第32話 面倒ごとに巻き込まれた
「あの馬車に乗っている方が、お前さんの連れの二人と話がしたいそうだ」
と言われても、僕達は意味が分からず首を傾げた。
これは馬車に乗せてお持ち帰りしたいのか、それとも単純に話がしたいのか分からなかったからだ。
どういう意味なのか考えていると、護衛の人が口を開いた。
「ようはあれだ。其処の綺麗なお嬢さん方と仲良くしたいんだよ」
「ああ、成程」
僕は改めて馬車を見る。
う~ん。何処かの貴族か。それとも、大きな店を構える商会の会頭か?
どの世界でも金を持っている人は碌な事をしない人が多いな。
「シェムハザ。デネボラ。話がしたい?」
「嫌です」
「嫌よ。あんな悪趣味な馬車に乗っている人と話なんかしたくないわ」
「という訳ですで、僕達はこれで」
ぺこりと頭を下げてその場を離れようとしたら。
「待て。坊主っ」
護衛の人が呼び止める。
「まだ、何か?」
「幾ら出せば、話をしてくれる?」
護衛の人は懐から革袋を出して、僕に握らせる。
中身は見てないが、このズシリとした重みからかなりの量の金が入っている様だ。
銀貨か金貨かは分からないけど。
「要りません。お返しします」
僕はその革袋を護衛の人に突き返した。
すると、護衛の人がそっと近づき、耳打ちする。
「悪い事は言わねえから、この金を貰って、其処のお嬢さん方を馬車に乗せな。あの馬車に乗っているのは、この都市でも大店の『ファンへ商会』の一人息子だぞ。この都市で『ファンへ商会』よりも強いののは『鳳凰商会』ぐらいだぞ」
そうなんだ。まぁ『鳳凰商会』に逆らえない時点で、もう詰んでいるけどね。
「いえ、それでも断ります」
「おいおい。話を聞いていたのかっ。お前さんの事を思って」
護衛の人と僕が話をしていると。
「ええ~いっ、何時まで話をしているんだっ。このグズが!」
護衛の人の後ろから声が聞こえて来た。
誰だろうと見ると、年齢は僕よりも一つ上くらいの人間族の少年だった。
そばかすがある顔。僕よりもやや高い身長。
年齢の割に少々お腹が出ている体型。
「坊ちゃん。馬車で待っている筈では?」
「お前がグダグダと時間を掛けるから、出て来たんだよっ」
金切り声で叫ぶ坊ちゃん。
ふうん。これが『ファンへ商会』の一人息子か。
護衛の人に一頻り怒鳴ると、次は僕達を見る。
「……っち、リア充が」
うん? 今『リア充』とか言わなかったか?
僕達が転移した時にその言葉が伝わったのか? そうだとしたら、随分と長い間口伝されて行ったんだな。凄いな。
「おい。お前、僕にその女達を寄越せ。金は幾らでも払ってやる」
名乗りもしないで、いきなり要件を言うのは失礼だと思わないのか?
これは親の躾がなってないな。
「お断りします」
なので、此処はキッパリと言った方が良いな。
「お前、僕が誰だか知っているのか?」
「名乗ってないのだから、知る訳ないでしょう」
僕がそう言うと、一瞬だけしーんとした。
「ふん。田舎者が。僕は『ファンへ商会』の会頭の一人息子のジャイジェンだぞっ」
「ああ、どうも。僕はリウイと言います」
「挨拶をしているんじゃないっ。名前が分かったのなら、後は分かるだろう?」
何か意味ありげな顔をするジャイジェン。
ふむ。これは、あれだな。何を要求しているか分かっているだろうみたいな感じだな。
「では、今度、そちらの商会で買い物をさせてもらいます。では、これで」
僕は頭を下げると、その場を離れようとしたら。
「って、ちがああああううううっ。お前、さっきからワザとしているだろう⁉」
「何がです。僕はてっきり、自分の親の店の紹介を教えてくれただけなんじゃあないんですか?」
僕が首を傾げると、シェムハザとデネボラは笑いを堪えていた。
「あああ、腹が立つ奴だな。おまえら、少し痛い目をみせやれっ。ただし、女の子は傷付けるなよっ」
ジャイジェンが護衛の人達に命令する。僕と話をしていた護衛の人は頭を掻いた。
護衛の人達が僕に近付いている中。
「うん? そこに居るのは若じゃねえですかい」
護衛の人達の後ろから声が聞こえて来た。
「あっ。ウラーだ」
「こんな所で何をしているんです?」
ウラーは不思議そうな目で僕を見る。
「ちょっと面倒ごとに巻き込まれて」
「成程。そうですか」
ウラーは指をポキポキと鳴らしだした。
「おい。お前等、そんなに相手をしてほしいのなら、俺が相手をしてやるよっ」
「何だ。お前は?」
「其処の若の……知り合いだよ」
「はっ。何もしないで見ていればいいものを。良い度胸だぜっ」
護衛の人達が狙いを僕からウラーに変えた。
そして、ウラーの囲みだした。
「はっ。てめえら如きが、束になっても俺に勝てねえ事を教えてやるっ」
護衛の人達とウラー殿との戦闘が始まった
喧嘩をした事で騒がしくなり、喧嘩を観戦しようと人だかりができた。
「仕方がない。店に戻るか」
「そうね」
「また、機会がありましたら、この都市に来ましょうね」
このままでは衛兵に捕まるかもしれないので、僕達はこの場を離れる事にした。
離れている最中。背後から「あっ、待て。このリア充野郎っ」と声を掛けられたが無視した。




