第35話 やられたら
「元々、会頭がこの店に赴いたのは、うちの店の従業員が怪我した事の損害賠償でこの店で売っている商品の販売権を奪う為だったんだ」
「商品の販売権を奪う?」
ティナと他身体が資本の人達は意味が分からず、首を傾げていた。
「僕達が商品を作っても売る権利を横取りすると言えば分かるかな」
僕が説明すると、皆納得した。
「でも、この店で売っている物って、そんなに手に入れるのが難しい物じゃないと思うけど?」
その意味が分からず僕は首を傾げた。
「お前さん。本当にそう思っているのか?」
「ええ、違うんですか?」
「はぁ~、だから、あんなに安価に売っていたのか」
何か護衛の人が溜め息を吐いた。
「そんなに高価な物を売っていたっけ?」
売っているのは蜂蜜と魔獣の肉の燻製と魔獣を狩った際に出る毛皮とアラクネの生糸ぐらいだけど。
知恵袋のリッシュモンドを見ると、リッシュモンドも言葉の意味が分からないのか首を傾げていた。
「すいません。説明してもらえますか」
「ああ、分かった。まずは、魔獣の肉の燻製だが、この店で売っている魔獣の肉はどんな魔物か知っているのか?」
「さぁ?」
狩猟している人達が「近くの森や山に行くと見つけた魔物を狩った」としか聞いてないので、どんな魔物なのか分からないので、とりあえず魔獣の肉として売っている。
「はぁ、其処からか。良いか、この店で燻製肉で売られている魔物の肉はな『ブルーロック・ボア』と『エメラルドホーン・ディアー』なんだよ」
「そう言えば、そんな名前だったな。それが?」
「あのな。この都市は湾岸都市だから山で採れる物は高価だ。それに加えて今名前をあげた魔物達は繁殖力が強い上に凶暴でBクラスの冒険者た傭兵が幾つかのパーティーを組んで、何とか一頭狩れるぐらいに強い魔獣なんだぞっ」
「へぇ」
狩猟している人達が、ほぼ毎日数十頭狩っているので、そんなに強いとは思わなかった。
「『ブルーロック・ボア』の肉は美味い事で有名だし、毛も革も高級品だぞ。それに『エメラルドホーン・ディアー』は肉も毛皮も高級品な上に、角なんか売れば数十万ゴルドはするんだぞっ」
「そうなんだ」
偶にその角を店で商品として出すと、商人達が目の色を変えて「売ってくれ。幾らでも出すからっ」と言うのはそういう訳か。
ちなみに角は、あまりに売ってくれという人が多いので、店の外でオークション形式にして売った。
今迄の最高額は、確か大金貨五十枚だったから、五百万ゴルドだったな。
通貨は前世と変わらないでくれたのは嬉しかったな。お蔭で計算が手間取らない。
「更に言えば、この店で扱っている蜂蜜だが、その蜂蜜を作っている蜂は『クリムゾン・フラワービー』だろう」
「そうなの?」
蜂に関しては、完全にビクインに任せている。
ある程度集まったら、前世のテレビで見た養蜂家がしていた方法で蜜を取るだけだ。
「いえ~、わたくしも知りませんでしたわ」
昆虫人という事で、虫と話せるからか協力してくれているだけで、どんな種類か知らないようだ。
「この『クリムゾン・フラワービー』が作った蜜はな。何処の国でも人気がある蜂蜜なんだぜ。品質にもよるが、王に献上する事もした事がある蜜だぞ。それに加えて『クリムゾン・フラワービー』が作った王乳も高級品なんだぜ」
王乳? 確かローヤルゼリーの事をそう言うと聞いた事があるな。
「あら、そうなんですか」
ビクインも初めて知った顔をした。
「人気がある代わりに、警戒心が強くて、その上熊型の魔獣でも麻痺させる毒針を持っているから蜜を取るのも難しいんだぜ」
「ふむふむ。成程」
そんなに商品価値があるなんて知らなかったな。
正直に言って意外だ。
「その上、アラクネの生糸だ。アラクネの生糸は高級品だからな。それに加えてあの『翡翠糸』だ。あれはどうやって作っているのか全く分からないって、製造している奴が言っていたぜ」
「ああ、あれね。まぁ、ちょっとした知識だからね」
前世でアラクネが出す生糸は食べる物によって品質が変わるって知った。
なので、試しに『エメラルドホーン・ディアー』の角を食べさせたら『翡翠糸』出来ただけなんだよね。それを見て思ったのは、鶏が食べる餌によって黄身の色が違うって言う話を思い出したね。
知らない人からしたら分からなくても仕方がない。
「んで、意気揚々に行ったら、店の従業員ではなくて『義死鬼八束脛』のメンバーだと分かって、その場は何とか誤魔化して逃げ出したが、店に戻った会頭は腹いせだろうな。この店に嫌がらせをしてこいって俺達に命じてきて、な」
「それで今に至ると?」
その通りと言わんばかりに頷く護衛の人。
「あの野郎。ふざけやがって、若。此処は一つ、仕返しとして店にカチコミを掛けましょうや」
ダイゴクが怒りながらそう言うと。
「賛成!」
「あたしもっ」
「久しぶりに派手に暴れられるかしら?」
ティナを含めた武闘派達が賛同の声をあげる。
「はいはい。皆、落ち着いて。そんな事をしたら、余計に面倒な事になるから」
「と言うと?」
「この護衛に人達が嫌がらせに来たと言う証拠がない以上、下手に突っ込んだら逆に向こうの思うつぼになるかも知れないよ」
「ですが。こうして証人が居るんですから、言い逃れは出来ないと思いますぜ」
「相手は大店の会頭だよ? 僕達がこの人達を連れて行っても『もう今朝の時点でクビにした。そいつらが勝手にした事だから、わたしの店は関係ない』とか言われたら、どうするのさ?」
「むうう、そう言われると確かに面倒ですね」
「多分、この都市の偉い人ともそれなりに付き合いがある筈だから、下手に突けば、僕達が恐喝してきたとか言って捕まるかも知れないよ」
「賢明な御判断です。リウイ様」
リッシュモンドは流石は我が主みたいな顔で褒めてくる。
「ありがとう。それに、別に表立って行動する事もないしね」
「と言うと?」
「母さんの教えでね。こう言われたんだ。『誰かに何かをやられたら、同じ方法で百倍にしてやり返せ」ってね」
僕がそう言うと、ダイゴク達が息を飲んだ顔をしていたが、気にせず話を続ける。
「向こうが嫌がらせをするのなら、こっちも嫌がらせをするだけさ」
「何か策でもあるのですか?」
「勿論。その為に皆を集めたのさ」
「流石は若様です。それでどんな事をするのですか?」
クレハはどんな事をするのか気になり訊ねて来た。
「ちょっと手間がかかるけど、凄い効果的だよ」
僕は考えていた事を話す。
それを聞いた皆の反応は、以下に分かれた。
「それはもう嫌がらせと言えないのでは?」
「やる事は派手だけど、効果はあるでしょうね」
「これは大掛かりですね」
と皆、口々に言う。
「まぁ、とりあえず、こういう事をするけど、皆も手伝ってくれるかな?」
「元より」
「まぁ、ちょっとやり過ぎかもしれないけど、手伝うわよ」
と皆手伝う気が満々な様ななので、問題無いな。
「じゃあ、行動開始といきますか」
僕がそう言うと、皆、行動を開始した。
リウイ達が行動を開始した時。
ダイゴク達は別の場所で言われた事をしていた。
「・・・・・・ふぅ」
作業中、ダイゴクは手を止めて息を吐いた。
「ダイゴク。手が止まっているけどどうかしたのかい?」
アオイが手が止まったダイゴクに声を掛ける。
「いやぁ、若の事を思い出してな」
「若様の事?」
「ああ、最初は子供の頃の姐さんにそっくりだが中身は違うなと思っていたけど、やっぱり親子だな」
苦笑するダイゴク。そして、アオイを見る。
「さっき若がやり返す作戦の考えを話していた時の顔を覚えているか?」
「勿論。あの小さな見た目で、あの獣の様なギラギラした目で子供の様な純粋で無垢な笑みを浮かべていた顔。う~ん。あれを思い出すだけで、背筋がゾクゾクするね。それに加えて」
「ああ、あの顔。姐さんがデカい仕事をする時は何時もあんな顔をしていたな」
「やっぱり、親子だね。本当にそっくりな顔で笑っていたから」
「ああ、あれは、将来有望だぜ」
血は争えないなと思うアオイとダイゴク。




