第34話 予想通りだ
その夜。
店が終ると、僕はバシドとハダに頼み事をした。
二人は頷いて、直ぐに行動してくれた。
僕は宿にある談話室で時間を潰していた。
一応、今夜からと考えたけど、するとしたら明日明後日かもな。
と思っていると、宿のドアが開いた。
入って来た人は受付に話す事無く、そのまま談話室に来た。
「リウイ様。ご報告に参りました」
談話室に入って来たのは、アラクネ族の人だった。
恐らくバシドの部下だろう。
「リウイ様の予想通り、店の周りをうろつく不審人物を発見し捕縛しました」
「ふむ。今日から来たか。早いな」
明日か明後日かなと思っていたけど。
「全員捕まえた?」
「はい。捕まえた者達の処分は如何なさいますか?」
「此処に連れてきて。ああ、それと、ダイゴクを連れてきてくれるかな」
「畏まりました」
アラクネ族の人は一礼して、宿から出て行った。
さて、皆を集めるか。
数十分後。
僕達が談話室に集まると、ダイゴクがやって来た。
お供にアオイとクレハを連れて来た。
「若。急なお呼び出しですけど、何か有りましたか?」
「直ぐに分かるよ」
僕がそう言うと、ダイゴクは何も訊かなかった。
ダイゴク達が来て、待つ事数分。
ガチャッと宿のドアが開いた。
そして、何かを引き摺る音が聞こえて来た。
幸いなのは、もう宿の営業時間は終わっているから、受付には誰も居ないので、僕達以外に見つかる事は無い。改めて思うと、この宿って僕達以外の人達は泊まっているのかな? 見た事が無いのだけど。
そのズルズルと何かを引き摺る音が談話室の前で止まった。
談話室の扉が開いた。開けたのはハダだった。
「失礼。ご命令通り、連れてきました」
ハダが先に入ると、その後にバシドが糸で何かを引き摺って入って来た。
バシドが引き摺っているのは、糸でグルグル巻きにされた人達だった。
「こいつら、何かしたんですかい?」
「営業妨害だよ」
「なっ⁉」
ダイゴクは目を見開かせた。
「だよね。ハダ」
「ええ、店の営業が終ったリウイ様が『店に不審人物が近付くかもしれないから、警護してくれる。店に何かしようする人を見つけたら全員、捕縛してね』と言われたので、わたしとわたしのの部族全員とバシドとバシドの部族全員で店の周りを警戒していたら、この人達が店に近付いてきたの。で、捕縛しました」
ハダの報告を聞いて、皆、驚愕していた。
「いったい、誰がこんな事をっ」
「う~ん。ダイゴクは分かる?」
「えっ⁉ すいません。あっしにはちょっと」
ダイゴクが申し訳なさそうに頭を掻いた。
「じゃあ、リッシュモンドは?」
「わたしもちょっと分かりません」
リッシュモンドも分からないか。ちょっと意外だな。
前世からの知恵袋でも分からない事はあるか。
「じゃあ、捕まえた人達の顔を見たら分かるかな?」
「顔って言われても、……あっ」
ダイゴクは捕まった人達の顔を見て、何か思い出したようだ。
「こいつ。確か今朝、若の店に来た『ファンへ商会』の会頭の護衛で来た奴ですぜ」
「やっぱりね」
「あら、この人達」
うん? ソフィーが捕まった人達を見て、ちょっとだけ驚いた顔をしていた。
「どうかしたの?」
「いえ、この前、わたしをナンパしてきた人達も居ましたので」
「ふぅん。そうなんだ」
凄いな。ソフィーって母さんが認める実力者だぞ。そんな人をナンパするなんて。
「大方、母さんの見た目で騙されたんでしょう。胸が大きくて強そうに見えない女だと思って声を掛けたんでしょう」
ティナは掌を天に向けながら肩をすくめた。
まるで、これだからは男はと言いたげなポーズだ。
「しかし、どうして『ファンへ商会』が若の店に営業妨害をしようと思ったのでしょうね。何かしらの接点も無いと思いますが」
クレハはどうしてそんな事をするのか意味が分からないのだろう。
「それは話を聞いたら分かるよ」
僕は糸で縛られている人に近付く。
この人は、僕が西区で『ファンへ商会』の一人息子と揉めた時に、やんわりとだが事を収めようとしてくれた人だ。
僕はその人の頬を軽く叩いた。
「う、うう、……ここは?」
「僕達が泊っている宿だよ」
「お前さんは、そうか。どうやら、捕まったようだな」
「店に不審に近付いたので捕縛して貰ったよ。どうして、店に近付いたか教えてくれるかな?」
「話さないと言ったら?」
「ふ~む。そうだな。リッシュモンド」
「はっ」
僕が呼びかけると、リッシュモンドが傍に来た。
「この者は、僕の部下で死霊術士なんだ」
「死霊術士?」
「そう。だから、貴方の魂を抜き取って、拷問する事もできるんですよ」
笑顔を浮かべながら言う。
「っ⁉」
「出来るよね?」
「仰せとあれば」
リッシュモンドは胸を叩いた。
「ただし、あまりやり過ぎると、その魂が消滅するので、加減が難しいです」
「そっか。魂を拷問って、見た事が無いのでどんなのか見てみたいと思ってたんだ。ああ、そうだ。捕まえた人達、全員にもその光景を見せないと駄目だよね。誰が話すか分からないから」
僕がそう言うと、護衛の人だけじゃなくて、何故かティナ達も顔を青くさせた。何で?
まさか、本当にすると思っているのだろうか?
もう、ただのブラフなのに。
「わ、分かった。話す。どうして、夜にお前さんの店に近付いたか話すから、それは止めてくれっ」
「良かった。じゃあ、話してくれますね?」
「ああ」
よし。これならちゃんと話してくれるだろう。




