第64話 悪いけど
僕の前に縄で縛られた人達が座っている。
「これで全員?」
「ハッ。他ハ死亡ヲ確認シテイマス」
「そうか。じゃあヨットエルフ達と一緒に周囲の探索をしてくれる」
「ヤー」
アーヌルはそう言って、周囲の探索に向かった。
「さてと」
溜め息を吐きながら僕は目の前に座っている人達を見る。
身なりを見た所、薄汚れて裾などが傷ついた服を着ている。
使っている武器もかなり使い込まれており年季が入っていた。
どうみても盗賊だよな。
そんな盗賊達の中で、少しだけ身なりが良い人がいる。無論『ファンへ商会』の会頭の息子のジャイジェンだ。
どうして、こんな人達の中に居るのだろうと思っていると。
「おい。お前。『ヨドン』でパパの店を破産させた奴だろうっ」
「う~ん。あれは、僕では無くて貴方のお父さんの店を襲った盗賊の仕業だと思うのだけど」
その盗賊に指示したのは僕だけどね。
証拠になる物は残してないので、犯人になる事はない。
「嘘だっ⁉ じゃなかったら、パパの店は潰れる筈がないんだっ」
「と言われてもな~」
どっちにしろ。この人達はどうしたら良いかな?
そう思っていると、ダイゴク率いる第二陣が追いついてきた。
「若。どうかしたのですか?」
「ああ、実はね」
今迄起こった事を話した。
「成程。だったら、簡単です」
ダイゴクは腰に差している刀を抜いた。
「後腐れなく皆殺しでいきましょう」
「「「「ひいいいいいっ⁉‼」」」」
ダイゴクが刀を構えると、ジャイジェン達は悲鳴をあげる。
う~ん。流石に捕まえてから殺すのは少々心が痛むな。
そう考えていると、ハヌマーンが口を開いた。
「では、第二陣の者達はジャイジェン達と一緒に『ヨドン』に戻るというのは如何でしょうか?」
「『ヨドン』に?」
「はい。盗賊をしているのですから懸賞金は出るでしょうし、それにジャイジェンは金貸し達が探している筈ですから、渡せば喜ばれるでしょう」
「ああ、それが良いね」
盗賊なんかするんだ。下手に温情掛けたら、また盗賊になりそうだからな。
その場合。他の人に被害が出るかもしれないからな。此処は心を鬼にして。
「じゃあ、そういう訳で。ダイゴク。ジャイジェン達を連れて『ヨドン』に戻ってくれるかな?」
「それは構いませんが、そうなりますと若達は暫く公都にいてもらわないといけなくなりますよ。それで構いませんか?」
「僕は構わないよ。その公都というのは栄えているのだから観光するのは良いだろうし」
「まぁ、そうですね。若がそう言うのであれば暫くは公都に居て下さいね。連絡手段としてクレハとクレハの部隊と行動してください」
「分かったよ」
「じゃあ、移送の準備を整えますね」
そう言ってダイゴクは部下に指示して、部下達はジャイジェン達を運んで行った。
僕の方はクレハ達と合流して移動の準備を進めた。
そして、僕達は二手に別れた。
後にこの決断は間違っていた事を僕は知った。




