第22話 お姉ちゃん命令か。
クレハ達と出会ってから数日後。
今日も僕は借りている店で商売をしていた。
売り上げは右肩上がりだ。路銀も問題ない位に溜まった。
これで、どれだけ遠くの所に行っても問題ないな。自分の商才が怖いな。
思わず笑っていると。
「若様。どうかなさいましたか?」
隣にいるクレハが笑っている僕に声を掛けてきた。
「いや、別に。それにしても、クレハさん。店番なんかしても良いの?」
この人。『義死鬼八束脛』の幹部なのに、何故か自主的に僕の店の手伝いをしてくれる。
で、手伝ってくれて思ったのは、この人。本当に有能だ。
商品を補充して欲しいと思ったら、バックヤードから商品を持ってきて補充してくれたり、計算も早く接客も上手いので助かる。
カーミラとティナだと嫌な客の場合顔に出るからな。
その点、どんな客でも笑顔で接してくれるクレハには助かる。
ダイゴクに訊いた所。クレハは『義死鬼八束脛』の金庫番で後方支援か兵糧の調達。人員の補充など地味だが必要な作業を全てしているそうだ。縁の下の力持ちか。
「仕事が無いので、暇なのです。幾ら、わたし達『義死鬼八束脛』が大陸に勇名を轟かせても、雇い主がなければ仕事はありません。仕事が無い時に戦うのは、向こうが因縁を着けて来るかもしくは雇い主が仁義に背いた時だけです」
「まぁ、傭兵ってそういうものだよね」
好き勝手に暴れたら賊だからね。
「ふふ、若様は分かっているようですね。流石はハバキ様のお子様ですね」
微笑むクレハ。
「それと、わたしの事は呼び捨てで構いませんよ。仮にも主筋なのですから」
「主筋って」
母さんとダイゴクと一緒に国を出たというから、それなりの家なのだろう。
「ダイゴクとわたしは、ハバキ様の御家の分家です。ハバキ様が国を出る気に家名を捨てたので、わたしも一緒に捨てました。わたしの家名はラサツキ家分家筆頭のフサウマという家なのです」
結構良い所の家の人じゃん。
そんな人がどうして、母さんと一緒に国を出たのやら。
その後、店が閉店の時間まで二人で店番した。
店を閉めて、店先でクレハと別れた僕は宿に戻った。
宿に入り、自分の部屋に戻る。
ドアノブに手を掛けると、鍵が掛かっていなかった。
誰かいるのかと思い、ドアノブを開けて部屋の中を見ると。
「あっ、おかえり~」
ティナが部屋に居た。
「何をしているの? ティナ」
「う~ん。見てのとおりよ~」
ティナは僕のベッドで、御菓子を食べながら、仰向けに寝そべりながら、本を読んでいた。
時折、尻が左右に揺らしているのは何でだろう?
「それにしても、こっちの大陸はこんな本があるのね~。面白いわ」
ティナが読んでいる本は、漫画のようだ。
「で、僕に何の用?」
「ああ、うん。ちぇ、全く反応が無いや」
「何か言った?」
「別に、実はさ、相談があるんだ」
「相談?」
「うん。実は母さんが元気ないんだ」
「ソフィーが?」
此処に来て疲れが出たのかな?
「というか、リウイ。最近、母さんに構ってないでしょう。この間、何か『ふぅ、昔は何でもわたしに訊ねてきたのに、今はもう自分で考えて行動する。親離れする子供ってこんな感じなのかしら』とか言っていたわよ」
ティナが聞いているという事は、ティナの事を言っている訳無いよな。だとしたら、僕か。
そう言えば、最近ソフィーに相談するよりも、リッシュモンドかクレハに相談している事が多いな。
「という訳で。リウイ。あんた明日は暇だから、母さんを連れてちょっと気晴らしに行ってきなさいよ」
「僕が? ティナが連れて行けば良いと思うけど」
「リウイの方が喜ぶと思うのよ」
「そうかな?」
「いいから、明日、母さんを誘って、都市を回りなさい。これは、お姉ちゃん命令よっ」
ビシッと指を差しながら言うティナ。
お姉ちゃん命令か。久しぶりに訊いたな。
姉さん達はそんな命令なんかしないからな。




