第9話 朝目覚めて見ると
宿の外から、大きな声で僕を名指ししてきたので、、慌てて着替えて部屋を出た。
部屋を出ると、ティナとアルネブが居た。
「あっ、おはよう。二人共」
と僕が言うと、ティナは僕の頬を引っ張った。
「何を呑気に『あ、おはよう。二人共』よ。あんた、今の状況が分かっているの!」
「も、もちろん」
「この都市に来たばかりなのに、どうして名指しでしかもリウイのお母さんの名前まで呼ばれているのよっ!」
「さぁ」
「あんた、また、何かしたんでしょう?」
「し、してないよっ‼」
昨日は、母さんが伝説と言われているという事しか知らない。
「というか、昨日はほぼティナ達と一緒に行動していたけど、特に何も問題も行動もしていなかったじゃないかっ」
「う~ん。確かにそうね」
ティナは僕の頬から手を離した。
「じゃあ、さっきの名指しは何よ?」
「いや、分からないのだけど」
「リウイ様。もしかして、昨日、絡まれた者達が難癖をつけてきたのでは?」
アルネブがそう言うのを聞いて、ティナは僕の胸倉をつかんだ。
「あんた。やっっっぱり、何かしていたわね!」
「い、いや、何かしたという訳ではなくえ、あれは事故だからっ」
「事故~? 事故っていうのは、事故を起こした本人は事故って思わない事もあるって、何かの本で読んだけど、本当ねっ」
「それは偏見ですっ。頼むから、話を聞いてっ」
胸倉をつかんで僕を揺らすティナを落ちつかせるのに時間が掛かった。
ようやく、ティナを落ち着かせて、昨日遭った事を話して、とりあえず、僕達は外に出る事にした。
途中、ティナ達は「因縁をつけてくるとか言い度胸しているわね。炭にしてやろうかしら?」とか「馬鹿ね。殺したら、後始末が面倒でしょう。此処は腕か耳の一つをケジメに貰うのが一番よ」と怖い会話をしている気がしたけど、気のせいだろう。うん。
そして、僕達は宿の外に出た。
宿の入り口近くには、狐目で白哲の肌で頬から顎の線が細く、漆黒の髪を一つ結びにして腰まで流しているので女性の様な印象を抱かせたが、胸が出てない事と、喉仏があるので男性だと分かった、
そして、その人は額の所に天に向かって、二本の黒い角を生やしていた。
「貴方が、リウイ様で?」
男性は僕をジッと見て訊ねてきた。
「はい。僕がリウイです」
とりあえず、名前は名乗っておこう。
すると。その男性はいきなり跪いた。
「「「えっ⁉」」」
いきなり、跪くので、僕達は驚きの声をあげるが、男性は構わず話し出した。
「このような朝の時間に、事前に何も言わず来た無礼をご容赦ください。何分、昨日の夜に、リウイ様の事を聞きまして、それから今の今まで、何処の宿に居るのか探し回っていた所存。どうか、平にご容赦を」
「いえ、その、別に気にしていません。それで、貴方は?」
「はい。自分はダイゴクっていう、しがない傭兵でございます」
「はぁ、その傭兵が僕に何の用で?」
「ハバキの姐さんには世話になってましてね。昨日、この都市に来てギルドに寄ったら『虐殺者の息子がこの都市に来た』っていう話を耳に挟んだので、本当に姐さんの子供なのか知りたくて来ました」
「そうですか。母の知り合いですか。よく、信じましたね」
こう言っては、何だが、母と僕はそんなに似ていないのだが。
「いえいえ、自分は姐さんとは子供の頃からの付き合いですが、リウイ様は姐さんの子供の頃にそっくりですよ。瓜二つと言っても過言じゃありませんよ」
「えっ、本当?」
「はい。本当です」
母さんは僕を見てよく「わたしの子供の頃にそっくりだ」とか言っていたけど、本当だったんだ。
男の子は母親に似るって本当なんだな。
「そうなんだ。あの、詳しく話を聞きたいので、中に入りませんか?」
流石に、こんな所で跪かせていると、人目もあるから気になってしょうがない。
「ありがとうございます。では、お言葉に甘えて」
僕達は宿に入ろうとしたら。
「居たぞっ」
「ようやく見つけたぜっ」
うん? 今度は何?
そう思っている間に、何か大勢の人達がやって来た。
「ようやく見つけたぜ。クソガキっ」
「え~と、・・・・・・誰?」
見覚えが無い顔なので、思わず訊ねた。
「てめえ、昨日の事を忘れたとか抜かすのか? あん?」
「と言われても、本当に誰?」
「てんんめえええっ」
憤っているけど本当に誰か分からない。
誰だろうとおもい返していると、アルネブが傍に着て僕の耳元で囁く。
「昨日、わたしが首を絞めた奴ですよ」
ああ、言われてみれば、こんな顔だったな。
確か『レッド・クロウ』とかいうチームのだっけ。
「あれ、三人チームって聞いていたけど」
今は、えっと、ひいふうみい・・・・・・全部で三十人は居るな。
「恐らく、アライアンスに声を掛けたんでしょう」
「あらいあんす?」
「ああ、リウイ様は御存じありませんよね。アライアンスというのは、多数のチームが一緒に仕事をする際に作るチーム制の事ですよ」
「成程」
へぇ、前世ではそんなのなかったから、驚きだな。
「おい、てめえ、今すぐ、詫びとしてその兎メイドをこっちに寄越すのならなら許してやるっ」
「詫びも何も、昨日、アルネブが貴方達に因縁をつけました?」
「俺達を跪かせただろうがっ‼」
「と言われても、こちらは何も詫びる事はないので」
「じゃあ、詫びるつもりはないようだな。よし、身ぐるみ剥いでから、奴隷にして売り飛ばしてやるっ」
そう言って、男達は得物を抜きだした。
「単純思考というか、短絡的すぎないか?」
「そんな事を言ってないで、あんたは宿でまだ寝ている奴らを起こしてきなさいよっ」
ティナは魔弾銃を構え、アルネブは剣を抜いた。
仕方がない。皆を起こしに行くか。
そう行動しようとしたら。
「おっと、待ちなっ」
突然、ダイゴクさんが大きな声をあげて『レッド・クロウアライアンス』を制止させた。
「何だ、てめえは?」
「この方には先約があるんだ。それが終るまで、てめえらはすっこんでなっ」
「ふざけた事を言いやがってっ」
「まずは、てめえから血祭りにあげてやろうかっ!」
ダイゴクさんの言葉を聞いて『レッド・クロウアライアンス』達は得物をダイゴクさんに突き付ける。
それを見てダイゴクさんは嗤った。
「へっ、そんな得物であっしを殺せるつもりか?」
あっ、さっきまで自分の事を『自分』って言っていたけど、今は『あっし』って言った。
これは、何かのスイッチが入ったようだ。
そして、ダイゴクさんは僕に笑顔を向ける。
「リウイ様。すいませんが。話は少し待ってくれませんか。ちょっと、野暮用が出来ましたので、それを片付けてからで良いですか?」
「……ええ、僕は構いませんよ」
「そうですか。じゃあ」
そう言って、ダイゴクさんは何も無い空間に手を差し入れる。
その空間から鞘に納まった刀が出て来た。
へぇ、今の世じゃあ、刀はあるんだ。
長さ的に、これは太刀のようだ。
ダイゴクさんは鞘を左手で持ちながら、顔の前まで持ってきた。
「悪いが、てめえらに、あまり時間を掛けるつもりはねぇ。逃げるなら、今の内だぞ?」
氷の様に冷たい声を言うので、背筋が震えた。
それは、相手も同じだったようで、腰が引いていた。
「そうかい。じゃあ傭兵旅団『義死鬼八束脛』二代目総長ダイゴク・キリサンガジョウ。推して参る」
そう言って、鞘から刀を抜いて、鞘を地面に捨てるように投げて『レッド・クロウアライアンス』に襲い掛かる。
「『義死鬼八束脛』だと⁉」
「大陸最強にして最恐の傭兵集団じゃねえか⁈」
「そんな奴が居るなんて、聞いてねえぞ!」
あっ、何かもう勝負があった空気だ。
此処は、うん。あれだ。
「宿の中に入って待ってようか?」
「賛成」
「わたしも同感です」
僕達は宿の中に入る事にした。
悲鳴やら何やら聞こえて来るけど、無視だ無視。




