第35話 何で、ここに居るんだろう?
「・・・・・・ああ、もう朝か」
僕は窓から差し込む朝日を見て、ようやく朝が来た事が分かった。
昨日、帰るなり椎名さんに一晩中追い駆けられ、僕は一睡もしていない。
今、僕が居る場所も自分の部屋ではなく厩舎だ。
椎名さんは何処に隠れても、見つけてしまう。
撒いて僕が入れるくらいの大きな置物の中に入って、やり過ごしたと思い出て数歩歩くと後ろから「み~つけた♥」と笑顔で言うのだ。
あまりの恐怖で悲鳴をあげて逃げ出す。
しかし、どれだけ逃げても撒けない。
もしかして、僕の体臭で分かるのかと思い、僕は匂いを隠すため厩舎で隠れてみた。
僕は自分の考えが合っているか分からず、一晩中ビクビクしながら隠れた。
ようやく、朝が来た事に喜んだ。
「とりあえず、部屋に戻るか・・・・・・」
一晩中厩舎に居たので、制服に厩舎の匂いがついているかもしれない。
部屋に匂い消しの香水がある筈だから、それを振りかけるか。
僕は厩舎を出て、自分の部屋に向かう。
向かう途中、椎名さんが現れないかビクビクしていた。
いきなり、僕の肩を叩かれた。体を震わせて、後ろを振り向く。
「おっはよ~、どうしたの? こんなに朝早くから、こんな所をうろついて」
そこに居たのは、マイちゃんだった。
思わず、僕は安堵の息を吐く。
「な、なんだ~、マイちゃんか~」
「マイちゃんか~とは、朝から随分な挨拶ね」
マイちゃんは拗ねたように頬を膨らませる。
「ごめんごめん。ちょっとした事があってさ」
「ちょっとした事ね。それよりも、ノッ君、なんか臭い」
マイちゃんは鼻を抑える。よほど臭いのだろう。
「ああ、これね。部屋に行って消臭の香水をかけてくるよ」
「じゃあ、ノッ君の部屋にゴー」
マイちゃんは臭い僕の腕を掴んで、僕の部屋に向かう。
途中、椎名さんに会うことなく、僕の部屋に着いた。
「入らないでね」
「分かってるから、早くその臭いを消しなよ」
僕はちゃんと施錠されているか確認した。
前に椎名さんがピッキングして開けたので、確認しなければ。
どこも異常はなかった。
僕は安心して鍵を回して、部屋に入る。
ドアを閉めて、一応部屋中を見回る。
誰もいない事を確認する為だ。部屋中を見回して、誰もいない事を確認して僕は息をつく。
本当は仮眠をしたい所だが、部屋の前にマイちゃんを待たせているので、僕はベッドの横サイドテーブルの上に置いてある瓶を取る。
この世界では、僕達がいた世界みたいにプシュと掛ける物はない。
瓶の蓋を開けて、少量手に取りそれを制服にかける。
この香水は直ぐに気化するそうだ。なので、量が少なければ濡れる心配はない。
制服に掛けた僕は、一応嗅いでみた。
「くんくん、別に変な匂いはしないな」
僕はようやく部屋を出る。
扉を開けると、そこにはマイちゃんと椎名さんが居た。
あまりの事で、僕は一度扉を閉じて、目をこする。
(昨日追い駆けられ過ぎた所為で、幻覚でも見ているのかな? 寝てないせいか変な物を見る様になったのかな?)
僕はもう一度開けると、マイちゃんと椎名さんが居た。
それと何故か、村松さんも居た。
(増えたっ⁉ 何で?)
僕はもう一度目をこするが、三人は居る。
「お、おはよう、マイちゃん、椎名さん、村松さん」
とりあえず、朝の挨拶だけする事にした。
「おはよう。猪田君」
「おっは~、元気ないけど大丈夫?」
昨日、そこに居る椎名さんに一晩中追いかけられたので、元気がないのです。
そんな事を言っても意味が無いので、僕は気になる事を聞く。
「村松さん、何で君がここに居るの?」
「う~ん、何か、椎名っちが何処かに行きそうだったから、付いて行ったらここに来ただけ」
「あっ、そうなんだ」
その後、何を話したらいいか分からず、黙っていたら。
グゥーとお腹の虫が鳴りだす。それも僕の。
「あっはははは、今日は早く起きたと思ったら、お腹が空いたから起きたんだ」
「イノッチは食いしん坊だねえ」
村松さんとマイちゃんは笑い出す。
「そ、そうなんだ。お腹が減ったから早く行こうよ」
「そうだね、早く行こうよ」
「あたしもお腹減ってるし、行こう」
二人は先に歩き出す。
僕もその後に続こうとしたら、椎名さんが僕の耳元に顔を近づける。
「昨日の事は、今度聞かせてね」
そう言って、椎名さんも先に行った。
僕は少し立ち止まり、先程言われた事を思い出す。
(・・・・・・どう言っても、修羅場になるな)
椎名さんにもう一度聞かれてもはぐらかすしかないなと思った。
僕は三人に少し遅れて、食堂に向かう。
食堂に着くと、見慣れないローブを来た一団が居た。
「何だろう?」
「さぁ、あたし達も分からない」
「ローブを着ているから、魔法を使う人じゃない?」
「魔法を使う。そんな人たちが何でここに居るんだろう?」
もしかして、僕達が食堂に来たら魔法について説明するのかなと思った。
でも、それなら説明する人は一人で良い。
団体で来る必要はない。
考えても分からないので、お腹が減っているので取りあえず僕達は席に座る。
何処に座ろうかと思っていたら、ユエが手を振っている。
丁度、五人掛けテーブルなので僕達はそこに座る。




