閑話 商談
今回は第三者視点です。
傭兵ギルドの建物に外に併設されている厩舎。
其処には今朝早くから、傭兵ギルドの受付に怒鳴りこんできた商人達が居た。
「いったい、何の用だろうか?」
「我々をこんな所に、しかも出立準備をしてから此処に来いとは」
てっきり、損害賠償を払うのだろうと思っていた商人達。
後はその金額をどれだけ多く引き出そうと、受付で抗議をするだけと考えていた所に、ギルドの職員がやって来て。
『お待たせいたしました。皆様の護衛に付くものを見つけましたので、皆様は準備を整えて、当ギルドの厩舎へと来て下さい』
と言い出した。
それを聞いて、商人達は顔を見合わせた。
本当に護衛を用意したのか? それとその護衛の腕は確かなのか?
その二つが気になった。特に後者の方は大事だ。
まさか、EランクやDランクの傭兵を集めただけではないのだろうかという考えが、商人達の頭を過った。
新人よりも少しだけ上の実力しかない者達で護衛されても、商品と自分達の命が守れるのか心配そうであったが。
向こうがそういう以上、何かしらの方法で集めて来たという事だろうと思い、殆どの商人達はギルドから出て、自分の商隊へと戻っていった。
何人かは、職員の説明に納得できなかったのか、その職員に詰め寄っていたが、その職員も上からそういう風に言えと言われただけだと聞くと、詰め寄るのを止めて、自分の商隊へと戻った。
そして、今に至る。
商人達は自分の商隊で使う魔獣を、厩舎に繋ぎながら、ギルドの諸君が来るのを待っていた。
待つ事数十分。
ギルドの職員が自分達の所に来るのが見えた。
「おっ、やっと来たか。・・・・・・うん?」
「おいおい。これは、どういう事だ?」
商人達は自分の目を疑った。
何故なら、ギルド職員が一人だけしかいないからだ。
てっきり、ギルドで用意した傭兵も連れて来ると思っていたのに、何故か居ない。
それを見て、商人達は怒号をあげた。
「これは、どういう事だ⁈」
「俺達はお前達に言われた通りに、準備を整えて来たと言うのに、どうして護衛の姿が無いのだっ」
「まさか、適当な事を言って、賠償金を払わないつもりか?」
商人の一人がそう言うと、他の商人達も「そうなのか?」とか「ギルドマスターを連れて来いっ!」と言い出した。
「す、少し、お待ちください。ただいま、ギルドマスターが参りますので、どうか、もう少しだけお待ちをっ」
職員は商人達の何とか宥めようとしたが、所詮は焼け石に水であった。
「なら、早く呼んで来いっ」
「本当に護衛を用意したのだろうな? でなければ、タダではおかぬぞっ」
商人達が職員をねめつけていると。
「やれやれ、少し来るのが遅くなっただけで、こんなに騒がしいとは」
処置なしと言いたげな重たげな溜め息を吐いて、傭兵ギルドのギルドマスターのギムレットがやって来た。
商人達はギムレットの声が聞こえると、その声がした方に顔を向ける。
そして、皆一様に怪訝な顔をした。
ギムレットの後ろには、蒼銀髪の髪の鬼人族の少年が居た。
何で、鬼人族の子供がギルドマスターの後ろを付いて行くんだとも思いながら見ていると、その少年の後ろには、兎の獣人と人間の女二人が、その少年の後を付いて行く。
二人共メイド服を着用しているので、どうやら少年のメイドだと予想した。
だが、同時に皆は思った。
((どうして、ここに少年が居るのだろう?))
商人達は、目で誰か聞けよと言うが、誰も聞こうとはしない。
そんなやり取りをしている間に、リウイとギムレットは話をしていた。
「これで全員ですか?」
「ああ、うちのギルドに護衛を依頼した商人達じゃ」
「う~ん。……思ったよりも少ないな」
「四十人は居ると思うのじゃが?」
「正直、もっといると思いました」
「どれだけ居ると思ったのじゃ?」
「……百人近く」
「そんなにおったら『レッド・クロウ』達を合わせても足りんよ」
「そう言われると確かにそうですよね」
ギムレットとリウイは呑気に会話していた。
そんな会話を聞いていると、商人達は不安になって来た。
「おいっ、ところで護衛は何処に居るんだ?」
商人の一人がそう尋ねてきた。
「そうだ。護衛なんて、影も形も見えないぞ」
「もしかして、本当は護衛なんて用意できなかったのか?」
「だったら、さっさと損害賠償を払うべきだっ」
「そうだ。出来ないのであれば、我々にも考えがあるぞっ」
傭兵にとって信用は、自分の命よりも大事だ。
その信用を無くす事など、自分達であれば簡単に出来る。
そう言わんばかりに、商人達はギムレットを見る。
「まぁ、待て。今、呼ぶから少し待ってくぬか」
「うん? 呼ぶ?」
という事は、今ギルドに居るのかと思ったが、それであれば、自分達が厩舎に来た時やギムレット達と共に姿を見せる筈だ。
適当な事を言って、誤魔化すつもりかと思ったが。
「では、リウイ。頼んじゃぞ」
「はい」
ギムレットの言葉にリウイが頷いた。
「すううぅぅ、……白の空中機動機甲兵団‼」
リウイがそう叫んで、少しすると。
ビュウウウウゥゥゥッ!
という音と共に何かが飛んで来た。そして、リウイの傍に降りて来た
空を飛んで来た物が、ドシーンッ! という派手な音を立てて地面に着地した。
それにより土埃が舞った。
その場に居る者達は舞い上がる砂埃に目を瞑る。
やがて、砂埃が止んだので、目を開ける商人達。
そして、目を開けた先に映る物を見て、自分達の目を疑った。
リウイの傍に、メタリックな外殻装甲の人型のゴーレムが居た。
「「「な、ななな、なんじゃこりゃああああああああああっ‼‼⁉」」」
商人達は、リウイの傍に居るゴーレム達に目を剥いていた。
そんなに驚く商人達を尻目に、リウイはゴーレムに話しかける。
「じゃあ、ヨットエルフ。悪いんだけど、分隊に分かれて、商人達の護衛をしてくれる。終わったら、この都市に戻って来てね」
「ヤヴォール。マインヘル」
ヨットエルフが返事をした事に驚く商人達。
「ご、ゴーレムが喋った⁉」
「す、すごいっ」
目の前のヨットエルフ達を見て、商人達は頭の中で算盤を弾いた。
(このゴーレム達を手に入れれば、護衛も要らないな)
(それに護衛に払う飲食費も要らなくなる。その上、今の会話から、話を理解できる知能があるようだ)
(簡単な命令には従えるという事か。これはお得だ)
(後は、このゴーレム達の所有者であるこのリウイとかいう少年から、どれだけ安く買い叩くかだな)
(まぁ、売らないのであれば、痛い目に見れば、売れるだろう)
(それに、この少年。見目は良いから、ゴーレムを買った後に騙して、奴隷にして売り飛ばせば、かなり高額で売れるかもしれないな)
商人達は邪な思いで、ヨットエルフとリウイを見た。
その視線に気づいたのか、ギムレットは商人達に近付く。
そして、小声で話しかける。
「悪い事は言わぬから、あのリウイという者に、ちょっかいを掛けるのは止めておけ」
「ほぅ? 何故だ?」
「あの少年は『虐殺者』の息子だぞ」
ギムレットの言葉を聞いた瞬間。商人達はさーっと顔を青ざめた。
「……嘘ではないのか?」
「嘘ではない。それに先程情報が入ったのじゃが。『義死鬼八束脛』の現総長のダイゴクがリウイに会いに来たそうじゃ」
それを聞いて、商人達は顔をひきつらせた。
『義死鬼八束脛』
この大陸で最強と言われる傭兵集団。
その実力は、国を滅ぼすとまで言われている。その傭兵集団の初代総長がハバキだ。
そして、現総長のダイゴクは『虐殺者』ことハバキの右腕と言われた男。
その男が、この都市に来てリウイに会いに来たという事は、そのリウイという少年が『虐殺者』の子供という信憑性が増した。
「一応、言っておくが、もし、リウイに睨まれる様な事をしたら、儂ら傭兵ギルドは、お主らと縁を切ると思え」
ギムレットの絶縁宣言を聞いて、商人達は生唾を飲んでコクコクと頷き、頭の中で浮かんでいた考えを直ぐに何処かにやった。
そして、リウイが用意したヨットエルフ達を護衛にして、商人達は仕入れた商品で商売に向かった。




