第45話 祭りか
この都市に来てから、結構な日数が経ったな。
そろそろ、ユエとも連絡が取れても良い頃なのではと思いつつ、店番をしたある日。
行商人が僕に話しかけて来た。
「店長さん。あんたも『海神祭』に参加するのかい?」
「何ですか。その『海神祭』ですか?」
「何だ。知らないのかい?」
「はい。この都市には少し前に来ましたので」
「そうかい。じゃあ、知らないか。教えてやるよ」
その行商人さんは祭りの事を事細かく教えてくれた。
何でも、この時期になると一年の漁の恵みを祝うのと新年を迎える為の祭りが行われるそうだ。
この時期になると、この祭り目当てにくる人も多いそうだ。
「それに今年は『ファンへ商会』が潰れたから、大儲けのチャンスと残った土地を目当てに他の都市に居る大店の商人達がこぞって参加するって話だからな」
そうなのだ。あの騒動の後『ファンへ商会』は立て直そうとしたが『鳳凰商会』の取引相手に難癖をつけたという噂がたって、仲良くしていた取引相手から縁を切られたそうだ。その上、事情拡大の為に金を借りていたようで、その金を返せなくなったので、従業員は店を去り、会頭親子は夜逃げしようとしたそうだが、風の噂で父親が借金取りの追手に捕まって奴隷落ちしたそうだ。息子の方は行方不明だそうだ。
「祭りに参加するのと、土地を目当てに来るのは違うのでは?」
「いや、祭りに参加して一番の売り上げを出した店には、この都市の好きな所で商売する権利を貰えるんだ。例年は露店から始まるんだが、今年は『ファンへ商会』が遺した土地があるから、もし、祭りで一番の売り上げを出したら、大店の店長になるんだぜ。誰でも励むだろう」
「成程。そういう訳ですか」
それは皆頑張るだろうな。
「んで、店長さんも参加するのかい。この店は小さいが、この都市の数ある商店の中でもかなり良い店だって噂だからな」
「はっはは、常連の方々からはこの店を良い店だと言ってくれますが、商品に力を入れている分、小さい店を構えるだけの力しかない店ですよ」
まぁ、商品の殆どは自作だけどね。
「確かに、売っている物は良い物だな。特にこの『七色糸』は凄いな。アラクネの生糸を色が付いているけど、染めてない。糸の段階から色が付いているって事なんだろうな。どうやって作ったんだい?」
「それは企業秘密という事で、ご理解を」
まぁ『翡翠糸』と同じく、バシド達に色々な宝石を食べさせただけ何だけどね。
ちなみにオパールを食べさせたら、こんな色になった。
この都市の近くにある山には鉱石と宝石がやたら取れる山があるそうだ。
大量に取れる為、この都市では宝石の価値は他の土地に比べて、グンと安い。
その内、狩猟班以外にも採掘班を作った方が良いかなと思っている。
「この祭りは人気があってな。他国の偉い人もお忍びで来るそうだぜ」
「へぇ、そうなんですか」
偉い人か。まぁ、僕の知り合いが来る事はないだろうな。




