が隣に座ると、ユエは頭を撫でる。
「わたしが此処を薦めない理由が分かったか?」
「うん」
「副都にある一等地にお前の店を開けるようにした。何時でも店を開けるぞ」
「うん。でも、まだ合流していない人達がいるから、その人達と合流してから副都に行くよ」
「そうか」
ユエはそう呟くを僕を自分の胸元に引き寄せた。
「まぁ、お前のしてきた事がこうして評価されていると思えば少しは気が楽になるだろう」
「そうかも知れないけど。せめて歴史書に書かれるぐらいで良かった」
「わたしも劇の題材になったり銅像を作られたりとしったのはこの世界に戻って来てからだったよ」
「そうなんだ」
「驚いた事に、わたし達の世界とこちらの世界は時間軸が違ってな。わたし達がこの世界に来た時は、王国が滅亡してお前の孫が公国を作るという所だったからな。銅像を作るのも反対すら出来なかった」
「・・・・・・それじゃあ仕方がないね」
「お前がそう言うのならそれでいいがな」
「こうして評価されていると思えば良いと思う事にした」
「そうだ。昔からお前は切り替えが早いから大丈夫だろう」
「でも、何か自分がした事が今の人達に称賛されるのは心に来るものがあるよ」
「其処は慣れろ」
「時間かかるよ」
「何、ゆっくり時間を掛けても構わないだろう」
ユエは何も言わず僕を頭を撫でながら歌を口ずさむ。
中国語なので歌詞はどんな歌なのか分からないが、ユエの歌声を聞いていると不思議と落ち着いていった。




