第67話 報われないな
初代公王像というとんでもない物を見て精神的ダメージがとんでもない状態でユエの店へと向かう。
「そう言えば前世で読んだ本で伊達政宗が『たとえ病で失ったとはいえ、親より頂いた片目を失ったのは不孝である』という考えがあったから、死後に作られた像は全て右目があるって書いてあったな。僕も死んだ時の事を考えて、もし像を作る事があれば生前と同じ体型で造れとか遺言で残しておけば良かったかな・・・・・・・」
でも、どっちにしても僕の像は作られるのか。
それだったら僕の死後は像を作るなとを遺言した方が良かったのかな?
もう、分かんないや。
馬車に引っ込んで体育座りをする。
「へぇ、ここが公都か」
「随分と栄えているわね。魔都よりも栄えているかも知れないわ」
「それはそうでしょう。何せ異世界から来た大賢者でもある初代公王イノータ・フォン・ノブヤス・ターバクソン様が入植して築いた都市がこの公都だそうですよ」
「へぇ、その初代公王って異世界から来たんだ」
「ああ、それは俺も知ってるぜ。何でも魔人族との戦いで異世界から召喚された渡来人達の中で『四英雄』の一人に数えられている人だろう」
「「『四英雄』?」」
「あっ、そうか。ティナ嬢達は知らないか。当時の魔人族の王を倒す為に渡来人達が特攻を仕掛けた。その時に魔王の下に向かった四人の渡来人達の事を『四英雄』って言うんだ。最もその四人の中で正確に名前が分かっているのは初代公王だけで他は名前の一部しか伝わっていなんだ」
「へぇ、そうなんだ」
ティナはあまり興味が無い顔をしていた。
「あっ、そう言えば。ティナ嬢とボス達は魔人族でしたね。自分達を追いやった者達の話をしたら不愉快でしたね」
「別に良いわよ。あたし達が生まれる遥か昔の事だし未だに魔人族憎しって思っている人はそう多くないでしょう」
「まぁ、そうですね」
「リウイもそう思うでしょう?」
「・・・・・・」
「リウイ?」
「ああ、ごめん。ところで、その『四英雄』の他に名前が知られている人っているの?」
「そうですね。他には、・・・・・・ああもう一人だけ有名なのが居ますね」
「どんな人?」
「いえ、こいつはね。渡来人達の中で悪名高い人物と言われている者なんですよ」
「どんな事をしたの?」
「こいつはね。戦争でも内政でも役に立たないわ。その分自尊心が強い性格だったそうです。更には初代公王が魔王を倒した時に後ろから公王を殺して自分の手柄にしようとした酷い奴なんですよ」
「うわぁ、それは凄いクズね」
「何の役に立たないのに自尊心が強い性格ですか。扱いが大変でしたでしょうね」
「その上、人の手柄を自分の物にするとか見下げ果てた奴ね」
ティナ達から散々酷評されている。
最初誰なのか分からなかったけど、最後の前世の僕を殺した奴という話を聞いてそれが誰なのか分かった。
「で、その人の名前は?」
「アマギ・ノブナリ。又の名を『罪人アマギ』とか『公王殺し』という異名を持っている男です」
その名前を聞いた瞬間。僕は目を瞑った。
生きていた頃は好きな人にを振り向かせようと頑張っていた。それに性格は悪い人ではなかった。
下心はあったけど、前世の僕とも親しくしてくれた。
まぁ、この世に完全な善人も完全な悪人も居ないだろうけどさ。
それでも彼は頑張っていた。それに見合う成果は出なかったけど。
正直に言って前世の僕を殺した事については恨んではいない。前世の事でもあるし、何よりもそこまで思いつめさせたのは僕だ。
僕が少しでも早く椎名さんに返事をしていたら変わっていたかもしれない。
そう思うと恨む気持ちなんか微塵も浮かばない。
「死んでも悪名がついているとは浮かばれないね。天城君」
墓があるのなら花は供えたいな。前世で数少ない同性の友人だったから。
前世で猪田が同性の友人が出来ない理由。
理由1
猪田「だろう。でさ」
友人A「マジで笑えるっ」
猪田と友人が談笑している陰で。
椎名「むぅ、猪田君がわたし以外の人と話してる」
頬を膨らませる椎名。数日後。
友人A「ごめん。お前とは気が合わないわ」
猪田「えええっ⁉」
そう言って友人Aはその場を離れると椎名が近づいて来た。
椎名「ご苦労様」
友人A「なぁ、これで本当に家族は危険な目に遭わないんだよな?」
椎名「勿論よ」
椎名がそう言うのを聞いて、友人Aはホッとした顔で離れて行った。
椎名「猪田君の友達はわたしだけで十分だもんね♪」
そう言って笑顔で猪田に話しかける椎名。
理由2
猪田「此処の数式は此処をこうしたら良いんだよ」
友人B「おっ、これなら俺でも分かる。ありがとな」
猪田「どういたしまして」
猪田はそう言って友人Bに勉強を教えた。猪田と別れた友人Bは道を買ったコーラを飲みながら家への道を歩いていた。
友人B「あのイノブタ。勉強できてマジ助かるわ。これからも友達のフリしておくか。で、いらなくなったら、さいなら~。へへへ」
その話を影から聞いた張の父の部下は張に報告した。
張の父の部下「と申しておりました」
張「そうか」
張の父の部下「如何なさいますか。小姐」
張は何も言わず頬を撫でた。それを見た張の父の部下は一礼してその場を離れる。
数日後。
教師「ええ、突然ですが。○○君が家の事情で引っ越す事になりました」
猪田「あれ? この前勉強教えた時はそんな事を一言も言ってなかったのに?」
首を傾げる猪田。
張「何でも家にトラックが突っ込んできて家族全員病院送りになったそうだぞ」
猪田「物騒だね。でもユエは良く知っているね」
張「朝のニュースでやっていたぞ。ノブ。それとここら辺の病院の設備では治療できないから治療できる病院がある所に引っ越すそうだ」
猪田「それもニュースでやっていたの?」
張「ああ、そうだ」
猪田「そっかぁ。お別れの挨拶ぐらいはしたかったな」
張「なに、大丈夫だ。わたしの家の関係者の病院に入院するそうだから。気が向いたら会いに行こう」
猪田「そっか。じゃあそうしようね」
ホッとした顔をする猪田。それを見て張は微笑んだ。内心、これで良しと思いながら。
理由三
友人C「なぁ、猪田。お前って真田と親しいんだろう?」
猪田「うんそうだよ」
友人C「今度、真田を呼んで遊ぼうぜ」
猪田「別に良いけど」
友人Cは内心で良し、これで真田と親しくなる事が出来ると思っていた。
猪田と友人Cが話しているのを近くで見る真田。
真田「アイツ。ノッ君に近付いてわたしと親しくなろうという魂胆が見え見えだし」
そう言った数日後。
教師「ええ、昨日○○君が通り魔に襲われて全治半年の重傷を負って病院で入院中です。皆さんも下校の際は十分に注意してください」
猪田「通り魔か。怖いな」
真田「ほんとうだね~。ノッ君。危険だから一緒に帰ろう」
猪田「別にマイちゃん一人でも良いと思うけど?」
真田「か弱い幼馴染を放って行くの? 酷い! 薄情者!」
ハンカチを噛んでさめざめと泣く真田。
それを見て、周りの男子は猪田を睨む。
猪田「・・・・・き、きょうはいっしょにかえろうか?」
真田「うん。流石は幼馴染だね。ノッ君」
真田は心底嬉しそうな顔をする。
その顔を見た男子達は心の中で。
「「「「やっぱり、あいつは好きに慣れねえェェェ⁉」」」」
黒川「なぁ、猪田」
猪田「なに?」
黒川「お前って同性の友達は居るの?」
猪田「うっ。……昔は居たんだけど、今はいないんだよね」
黒川「何で?」
猪田「さぁ?」
黒川と猪田は首を傾げた。




