第94話 そうこうしている内に
「はぁ。わたしもそう思い言ったのですが。これでも減らした方だそうです」
「これで⁉」
千五百人近く居るぞ。
しかも、人選があからさま過ぎる。
「ちなみに、この各氏族にある名前にある下の数は男女合わせて?」
「いえ、全員女性だそうです」
「だよね~」
思いっきりお手付き狙いで送って来たというのが分かる。
しかし、これだけ連れて、向こうの大陸に行けと、どう考えても、大きい船三隻は必要な人数だろう。
「これだけの人数を運ぶのか、ソフィーはどんな手段を使うのやら」
「うん? どういう意味ですか?」
「ああ、実はね」
僕はソフィーと話した事を、リッシュモンドに話した。
「う~ん。これだけの人数ですから、流石に難しいと思います。ですが、ソフィーディア殿がそう言うのであれば、何かしらの考えがあるのでは?」
「そうかな?」
「あの方は考えなしの発言はしません。娘と違って」
「う~ん。そうかな?」
ティナって、そんなに考えないで行動するかな?
・・・・・・よく考えたらしているかも。
「おほん。とにかく、この紙をソフィーに見せてきて、その事について話を聞いて来てくれるかな」
「畏まりました。ああ、それと本日は仕事がありませんので、どうぞ自由に過ごして下さい」
リッシュモンドは一礼して、部屋から出て行った。
自由か。引継ぎとか色々とあると思ったのだけど、リッシュモンドがやってくれるようだ。
なら、お言葉に甘えて、この土地に戻れるか分からないから、今の内に、この都市の名産品でも食べておくか。
そう思って、席を立とうとしたら。
コンコンコン!
何か、激しくドアが叩かれているぞ。
「誰だ?」
『あたし、ティナよ。入っても良い?」
「どうぞ」
僕が入るのを許可すると、ドアが開いた途端。
ティナじゃない人達が部屋に入って来た。
「はいっ⁉」
部屋に入って来たのは、姉さん達だった。
「全く、この子はっ」
そう言いながら、僕の頬を引っ張るイザドラ姉上。
「わ た し は考える時間を与えるとは言いましたが、領地に帰れとはひとっっっことも言っていませんよ。それなのに、勝手に領地に戻るとはどういうつもりなのかしら⁉」
「いはい、いはい、いはいよ、あへうえ」
「痛くしているのだから、当然です。で、どうして、わたしの言う事を聞かなかったのかしら? 返答次第では、こちらにも考えがあるわよ」
そんなに怒る事ではないと思うのだけど。
「ね、姉さん。お、落ち着いて・・・・・・」
「そうよ。姉さんが落ち着かなかったら、ウ~ちゃんも話が出来ないわ」
怒っているイザドラ姉上を宥めるヘル姉さんとフェル姉。
「う~~~ん。疲れた。ティナ~、お茶とお菓子持ってきて~」
ミリア姉ちゃんは我関せずと言わんばかりに、自由にしていた。貴方、何をしに来たの?
「は、はい。直ちにっ」
ティナは僕に顔を向けると、手を合わせて頭を下げた。
御免と謝っているようだ。
そして、部屋から出て行った。
「ふぅ、そうですね。此処はリウイの話も聞きませんと」
と言いながら、何故か僕の頬から手を離さない姉上。
寧ろ、頬を引っ張る感触を楽しみだした。
「ふむ。これはこれで面白いですね」
「ひょっと」
「ああ、ごめんなさい。手を離しますね」
ようやく、イザドラ姉上は僕の頬から手を離した。
「で、わたしに何か言う事はないのですか?」
う~ん。そうだな」
「勝手に出て行って反省はしているけど、後悔はしてない」
「ほぅ」
その言葉を聞いて、唇を尖らせるイザドラ姉上。
僕の目をジッと見たけど、直ぐに見るの止めた。
「まぁ、いいでしょう。それよりも、貴方、本当に向こうの大陸に行くのですか?」
「うん」
力強く断言した。
「・・・・・・リウイの事を考えて行くなとは言ったら、貴方の事だから無断で良くでしょう。という訳で、此処はわたしが姉として、特別に、超特別に、渋々ですがっ。妥協案を提案します」
「妥協案?」
「ええ、貴方が行く事に反対はしません」
えっ? 本当⁉
「ただしっ、一年後です。一年後でしたら、わたしも何も言いません。向こうの大陸に行く事を許可します」
「よっしっっっ・・・・・・何で、一年後?」
「それは貴方がまだ子供とだからです。せめて、十六でしたら、誰も文句はつけないでしょう。」
十六か。早く行きたいのだけどな。
というか、何で一年後なんだ?
「・・・・・・まさか、そう言って、この大陸から飛び出すのを妨害するつもり?」
「そんな事をしてたら、貴方の事だから、強引にでも旅立つでしょう」
確かに。だとしたら。
「もしかして、一緒に付いて来るつもりじゃないよね?」
何て言って、それはないだろうと思いつつ、イザドラ姉上の顔を見ると。
「おっほほ、そんなことをするわけないでしょうに。ほほほ」
何か、顔が引きつってないか?
「・・・・・・付いて来るつもりなんでしょう?」
「ふ、ふふ、まさか」
僕がジ~っと見ていると、イザドラ姉上は口元を手で隠しながら笑う。
だが、目がさりげなく僕を合わせない様にしていた。
これは確定だな。
「そっか。なら、良いんだ。もし、付いて行くと言ったら、姉上とは金輪際、口をきかないと言うつもりだったんだ」
「っ⁉」
僕がそう言うと、イザドラ姉上は雷を打たれたかのような顔をしていた。
この姉は。
「お、おほほ、そんな事を言う訳ないじゃないですか。まったく、この子はっ」
「そっか。じゃあ良いんだ。ああ、よかった!」
僕はニッコリと笑顔を浮かべた。
これで、付いて来る事は出来ないようにした。
後は、多分、僕が国を出る時は邪魔するかもしれないから、出国する時期をバレない様にしないとな。




