第28話 連絡を取りながら商売を
「こんな朝早くに、しかも事前に来る事もお伝えしないで来て申し訳ありません」
そう言ってペコペコ頭を下げるトーマスさん。
腰が低い人だな。
年齢的に、僕よりも二十上の人だけど、魔人族とは言え子供の僕にそんなに頭を下げなくても良いと思うのだけど。
「いえいえ、僕の方も事前に行く事を伝えないで行ったのでお互い様です」
正直、都市を見回っていたら偶々見つけただけなので、この都市にある事は知らなかったが、そこは言わなくても良いだろう。
「そう言って頂けると助かります。それで、リウイ様はわたしの店に何の用で来たのでしょうか?」
「実は会長のディアーネとちょっと話がしたいと思いまして」
「会長とですか。では、わたしの方でリウイ様がこの都市に居る事をお伝えしますね」
「ありがとうございます」
これで、ユエと話が出来る。
「ところで、話は変わるのですが」
トーマスさんは居住まいを正した。
「はい」
「こちらの店は何を売っているのでしょうか? わたしの店がある区と此処は離れているので、そういった情報が入ってきませんので、何を取り扱っているのか知りませんので教えて頂けますか?」
これは、あれかな。売っている物が被らないか知りたいのかな。
「良いですよ。今の所、うちの店で扱っているのはアラクネの生糸と蜂蜜と魔物の肉の燻製ですね」
「ほう、アラクネの生糸ですか。良ければ見せて頂けますか」
「良いですよ。では、ちょっと失礼」
僕は店に入ると、シャリュが作業の手を止めて聞いてきた。
「どなたですか?」
「『鳳凰商会』のこの都市の支店長だって」
「支店長が直接来たのですか?」
「本人の言葉を信じるなら、そうだね」
「はぁ、何と言いますか。フットワークが軽いのですね」
「そうだね」
シャリュと話ながら、商品の生糸と最近作った新しい生糸を手に取り店を出る。
「お待たせしました」
「いえいえ、それほど待っていません。これがアラクネの生糸ですか?」
「はい。そうです」
僕はトーマスさんに生糸を渡す。
渡された生糸を、トーマスさんはジッと見る。
空に掲げて、光に当てて透明度も見たり手触りを確認していた。
「ふぅ~、わたしは商人になって、まだまだ若輩ですが、これほどの商品に出会ったのは初めてです」
う~ん。この人褒めるのが上手いな。ついでに、これも見せるか
「ついでにこれもどうですか?」
僕は『翡翠糸』を見せた。
最近、ようやく量産体制が整い、ようやく普通に店に並べる事が出来た。
「ほ~、これは素晴らしいっ。同じアラクネの糸かと思ったら、翡翠色になっているとは、しかも、これは染めているのではなく、糸の段階で既に翡翠色なのですねっ」
「その通りです」
この商品を作るのに、本当に時間が掛かったな。
「あの、いきなりで、すみませんが。この生糸達をうちの店でも扱わせて頂けないでしょうか。勿論、ロイヤルティはお支払いしますので」
ロイヤルティという言葉を知っているとは、恐らくユエの教えたんだろうな。
そう思うと苦笑した。




