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椎名雪奈の日常

 わたしは所属している弓道部に足を向ける。

 今日は入っている美化委員会で月に一度の報告会があるので、そちらに顔を出すと部長に言うために弓道場に向かう。

 弓道部に入っているとはいえ、殆ど幽霊部員だ。

 あくまで美化委員の方を主にしている。

「おはようございます」

 弓道場に入ると、場内の隅々まで聞こえる様に大きな声をあげる。

「おはよう、椎名」

「おはようございます。先輩」

 丁度近くに居た先輩に挨拶を交わす。

「先輩、今日は部長は?」

「部長なら今出て居るけど、何かあった?」

「今日は委員会の方に顔を出すので、今日は」

「ああ、分かった。部長にはあたしが言っておくから」

「お願いします」

 頭を下げて、お願いする。

「いいって、偶には部活の方に顔を出してね」

 先輩はそう言って、矢場へと行く。

 わたしは弓道場を後にして、委員会が会議に使う教室に向かう。

 会議に使う教室に着くと、もう委員の人達は殆ど居た。

 空いている席に座り、わたしは会議が始まるまで静かに過ごしていた。

 そんな中で思う事は一つだ。

(今日はそんなに信康君と話せなかったな。はぁ~)

 顔には出さないが内心で溜息を吐いた。

(今日は何時もより一分二十四秒ほど短い。あのまま話していたら、記録更新できたかもしれなかったのに、はぁ)

 本音を言えば、委員会をサボタージュして、信康君と一緒に何かしても良かったのだが、あの二人に邪魔されて出来なかった。

 なので、こうして委員会の会議に出ている。

 元々、この委員会に所属しているのはある事の為に、必要だから入っているだけだ。

 だから、別に会議に出なくても特に問題は無い。

 暇だから出ているそれだけだ。

 やがて、委員長がやってきて会議が始まった。

 会議の内容を聴き流しながら、わたしは真面目に聞いているフリをした。

 報告する事が全て終わると、解散になった。

 わたしは直ぐに教室を出て、真っ直ぐ家へと帰る。

 歩く事数十分。家に着く。

「「お帰りなさいませ。お嬢様」」

 玄関を開けて入ると、家の使用人達が出迎えてくれた。

「今日のお父様達の予定は?」

 近くにいる女の使用人に鞄を預け、爺やに声を掛ける。

「御二人方共、本日は家に帰れないとの事です。海斗かいと様は帰りが遅くなると」

 海斗はわたしの二つ上の兄だ。

「そう。じゃあ、晩御飯まで部屋に居るは、誰も通さないで」

「かしこまりました。お嬢様」

 爺やが一礼をして下がると、わたしは自分の部屋に向かう。

 部屋のドアを開けて、まずしたのは着替えではなく、パソコンを起動する事だ。

 自分の机にあるパソコンを起動する。

 勿論、パスワードはINOTANOBUYASUだ。

 そして、デスクトップにあるフォルダーをクリックする。

 そのフォルダーを開くと何も入っていないのだが、ドラッグをすると音声データが入ったフォルダーが出て来た。

 タイトルは色々ある。

 眠りたい時に訊くボイス集とか、集中したい時に訊くボイス集とか、元気になりたい時に訊くボイス集とある。

 その中で、わたしはヘビーローテーション集パート三千五百六十と打たれたフォルダーをクリックする。イヤホンの音量をマックスにして、音声が流れるのを待つ。

『雪奈、今日も綺麗だね』

『雪奈、今日も髪型は素敵だね。一目惚れしてしまいそうだよ』

『雪奈、大好きだよ』

『雪奈、雪奈、雪奈、雪奈、雪奈』

「~~~~~~~♥♥」

 わたしは耳から流れるボイスを聞いて、嬉しくて体を震わせる。

 このボイス集は、彼の声を聞き洩らさないように、常に掛けているボイスレコーダーの音声を録音した物だ。その中でも、このヘビーローテーションシリーズは録音した音声を編集して、何時でもどんな時でもどんな気分でも聞けるようにした物だ。

 わたしは彼の声を聞きながら、棚に隠している物を出す。

 それは真空パックで厳重に包まれている。

 わたしは少しでもその匂いを漏らさないように、慎重にパックの口を開けて中の匂いを嗅ぐ。

「ふううううううううっ、もう、さっいこうううううっ! 何時までもこの匂いを嗅いでいたぃぃぃ」

 パックの中に入っているのは、信康君の体操服だ。

 この間、体育の授業で使ったのを密かに回収した。

 勿論、バレないように代わりの体操服と交換してだ。

 わたしが美化委員をしているのは、こうして彼の匂いがする物を持っていても、ゴミと言って回収しても誰にも文句を言われないからだ。

 現にこうして隠し棚の中には、真空パックに保存された信康君の私物がある。

 わたしは帰ってくると、こうしてストレスを発散するのが日課にしている。

 そのまま陶酔していると、戸が叩かれた。

「お嬢様、そろそろ夕餉が出来そうです」

 わたしは内心舌打ちをしながら、している事を止める。

「分かったわ。直ぐに向かいます」

「かしこまりました」

 そう言って、使用人が去っていく。

 わたしはパソコンの電源を切り、私服に着替えた。

 夕飯を食べる為、部屋を出た。

「ふっふふ、今日も信康君の顔が綺麗に撮れたから、またコレクションが出来た。後でコレクションルームに飾ろう♪」

 誰にも気づかれないように作ったカメラで撮った信康君の写真の出来を楽しみにしながら、わたしは食堂へと向かう。

 





 

 






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