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第34話 何故、こうなった?

「ぐすっ、・・・・・・・もう、だいじょうぶです」

 ようやく泣き止んだ僕は、鼻をすすりながら目をこする。

 しかし、エリザさんは僕の頭を撫でるのは止めてくれない。

「ふっふふ、まるで豚みたいに泣いていたわね。男の子なんだから、しっかりしなさい」

「ばい、あ、ありがどうございまず」

 鼻をすすりながら話しているので、くぐもった声で答える。

「ああ、鼻水が出てるわよ。ほら、これで鼻をかみなさい」

 エリザさんはそう言って、僕の鼻に布を当てて拭いてくれる。

 あまり知らない女性の指が僕の顔に触れるので恥ずかしかった。

「爺や」

「はい、お嬢様」

 エリザさんが呼ぶと、何処からか初老で執事服を着た人が現れた。

 この爺やという人は、先程からいる使用人達の中には居なかった

(何処から現れたんだろう?)

「風呂の用意を」

「既に済ませております」

「そう、じゃあこの子豚を風呂場に連れて行って」

「畏まりました」

 爺やと言われた人が一礼する。

「えっ、でも・・・・・・」

「そんな顔で我が屋敷から出られたら、我が家の恥よ。顔を洗ってきなさい」

「でも」

「いいから、行きなさい」

 それでも渋ろうとしたら、エリザさんが指を鳴らした。

 すると、爺やさんが僕を担いだ。

 それなりに重いのだが、爺やさんは気にする様子が見られない。

「イノータ殿、失礼いたします」

 そう言って、爺やさんは僕を連れていく。

 連れて行かれる場所は話を聞いた限りでは風呂場だと言っていた。

(貴族の風呂場かどうななのか興味があるな)

 それで連れて行かれた場所は本当に風呂場かと思った。

 見て思ったのは、ここは何処かの銭湯ですかと訊きたかった。

 それぐらい広いし、その上天井が凄い高い。

 何かの動物を模した口からは、お湯がとどめなく流れている。

「・・・・・・・王宮の風呂とはちょっと違うな」

 王宮の風呂は僕が住んでいる部屋に付いているが、お湯を張るタイプではなくスイッチを押すと天井に付いているノズルから、お湯が流れるタイプだった。

 なので、僕もそうゆうのだと思っていたが、違うので驚いた。

「でも、日本式のお風呂に入るのは久しぶりだな」

 僕は水を掬うものがないので、手酌でお湯を掬い体に掛ける。

 そしてお湯の中に入る。

「はぁ~、良い温度だなぁ」

 熱くなく温くなく丁度良い温度だ。

 僕は長く風呂に入る。マイちゃん達よりも長風呂なので、よく早く上がらないと茹るよとか言われるが気にしない。

「・・・・・・良いのかな。こんなに歓待されて・・・・・・」

 当主である侯爵が何も言わないので、大丈夫なのかと思う。

 僕はお湯に浸かっていたら、お風呂場の扉が開いた。

 誰か入って来たのかなと思っていたら、何とエリザさんが入って来た。

 なんと、タオルで体を覆った状態で。

「どう、子豚、良い温度?」

「え、ええ、大丈夫です」

「そう、じゃあ早く上がりなさいよ。背中を洗ってあげるわよ」

 な ん で す と⁉

  今、この人何と言った?

「ああ、すいません。もう一度言って貰えると嬉しいのですが」

「背中を洗ってあげると言ったのよ」

 どうやら、聞き間違いではないようだ。 

(落ち着け、落ち着くんだ。僕)

 少しの間、僕は目をつぶり考えた。

 しかし、エリザさんはそんな暇を与えてはくれない。

「ほら、早く出て来なさいよ。わたくしが背中を洗ってあげるのだから感謝しなさい」

「え、えええっ、でも」

「いいから、はやくあがりなさいよ」

 僕は仕方がなく、お湯から上がる。

 振り向くと、目の前に爺やさんが居た。

 先程まで居なかったのに、何処から現れた。

「失礼いたします。イノータ殿」

 爺やさんはそう言ってん、僕の腰にタオルを巻いてくれた。

 巻き終わると、直ぐに居なくなっていた。

(爺やさんって、何者?)

 本当にそう思った。

「ほら、早く来なさいよ」

 タオルで体を覆ったエリザさんが何処からか椅子を出して、僕に座るように促す。

 僕は今、どうしてこうなっているのか分からなかった。

 ゴシ、ゴシゴシ。

 僕の背中を洗っているエリザさん。

(この人、貴族だよな。何で、僕の背中を洗っているんだ?)

 もう訳が分からない。

「どう、痒いところはない? 子豚」

「は、はいいいっ、とくにないです」

 声をうわずりながら答える。

 正直、この歳になって女性に背中を洗ってもらえるなんて思いもしなかった。

 エリザさんの指が時々、僕の肌に触れる。

 その手つきは撫でる様に優しい。

「随分と綺麗な背中ね。傷が一つもないわ」

「僕はその、平和な所から来たので、こちらの世界の人に比べたら、傷といえるものが少ないんです」

「そうなの、所で、聞いてもいいかしら?」

「何をですか?」

「さっき食べたソースの事なんだけど」

「ああ、あれですか」

 母の味を思い出して、不覚にも泣いてしまった。

「あのソースがそんなに美味しかったの?」

「そうですね。味は良かったですよ。それに母が良く使っていた調味料の味に似ていたので、つい涙が」

「ふ~ん、そうなの」

 えりざさんは僕の体を洗いながら、何か考えている。

「・・・・・・あのソースが欲しい?」

「欲しいです」

 僕は即答した。

 二度と故郷に帰れるか分からないのだ。なので、故郷の調味料に似た味の物は欲しい。

「即答ね。あれは、わたくしが作った調味料から出来た物よ。だから、そんな量はないわよ」

「・・・・・・そうですか」

 これは体の良い断りの台詞だ。

 無理に言って、臍を曲げられても嫌なので、ここは引き下がる。

「そうね。子豚がどうしても欲しいと言うなら、少しならあげてもいいわよ」

「本当ですかっ⁉」

 僕は振り返り、エリザさんの手を掴む。

 白魚のような指だ。それでいて、シミと傷が一つもない綺麗な手だ。

「そんなに欲しいの?」

「欲しいです!」

「即答ね。・・・・・・いいわ。そんなに欲しいなら少し上げるわ」

「あ、ありがとうございます!」

 僕は心の底から感謝した。

「まったく、そんなに欲しいなんんて、卑しい子豚ね」

「すいません。なんか、色々と歓待してくれるのに、厚かましくてお願いして」

「・・・・・・よくってよ。貴族なんだから、子豚みたいな平民に施しをしてこそ高貴さの義務ノブレス・オブリージュというものよ」

 高貴さの義務か。

 僕みたいな平民にはない考えだな。

 その後は、前は自分で洗い、お風呂場を出た。

 帰る前に侯爵に挨拶した。

 侯爵は笑顔を浮かべながら「うちの娘が粗相などしませんでしかた?」と聞いてきた。

 別に粗相などなかったと言うと「そうですか。それはよかった」とエリザさんを見ながら言う。

 エリザさんは顔を背けているので、どんな顔をしているか分からない。

 僕は玄関まで見送りに来た侯爵達に見送られ、馬車に乗って王宮まで帰る。

「はぁ、着いた~」

 それほど乗っていないのだが、馬車の揺れには慣れない。

 この世界ではまだ、馬車にサスペッションなどがついてないのだろう。

 痛む尻を撫でながら、僕は自分の部屋に戻る。

 部屋に向かう最中。

「猪田君」

 いきなり、後ろから声を掛けられた。

 僕はびっくりして振り返ると、そこに居たのは椎名さんだった。

「や、やあ、ただいま?」

「どこに行ってたの? 王宮内探しても居なかったから心配したよ・・・・・・んっ」

 椎名さんが僕に近寄きた。そして、鼻をヒクヒクしている。

 すると、目に光を宿さない目で僕を見てきた。

「・・・・・・知らない女の匂いがする」

「はい?」

「知らない女の匂いがする」

「何故、二度言う⁉」

 女の匂いって、エリザさんの事か?

 そんなに近くに居なかったけどな、風呂場を除けば。

 風呂場でも近くにはいた、でも、お湯で匂いなんか飛んでいるだろう。

 考え込んでいたら、椎名さんが僕の目を見て来る。

 瞬き一つしない死んだ魚のような目で。

「ねぇ、猪田君。どこに行ってたの? 正直に言って欲しいな」

「えっ、えっと、ちょっとしたことで馬が合った人の屋敷に招待されらから、行ったよ」

 椎名さんと接してみて分かった事がある。下手に嘘をつくよりも、正直に話しながら時々嘘を交えた方が良いという事が分かった。

「ふ~ん、そこに女の人は居たの?」

「まぁ、使用人だったらいたよ」

 何人かは居た。

「そう、・・・・・・ねぇ、どこに行っていたか場所位は教えて欲しいな」

 無理です。

 教えたら今すぐにでもそこに行って、殺人をおかしそうだ。

 僕はばれないようにじりじり後ずさる。

 そして十分に距離が取れたら、走り出す。

「あっ」

「今日は疲れたから、また今度話すね!」

 僕はそう言って、全速力で走りだす。

 椎名さん呆気にとられたが、直ぐに気を取り戻した。

「猪田君、待ってっっっ‼」

 椎名さんも全速力で僕を追いかける。

 その後、王宮内を全速速力で走り回る僕達。

 おかげで一晩中追い駆けられた。

(これじゃあ、お風呂に入ってサッパリした気分が台無しだ)

 僕はそう思いながら、椎名さんから逃げる。





 




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