第39話 これぐらいはしないとね
魂が抜けたような顔をするジャイダンを放って、僕達は商品の事で話したいので、一度『鳳凰商会』へと向かった。
商会の店に着くと、そのまま話をする為の部屋に案内された。
「いやぁ、店でお客様の相手をしていたら、店に入って来たそちらの方が『あんたが、トーマスだな。うちの店のてんちょう? が呼んでいるんだ。一緒に来てくれないか』と言うので、何事かと思い来てみたら、あんな事になったので、正直に言って、何が何だが分からない状態ですよ」
トーマスさんは僕の対面の席に座り、来てくれた経緯を話してくれた。
ちなみに、トーマスさんがいうそちらの方は元護衛の人だ。今は僕の後ろにいる。
「いやぁ、僕でも対処できない時は、トーマスさんの御手を借りようと思って呼んだんですが、どうやら、向こうが勝手に早合点をしたようでしたので、ホッとしています」
「はっはは、左様ですか」
トーマスさんは茶を飲んで喉を潤した。
そして、カップを置くと笑みを浮かべた。
「あの、リウイ様。その手に入れた商品なのですが、どの様な扱いをされるのですか?」
「ああ、それはもう決まっております」
「と言いますと」
「武具関係の商品で一番良い物は、僕達が貰って、その他の商品と残りの半分をそちらにお渡しします。それでそちらの店で扱ない商品は僕の店で好きに売らせてもらいます」
「そんなにですか⁉ しかし、正直に話ですが、今回はわたしは顔を出しただけなのですが。それで残りとは言え、商品の半分を貰っても良いのですか?」
「ええ、構いませんよ。そちらの会長には色々と便宜をはかって貰ったので、これぐらいはしても良いと思います」
「そうですか。こちらとしましては、少しおこぼれを貰えると思ったのですが、まさか半分も頂けるとは思いもしませんでした」
「はは、正直ですね」
「ええ、これがわたしの取柄でして、会長も『正直は美徳だ』と言って、一介の行商人だったわたしを、今の地位に就かせてくれたのです」
「成程。会長は人を見る目がありますね」
ユエのお父さんも人を見る目が優れていた。あの人が目を掛けた人は例外なく出世したとか言っていたな。でも、何でか、僕の事をえらく気に入っていたな。何でだろう?
「リウイ様?」
「ああ、失礼しました。後で武具を僕の店に送ってくれますか。それで幾つか取って、そちらにお返しします。それで、残りの要らない物は僕が受け取ります」
「リウイ様がそう言うのでしたら、わたしはそれで構いませんよ」
「問題が無いのなら、それで良いですね」
とりあえず、商品の扱いの取り決めを決めると、僕は少し雑談をして、店を後にした。
『鳳凰商会』の店を出て、自分の店を向かう、道すがら、元護衛の人が話しかけて来た。
「な、ちょっと良いか」
「何か? えっと……」
この人の名前なんだっけ?
「カブーモスだ。あんたの事は、何て呼べば良いんだ?」
「ああ、そうだな。お好きに呼んでいいよ」
「う~ん。じゃあ、ボス?」
「後ろ暗い人の組織の長になった覚えはないんだけどな~」
「いや、十分、そいつらと為が張れる事をしてるぜ。ボスは」
「ええ~、あんなの。ちょっとした仕返しだよ」
「……そうかい。で、聞いても良いか。ボス」
何かもう定着したな。仕方がないか。
「で、何を聞きたいんだい?」
「手に入れた商品をどうして『鳳凰商会』にも渡すんだ? 全部、ボスの店で売っちまえば、かなりの儲けになるだろう」
「出る杭は打たれるだよ」
「うん? どういう意味だ?」
ふむ。こっちの世界じゃあ意味が分からないか。
「簡単に言えば、あまり儲けると人に憎まれるという事だよ」
「ふぅん。そうかい」
あまり分かっていない様な顔をするカブーモス。
ふむ。これは、その内リッシュモンドに教育させて、少しは分かる地頭にさせるか。
「そうそう。僕の部下になったんだから、今夜は歓迎会をしないとね」
「か、歓迎会? 良いのかい。俺は」
「今は僕の部下だから気にしないよ」
「はぁ、気前が良いようで」
頭を掻くカブーモス。
店に着くと、僕は店に居る人達にカブーモスを紹介して、その夜は、近くの店に行ってカブーモスの歓迎会を開いた。




