第56話 何かの風習なのだろうか?
翌日。
今日は祭りの最終日という事で、気を緩めないで頑張ろうと気合を込める。
昨日みたいにVIPが来る事はないだろう。
こられても流石に困るけどね。
昨日は店に居たので、今日は露店の方で頑張るつもりだ。
店の事はリッシュモンドとソフィーに任せて、僕は護衛役のティナとルーティを連れて露店がある所に向かう。
「うん? 何だ。あれは?」
「どうかしたの?」
ルーティが目を向けた先を怪訝そうに見ている。ティナと僕は気になって目を向けた。
バシャ。バシャ。
パシャン。パシャン。
バシャーン‼
何か店の前で打ち水をしている人達が居る。
この都市にそんな事する風習があったの?
というか、中にはバケツの中の水を掬う物で掬わないで直接地面にぶちまけている人がいるけど、何か意味があるのか?
そうして見ていると、商人風の人が打ち水をしている人に声を掛ける。
「なぁ聞いても良いか?」
「はい。何でしょうか?」
「どうして、水を地面に掛けているんだ?」
「これはですね。昨日、この方法をしていた店にですね。イストリア帝国の皇族の方々がやって来たって話を聞きましてね。その御利益を授かろうと思ってしているんですよ」
「本当なのか? イストリア帝国の皇族が来たって?」
「友人から聞いた話だと、何でもその店に来た馬車にはイストリア帝国の国旗を付けている上に、皇家の紋章が付いていたそうですよ」
「皇家の紋章と言うと『双頭の狼』か?」
「ええ、そうです。友人の話だと出て来たのは母后様と皇帝陛下の第一夫人と第二夫人と皇妹殿下のイレース・スルタンだそうなんですよ」
「おいおい、本当か? 母后と皇帝陛下の第一夫人と第二夫人だけじゃなくて、あのイレース・スルタンも来たのは⁉」
「友人の耳にはハッキリとそう聞こえたそうです」
「イレース・スルタンって言えば皇妹というだけではなくて帝国の将軍の一人で『剣舞の姫将軍』と言われている御方じゃないか⁉」
「そうなんですよ。多分、母后と第一夫人と第二夫人の護衛役で付いてきたんでしょう」
「凄い顔ぶれだな」
「ええ、その話を聞いた人達は少しでも後利益をあやかろうとこうして水を撒いているのです」
「成程な。ちなみに、その店は何処にあるんだ?」
「この道を真っ直ぐ行って角を左に曲がった所にある看板の無い店ですよ」
「そうか。助かるっ」
話を聞いて、その人は僕に店へと向かった。
「帰りにうちで何か買っていってくださいね~」
その人の背に声を掛ける。その姿を見ていると商魂たくましいなと思った。
打ち水を真似るのは良いけど一つだけ言いたい。
「バケツの水をそのままぶちまけるのは止めた方が良いと思うな」
「ですね」
「あたしもそう思う」
ルーティもティナも僕の言葉に同意するかのように頷いた。
少しして露店に着くと、結構な人が並んでいた。
商品も人気のようだが、何となく昨日のイストリア帝国の皇族の人達が来たという話を聞いて並んでいるのだろうなと思う。
まぁ、人気があるのは良い事だ。
僕は今日の露店担当のハダ達の手伝いをした。
やがて、夜になり祭の終わりを告げる鐘が鳴った。
ようやく終わった祭りに、息をつく僕達。
「おわったね~」
「今日も疲れましたね」
「全くね」
僕達は愚痴りながら後片付けをしていると、むこうから誰かがやって来た。
「若様。若様はおられますか⁉」
「クレハ? どうかしたの?」
「今、店に若様にお会いしたいという方が来ておりまして、直ぐに来てもらえますかっ」
「? 別に良いけど」
付き合いは短いが普段は冷静なクレハがこんなに慌ててる所を見ると、何かあったのか気になった。
店の後片付けを皆に任せて、僕はクレハと共に店へと向かった。




