第66話 製作者に会わせろ!
途中、鐘の事があったけど道のりは順調に進み。
後少しで公都に着く所まで来た。
「もう少しで公都に着くのか」
ペットの餌の時間を教える鐘が千年も経つと時報になるのは驚いたけど、他は流石に無いだろう。
と言うか、他に何か作ったかな?
「鐘以外だと…………識字率を高める為に教室を作ったぐらいか? 後は食文化を発展させた事ぐらいかな。他は……」
「どうかしましたか? 若様」
「いや、何でもない」
前世の事を思い返していると、クレハが僕の様子が妙な事に気付いて声を掛けて来た。
まぁ、鐘みたいな事はもう無いだろうから大丈夫だろう。
「そうですか。調子が悪いのであれば言って下さいね」
「うん。分かった」
とは言っても、前世の事が原因と言っても誰も信じてくれないだろうから。誰にも言えないのだけどね。
そう話している内に、公都の門の所まで来た。
門は開いているのだが、都に入ろうとする人達が列をなしている。しかも、魔法を使って検査をしているので時間が掛かっているようだ。
「これは時間が掛かりそうだね」
「そうですね。もう初代公王像も見えていると言うのに」
「初代公王像?」
「あれですよ」
クレハが指を差した先には開いている門の奥に結構大きい物が見える。
「此処からだと遠いからかうっすらとしか見えないな」
「公都の四方の門には来訪した者達を出迎える『初代公王の像』があるのです」
「へ、へぇ~、そうなんだ」
誰だよ。そんなの造ったの⁈
「四つある像は魔獣に騎乗しているのですが、それぞれ違うのですよ。北門はベヒモス。東門はグリフォン。西門はケルベロス。南門はガルダに騎乗しているそうです」
うわ~、全部前世で僕が飼っていたペットじゃないか。
ちなみに残りの二匹はアジ・ダハーカという三つ首の龍とマンティコアだ。
どんな像なんだろうか気になるな。
そう思いながら列に並んでいると、あっという間に僕達の番になった。
見張りで検査している兵士の人達の対応はクレハがしてくれた。
それでなのか分からないが直ぐに公都に入る事が出来た。
門を潜り進んでいくと、その初代公王の像が見えて来た。さてさて、どんな像なのやら。
興味本位で僕は見る。
「……………………」
言葉を失った。
入って来たのは東門だったのでグリフォンだった。
像のグリフォンはそれはもう精巧に作られていて、今にも動き出しそうな位だ。
これで像に魔力を込めればゴーレムかグリフォンの形をしたガーゴイルになるんじゃないのかと思える出来だ。
それはまだ良い。前世で飼っていたグリフォンを忠実に再現している。其処は良いんだ。うん。
でも。僕の方は駄目だ。
何が駄目って、顔が全然似てないしその上こんなに痩せていない!
更に言えば、何だこのポーズは⁈ 右手がVサインをしている⁉
意味不明なんだけど。
そう思って見ていると、格好からして僕達と同じく旅をしてこの都に着いた人が像の傍で掃除をしている人に訊ねていた。
「なぁ、どうして初代公王はこんなサインをしているんだ?」
「ああ、それはですね。初代公王はよく人にこんなサインをしていたので、像を作る時にこのサインをする様にしたと聞いております」
「どんな意味を持っているんだ?」
「言い伝えですと、初代公王がこのサインを見せる時は「問題ない」と言っていたそうですので、それでこのサインは「私に任せておけば全て問題ない」という意味だと言われております」
「成程」
そんな訳があるか‼
このサインは予算で問題が出た時に二倍で問題ない?という意味を込めてしただけだ!
何でこんな風に伝わっているの?
「あ、あああ…………」
とりあえず言える事は製作者出て来い‼
サインの真相。
猪田がまだ領地運営をしていた頃。
リッシュモンド「イノータ様。こちらの予算の事ですが」
猪田「(二倍くらい出しても)問題ない?」
リッシュモンド「はっ。問題ないかと」
それを見た部下「あのサインは問題ないという意味なのか」
その後、イノータが戦死して立てた功績を称えて像を作る話になった。その話を聞いた部下は、サインの話を友人である像を製作する者に話した。
部下「という訳で、イノータ様の像には全てこのサインをしてくれ。これで問題ないだろう」
と言って、自分もVサインをした。
像の製作者「分かった。それで問題ない」
その製作者も真似てVサインをした。




