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第30話 そう言えば、そんな事話してたな

 食堂に行き朝ご飯を食べ終えた僕は、これから何をしようかと考えた。

 昨日の事があったので、今日は訓練は中止と通達があった。なので、する事がない。

 何をしようかと考えた僕は王宮内を散策する事にした。

 王宮内の事はあまり知らないので、何処に何があるかぐらいは知っていても問題ないだろう。

 立ち入り禁止区域があったら、誰かしら立っているだろうから分かる筈だ。

 僕は目的地も決めずに歩き出す。

 こうして歩いていると、中世の城の中を見る経験などないせいか、あちらこちらに目を向けてしまう。

(まるで田舎から出て来たおのぼりさんだな・・・・・・)

 自分のしている事に苦笑した。

 恥ずかしい事をしているのは分かっているのだが、どうも知的好奇心は抑えきれない。

 なので、色々な所を見てしまう。

「おや、これはイノータ殿でないですか」

 そう僕に声を掛けるのは、アスクレイ侯爵だった。

「侯爵様、お久しぶりです」

「イノータ殿も御壮健そうでなによりです」

 アスクレイ侯爵が嬉しそうに笑顔を浮かべる。

(何か良い事あったのかな?)

 そう思っていたら、アスクレイ侯爵が口を開いた。

「丁度、イノータ殿の所に行こうと思っていました。入れ違いにならないで良かった」

「何かご用ですか?」

「この前、話した件で我が屋敷に来てもらいますかな?」

「この前?」

 一瞬、何を言っているんだろう? と考えた。

(・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ああ、あれかっ‼)

 何か知り合いから良く分からない物が、届くとか言っていた事だと思う。

 多分、それだなと思うが一応聞いておく。

「ああ、あの件ですか。お屋敷に良く分からない物が届くという・・・・・・」

「そうです。昨日ようやく届いたので、是非イノータ殿にも見て貰おうかと」

 今日は特にやる事がないので、別に問題ない。

「良いですね、今から行っても問題ないですか?」

「ええ、こちらは問題ありません。では、向かうとしましょう」

 アスクレイ侯爵と共に、僕は侯爵の屋敷に向かう。


 ***********************


 中庭に用意されていた馬車に乗り込み、馬車の窓から外を眺める。

 改めて、王都を見た。

 道は馬車が行き交える程広く、石畳が綺麗に舗装されていた。

(外で生活するのも問題ないかもしれないな。まぁ、王都みたいに治安が整っているとは限らないけど)

 そう考えて外を見ていたら、アスクレイ侯爵が話しかけてきた。

「王都を見るのは、初めてですか?」

「あまり外に出ないので・・・・・・」

 まぁ、この間グリフォンで咥えられて空から王都を見たけど、地上から王都を見るのは初めてだ。

 あれはあれでいい経験だったな。

 そうこう考えていたら、馬車が止まった。

 多分、屋敷に着いたのだろう。

 馬車を操っていた御者が扉を開けた。

「ようやく屋敷に着きましたね」

「ええ、では参りましょうか」

 アスクレイ侯爵を先頭に屋敷に入る。

 玄関前には使用人達が出迎えてくれた。その中には研究所で茶を出してくれたメイドも居た。

「「「お帰りなさいませ。旦那様」」」

 こうゆうのを見ると、この人も貴族なんだなと思った。

 見ていたら、使用人の中から一人年配の人が前に出て来た。

「お帰りさないませ、旦那様」

「うむ、何か問題はあったか?」

「・・・・・・お嬢様が」

「ああ、またか・・・・・・・」

 侯爵が疲れきった声で呟く。

 お嬢様?

 多分、侯爵の娘さんなんだろうな。

(何か問題がある人なのだろうか?)

 そう思っていたら、玄関が突然音を立てて開いた。

「お父様、お帰りなさい」

「こら、エリザ。はしたないぞ、お客様の前だぞ」

「いいじゃない。別に」

 エリザと言われた人は、侯爵にそう言いながら僕を見る。

「ふ~ん、こいつが異世界人ね」

 僕を頭のてっつぺんから足までじっくり見た。

「・・・・・・まるで、豚ね」

 会うなり、いきなり人を馬鹿にするこの人は誰だ?

「エリザ。お客様に何と無礼な事を‼」

「だって、見た感じそう思ったんだもん。仕方がないでしょう。お父様」

 アスクレイ侯爵に怒られても、何とも思っていない少女を僕は見た。

 平均的な女性の身長に比べたら低い方だ。子供と言われてもおかしくない。

 胸は身長に比べたら、それなりに育っているほうだ。

 父親と違い、燃える炎のような赤い髪。翠色の瞳。

 童顔のせいか、僕よりも年下に見える。

 僕がジッと見ていたのを分かったのか、父親に向けていた目を僕に向ける。

 まるで鼠を見つけた猫のような顔をしながら。

「何よ。何か言いたい事でもあるの?」

「いえ、別にありません」

「ふん、はっきりしない男ね。お父様も何処が気に入ったのかしら」

 そう言いながらも、エリザさんは僕をジロジロ見てくる。

 何か、居心地悪いな。

「申し訳ない。この者は私の娘です。どうかご無礼の程をご容赦下さい」

「いえ、口が悪い人には裏表がないと言いますから、寧ろ清々しいですね」

 今までこうもハッキリと罵倒された事が、無かったので新鮮だった。

 皆陰で色々な事を言いはするが、僕の前でこうハッキリ言う人には会った事がない。

 それを聞いて、感心したように僕を見るエリザさん。

「ふ~ん、見た目に豚のようだけど意外に芯はあるのかしら」

「エリザッ!」

「・・・・・・分かりましたわ。お父様」

 そう言って、エリザさんはスカートの端を持って会釈する。

「我が屋敷にようこそおいで下さいました。異世界人様、わたくしはエリゼヴィア・フォン・アスクレイと申します、以後お見知りおきの事を」

 こうゆう挨拶を見ると、この人も貴族なんだなと思う。

 僕が何も言わず見ていたので、エリザさんが顔をあげるなり、怪訝な顔をしだした。

「わたくしが名乗ったのだから、あなたも名乗りなさいよ。それとも自分の名前を名乗れない野蛮人なのかしら?」

 エリザさんがそう言うと、アスクレイ侯爵と使用人の皆さんが頭を抱えだした。

 僕もそう言われて、エリザさんに見とれていて挨拶を忘れていた事を思い出す。

「済みません。挨拶を忘れてました。僕は猪田信康です。どうぞ、気軽にイノータと呼んでください」

 僕がそう言うと、エリザさん以外ギョッとした顔で僕を見る。

 何か、変な事したかな?

(そう言えば、貴族に挨拶する時は、確か作法があるとか聞いた事があるな。もしかして、それをしなかったから、驚いたのかな?)

 この世界に来てそれなりの時間は経っているが、習ったのは戦闘技術と文字の書き方ぐらいだ。

 魔法と礼法は今度教えてもらえると聞いている。

 今は仕方が無いので無作法で通すしかない。

「ふん、貴族に対する礼儀も出来ないなんて、あなたの居た世界は余程野蛮な所だったのでしょうねっ」

「エリザ、いい加減にしなさい。これ以上の暴言は許さんぞ」

 アスクレイ侯爵も流石に怒り出しそうだ。

「はいはい、では、どうぞ。お入り下さい」

 エリザさんが横に避けて、僕を通すようにしてくれた。

「では、お邪魔します」

 流石に貴族の屋敷に無言で入れるほどの肝っ玉持っていない。

 一言呟いて入る。

 屋敷の中に入ると、まず目に付いたのは大きなシャンデリアだった。

 ローソクではなく電灯みたいに灯りが灯っている。

 王宮にも似たような物があったが、貴族の屋敷でも似たような物があるとは思わなかった。

(てっきり、王宮にしかないとか、そうゆうのだと思っていたけど違ったか)

 恐らく魔法を使って灯りが灯っているのだろう。

 一貴族の家にもあるのだから、一般の家にも広まっていると思う。

「どうかしましたか?」

「いえ、別に何でもありません」

 アスクレイ侯爵と話していたら、後ろから背中を突っつかれた。

「ちょっと早く入りなさいよ。あなたが入らないと、わたくしも入れないでしょう」

「ああ、ごめんなさい」

「まったく、気が利かない子豚だ事」

「子豚?」

 何か、自分より小さい女性にそう言われるのは違和感を感じるな。

「ええ、あなた今年で十五~六ぐらいでしょう?」

「そうですが。それが?」

「わたくしはこう見えて、今年で十七になります。つまり」

「あなたの方が年上ですか」

「そう、その通り。豚のような見た目だし、わたくしよりも年下だから、これからあなたの事を子豚と呼んであげますわ。感謝しなさい。オ~ホホホホホホホホッ!」

 おお、漫画とかで見る貴族の御令嬢の笑い方を始めて見た。

 やっぱり、口を手で隠して笑うんだ。

「じゃあ、僕はあなたの事はなんて呼べば良いんですか?」

「えっ、・・・・・・・そうね。え、えっと・・・・・・・・」

 エリザさん一瞬キョトンとしたが、直ぐに気を取り戻し、何て呼んだら良いのかと周りの人を見る。

 使用人達は皆そっぽ向いた。

 アスクレイ侯爵だけは、何故か口を開けて驚いている。

「え、えっと、・・・・・・・・そうね。わたくしの事はエリゼヴィア様と呼びなさい」

「分かりました。エリゼヴィア様」

「・・・・・・・ふん、聞き分けの良い、子豚だことっ」

 エリザヴィア様はそう言って何処かに行ってしまった。

「イノータ殿、娘が度々失礼な事をして申し訳ございません。どうか、わたしに免じてご容赦を」

「いえ、別に怒ってはいませんから」

 色々言われたが、別に怒る事ではない。

 豚と言われたのも、僕の見た目がそう見えるから仕方がないし、相手が挨拶したのに礼儀を無視して挨拶したのだ、向こうが罵倒しても変ではない。

 向こうの世界では、正面きって僕の身体的特徴で馬鹿にする人など居なかったので新鮮だった。

「それではわたしの書斎の方へ行きましょう。そこに見てもらいたい物がありますので」

「分かりました」

 アスクレイ侯爵の案内で僕は侯爵の書斎に向かう。

(書斎だから、王宮の図書室みたいに本が沢山あるのかな、それと木簡で書き記されているのかな? ちょっと楽しみだな)

 内心、ワクワクしながら書斎に向かう。


 





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