第69話 此処は地獄か?
ユエが取ってくれた部屋は三階で、部屋も数十人分取ってくれた。
ただ、アーヌル達は身体の大きさで入る事が出来ないので申し訳ないが、厩に居てもらう事になった。
この宿の厩は広く清潔なので問題ないだろう。幸いなのか、今厩を使う客は居ないのでガラガラで使っても問題ないそうだ。
従業員に案内してもらい、僕達はそれぞれの部屋に入る。部屋は一人部屋で皆喜んでいた。
まずは荷物を置いて一休みする僕。
荷解きを終えてベッドで休んでいると。ドアがノックされた。
「誰?」
『あたし。入っても良い?』
「どうぞ」
ドアを開くとティナ達が入って来た。部屋に入るなり部屋の中を見回す
「此処もあたしの部屋と変わらないわね」
「宿だからこんなものだよ。ところで、何か用?」
「ああ、うん。今日は何もする事が無いのでしょう?」
「そうだね」
「だったらさ……一緒に観光しない?」
「別に良いけど」
「本当⁉」
「何で、嘘をつくのさ」
「そ、そうよね。じゃあ、早速」
「他の皆も誘って観光しよう」
僕がそう言った途端、明るい顔から一転して嫌そうな顔をしだした。
「どうかしたの?」
「ううん。別に」
頬を膨らませ顔を背けるティナ。
「本当に?」
「知らないっ」
顔を背けるティナ。プンスカと怒っているようだが、何でだろう?
部屋を出ると、皆に観光しないかと声を掛ける。
それで一緒に行くと言ってくれたのはソフィーとカーミラとアマルティアの三人だった。
他の皆は休みたいそうだ。
ちょっと意外だったのはソフィーも付いて来ると言った事だ。
「珍しいね。ソフィーも付いて来るなんて」
「娘がはしゃいで迷惑かけないか心配でして」
「お母さんっ。あたしはそんなに子供じゃないっ」
「はいはい」
文句を言うティナを宥めるソフィー。
「ティナ。文句を言わないで、早く行くわよ」
「そうですよ。早く行きましょう」
カーミラとアマルティアが催促したので、ティナは文句を言うのを止めた。
そして、僕達は宿を出た。
出る際、受付から都の地図を貰った。
貰った地図を広げて見る。
「ええっと、まずは何処に行く?」
「まずは名所でしょう。一番の名所に行きましょう」
「一番の名所だと。……ここだね。『歴代公王の名言の壁』?」
何だ。こりゃ?
「ふ~ん。昔の人の言葉が記されているでしょうね」
「どんな事を書かれているのかしら」
「そうね」
「じゃあ、行きましょう」
僕達はその『歴代公王の名言の壁』に向かう。
宿を出て少し歩くと、何か色々な露店があった。
「さぁさぁ、初代公が発案したラドラ―はどうだい? 初代公王も好んで飲んだ飲み物だよっ」
「こっちは初代公王自らが作ったと言う白い腸詰だっ。パンに挟んでも良し。ラドラーと一緒に食べても良しの食べ物だよ」
「其処のお嬢ちゃん。これはどうだい? 初代公王がエルフと共同で作ったと言われるレインボー・パピヨンの幼虫の生糸から作った服は。今なら銀貨三枚だよっ」
色々な露店は色々な商品を売っているのだが、ハッキリ言って嘘つくなっ。
ラドラーなんて一度作って女性受けは良かったけど、僕は好んで飲んでいないわっ。
更に言えば、その白い腸詰なんか僕が作る前にあったわ!
そのレインボー・パピヨンの生糸で作った服もエルフが元々作っていたけど製法の仕方が大量生産出来ない仕方だったので僕が教えただけだ‼
と言いたいけど、何でそんな事を言えるんだ?と聞かれたら何も言い返せない。
僕の前世がその初代公王だと言っても、皆鼻で笑うだろうからな。
くううっ。言いたいけど言えないこのジレンマ。精神的にキツイな。
「ねぇ、あれって何?」
ティナが指さした先にある建物は見る。
「ええっと。あれは劇場だね」
建物の看板に『グランデ劇場』と書かれていた。
そう言えば、此処がまだ都市だった時に王都から劇団が来て、劇場を作って欲しいと嘆願してきたので最初は小さい劇場を作ったな。それで劇場の名前をつけてくれと言われて大きい劇場になれと言う意味を込めてこの名前にしたな。まだ千年経ってもあるんだ。凄いな。
そう驚いていると、今日の劇のリストを見る。
『初代公王とドワーフとの生命の水の誓い』
『初代公王とエルフ姫将軍』
『黄金を錬成し者』
『貴方の為ならどこへでも向かう馬になりましょう』
『勇翼の邪毒龍を飼う者』
「ぐはっ⁈」
リストを見た瞬間。言いようもない衝撃を受けた。
「リウイ⁉」
「大丈夫ですか。リウイ様⁉」
その場で崩れ落ちそうな僕を支えるソフィーとティナ。
「だ、だいじょうぶ・・・・・・んぐっ」
こ、心が痛い。このリストの元になった話全部覚えがある。
まさか、こうして演劇に使われるとは。
脚本家は何処だ‼ 誰の許可を得て話にしたんだ‼




