第15話 何だかんだで、路銀が確保できた
僕達がこの『ヨドン』に来て、瞬く間に数日が経った。
当初は二~三日ほどいて、情報を集めて『鳳凰商会』の支部がある所でユエと連絡を取り、ユエと合流するとしか考えていなかった。
で、今はというと。
「いらっしゃいませっ」
とある店の中で、僕は大きな声で店に入って来た人に挨拶する。
「アラクネの生糸を百束くれっ」
「はい。ありがとうございます。百束買って頂いたので、サービスにこれも差し上げます」
僕は生糸の束を百個と翠色の生糸の束も入れた。
「それは?」
「これは最近、うちで開発しました『翡翠糸』です。これが見本です」
僕は生糸を買いに来た商人に『翡翠糸』を見せる。
「……これは、半透明の糸だと思ったが、うっすらとだが緑色が付いているな」
商人は糸の触り心地を確認しながら、光に当てて透明度を確認していた。
「これも、アラクネの生糸という事か?」
「そうですね。製造方法は秘密ですが、材料はアラクネの生糸です」
「これは素晴らしい。これも、商品なのか?」
「すいません。これは、まだ商品として売り出せるほどに製造が出来ていないので、アラクネの生糸を百束買った方にサービス品として提供しております」
「そうか。商品として売り出す事が出来たら教えて欲しい。言い値で買うので」
「はい。ありがとうございます」
僕は頭を下げる。そして、商人は買った商品を持って店から出て行った。
「……ふぅ、ティナ。商品はどれくらいある?」
もう一人の店番のティナに訊ねる。
「う~ん。後は蜂蜜と竜人の鱗と魔獣の肉の燻製って所ね」
「ふむ。今日も売り上げも、まずまずか」
「しっかし、リウイ」
「なに?」
「あんた。意外に商才があったのね」
「はっはは、僕もそう思うよ」
まぁ、前世でユエの家の仕事を手伝った事があるから、商売がどういうものか分かってるから、出来た事だな。
そう話していると、店の扉が開いて、お客さんが入って来たので、僕は応対した。
何で、僕達が商売をしているのかというと、これは理由があった。
ダイゴクに頼まれて、暫くの間、この都市にいる事になったので、僕が連れて来た人達を都市に入れてくれるように、傭兵ギルドのギルドマスターのギムレットさんの下に行ったら、困っていたので、僕はヨットエルフ達を貸した。
その対価に、色々として貰った。まずは都市の外で待っていた人達を都市に入れる事は出来た。
これで、皆と合流出来た。
次に、傭兵ギルドの紹介で空き家を貸してくれるように頼んだ。
丁度、ギルドの預かりになっている空き家があったので、其処を借りた。
皆、其処を借りた時は不思議がっていたので、僕は説明した。
『路銀の確保の為に商売をします』
と言うと、皆は首を傾げた。
何せ、何を売るべきか分からないからだ。
其処で僕は指示をした。
まずは、バシド達アラクネ族には生糸の束を作って貰う。
前世でもアラクネの生糸は高く売れたので、恐らく同じだ。
次に、ビクインさんには蜜を集めて貰った。
これは蜂蜜として売る。蜂が作ってるのは確かなので大丈夫だろう。
次にランシュエ達には、鱗が生え変わる際に落ちる鱗を集めて貰った。
竜人の鱗は、手に入りづらく高価だ。用途も鎧に使ったり、錬金術の触媒になったり出来る。
最後に腕っぷしがある人達には、近くの森や山で食える魔物を狩ってきて、それを燻製や食肉として売る。肉体労働が得意な人はこれが一番だ。
本人達からしたら、こんなの売れるのか?と思える物でも、他の人からしたら宝石の如く価値があったりするからね。
で、残りの頭が良い人達は、店で商品の計算と商品管理をしてもらう。
流石に人目に出すと、面倒な存在とか居るので、裏方作業をしてもらう。
最初はそう指示をしても、皆上手くいくかどうか半信半疑だったけど、初日からかなりの売り上げを出したので、皆は驚きながらも喜んだ。
それから、皆は張り切って仕事に励んだ。
お蔭で、売り上げは上がるから、新商品の開発とか出来るし、懐が潤う。
何せ、ほぼ元手が掛かってないから、売り上げ金がそのまま純利益になるから、嬉しいな。
こうして考えると、ユエが商売をする理由がよく分かるな。
そう考えていると、ダイゴクが店に入って来た。
「若。ちょっいと、良いですかい」
「ああ、いいよ」
僕は店をティナに任せて、ダイゴクの所に行く。
此処では話せないのか、「店の外に出ましょう」と言って来た。
僕が頷くと、ダイゴクは店のドアを開けた。
店を出て、少し歩き、誰も居ない路地に入る。
「しっかし、姐さんの子供が、まさかこんなに商売が上手いとは思いもしませんでしたよ」
ダイゴクは驚いた顔をしていた。
余程、意外なのだろう。
「ありがとう。ところで、何か用?」
ダイゴクには店の警備をしてもらっている。
なので、用が無い時は、店が終るまで話し掛けたりはしてこない。
まだ店は終わっていないのに話しかけるという事は。
「『義死鬼八束脛』の人達がそろそろ、この都市に来るのかな?」
「はは、察しが良いようで。まぁ、その通りなんですよ」
苦笑しながら頭を掻くダイゴク。
八束脛って事だから、八人という事か?
でも、部隊を持っているみたいな事を言っていたから、八人の幹部の下に部隊があると考えた方が良いのか?
「その、会わせたい人ってどれくらいいるんですか?」
「全部で七人ですね。まぁ、若は察しが良いので、全員幹部ですよ」
まぁ、予想通りだ。
「明日には三~四人来ます。その時にご挨拶したいと思いますので、お手数ですが、お時間を空けておいてください」
「分かりました」
母さんの部下だった人達か、どんな人達なのだろうか?
ちょっと楽しみだ。




