第72話 今なら分かる
僕達は『歴代公王の名言の壁』を離れて宿へと戻る。
その宿へと戻る道すがら遊んでいる子供達の声が耳に入って来る。
「「もんだいないさ~、もんだいないさ~、ぜんぶわたしにまかせてれば、なにももんだいないさ~」」
童歌で歌われているのは僕の名言の中にある言葉を歌にしたものだろう。
そんな歌を聞く度に心が痛い。
同じ言葉なのに聞く人によって言葉の取り方が違うというのがヒシヒシと分かる。
何で『問題ない?』って言ったのに『問題ない』って感じになるんだよ。
しかも、それが『わたしに任せておけば何も問題ない』みたいな感じに意訳されるんだよ。
普通に有り得ないだろう。
自分と関係ない事まで自分の功績のように言われている気分だ。
ああ、運命の夜の外典に出て来たとある公国の王でドラキュラのモデルにもなった人もこんな気分だったのかな?
あっちはどちらかと言うと穢されただけど、こっちは関係ない事まで持ち上げられている感じだな。
まぁ、どちらにしても無知だからこんなになったんだろうな。
「転生して前世の自分がした事に知ろうと来ただけなのに。ここまでとは」
このままこの都に居たら精神的ダメージが計り知れないな。
ユエが戻って来たら副都で用意してもらった所に行こう。其処だったらここよりも静かだろう。
「って、しまった⁉ ダイゴク達と別行動を取っていたんだっ。公都で合流しようとって話をしていたから、ダイゴク達が来るまでこの都に居ないいけないのかっ」
その場で頭を抱えたくなった。
こんな所に暫く居ないといけないなんて地獄だ。
くそっ。これだったら野山でサバイバルしていた方が遥かにマシだ。
「リウイ。大丈夫?」
「お加減が悪いのですか?」
「無理しないでくださいね?」
ティナ達は僕の身体を気遣う。
「・・・・・・・」
カーミラは僕を見て何も言わない。
何でこんなに苦しそうなのか分からないからだろう。
まぁ、この気持ちは僕みたいな転生者じゃないと分からないだろうな。
そう思いながら歩いていると、ようやく宿に着いた。
「・・・・・・暫く一人にして」
消えそうな位に皆に言って僕は自分の部屋に引っ込んだ。
部屋に入ると、僕はベッドで体育座りした。
「次に生まれ変わったら、今度は岩になりたい・・・・・・」
思わずそう呟いた。
でも、ただ観光していただけなのにとんでもない精神ダメージをくらった気分だ。
もうユエが帰って来るかダイゴクが帰って来るまでこの部屋からなるべく出ないようにしよう。




