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閑話 父親の誤算

 父親視点最後の話です。

 翌日。


 儂は謁見の間に行く前に、ある者と会っていた。

 その者は。

「バッキ―、久しぶりじゃのうっ」

 儂は久しぶりに会うリウイの母であるハバキに飛びつく。

「止めろ。馬鹿者」

 そう言って、儂の顔面に拳を叩き込まれ、その衝撃で壁までぶっ飛んだ。

 儂は壁にめり込まれたが、気にせず話しかける。

「相変わらず、過激な愛情表現じゃのう」

「お前がいきなり飛び掛かって来るからだ。馬鹿者が」

 ハバキは椅子に座り、持参して来た酒瓶をラッパ飲みする。

 ふふふ、そうやって照れて、飲み物を飲むのは変わらんのう。

 懐かしい物を見るかのような目で見ていた所為か、ハバキが酒を飲むのを止めて儂を見る。

「で、わたしを呼んだ理由は何だ?」

「いや、久しぶりに会うのじゃから、逢瀬でも楽しもうかと」

「・・・・・・ほぅ」

 ハバキがジト目で儂を見る。

「おほん。勿論、今のは冗談じゃ。本当はリウイの事についてじゃ」

「リウイの?」

「うむ。あやつは今回の王位継承権の事はどう思っておるのか教えてくれぬか?」

 正直に言って、才能はあるようじゃ。まぁ、どちらかと言えば内政面の才能のようじゃ。軍事関連はどうにも話に聞かぬので分からん。

 なので、兄達に勝てるのか分からん。

 もし、リウイが弱いのであれば、母親のこいつ経由で、王位継承権を破棄させた方が賢明じゃ。

「そうだな。あの子は、・・・王位を破棄するようだぞ」

「なに?」

 王位継承権を破棄するか。ふむ、無謀な事はしないか。

「そうか。なら、良いのじゃが」

「ふん。まぁ、その後は何か言うつもりのようだぞ。心の準備はしておけ」

「うん?どういう意味じゃ?」

「直ぐに分かる」

 ハバキはそれ以上、何も教えてくれなかった。


 数時間後。


 儂は謁見の間にある玉座に座る。

 儂が来る前に、既に息子たちは来ていたようで、儂が玉座に座るまでは、皆頭を下げて平伏していた。

 玉座に座ると、皆顔をあげた。

「一晩考えて、皆答えは出たようじゃな。では、答えを聞こう」

 さて、誰が先に王位継承権を破棄するかのう。

「父上」

 まっさきに手を挙げたのは、リウイであった。

 ふむ。末の弟が先か。

「リウイ。お主はどっちにするのじゃ?」

「僕は王位継承権を破棄します」

「そうか」

 ここまでは、ハバキに訊いていた通りじゃ。

 儂は頷きながら、内心で喜んでいた。

「つきましては、僕の領地も返上いたしたいと思います」

「うん?」

 領地の返上じゃと⁉

 それは、つまり。

「リウイよ。それはどういう意味か分かって言っておるのか?」

「はい。父上。僕は領主を止めて、向こうの大陸に行きたいと思います」

「ぶふううううううっ⁉」

 驚きのあまり、吹きだしてしまった。

「ち、ちちうえ?」

 吹きだす儂を見て、子供達は驚いていた約一名を除いて。

「り、りりういよ。おま、おまえは、りょうしゅもやめて、むこうのたいりくにいくというのか?」

「はい。そのつもりですっ」

 き、聞き間違えでも無く、本気で言っているようじゃ。

 まずい。非常にまずいぞ。

 こやつが、むこうの大陸に行ってしまったら。


 誰がイザドラを抑えるんじゃあ‼


 儂やロゼティータやソアヴィゴですら手を焼いている存在を、こいつはまるで魔獣を飼いならす魔獣使いの様に言う事を聞かせている。

 儂の予想では、王位継承権は破棄しても、領主にはなるじゃろうなと思っておったのにっ。

 まずい。此処はそんな気持ちを翻意させねば。

 でないと、儂の首が飛ぶっ。

 何故って、イザドラが今にも儂を食い殺さんとばかりに睨んでいる。

 向こうの大陸に行くのは駄目だと言えと言っているようじゃ。

「おほん、リウイよ。お主はまだ十五じゃ。せめて、後十年はこの国に居ても良いといいじゃろう。というか、むしろ一生いろ」

「は? ですが。父上。王位継承権を破棄して領地を持っていたら、変に疑われるかも知れませんで。返上します。領地が無い以上、どうやって暮らしていけと?」

「そんなのは、この魔都で暮らせば良かろう。生活ぐらいは援助してやろう」

「父上が王であれば構いませんが退位して『魔皇』になるのです。次の王にまで生活費を援助させるのはどうかと思います」

 むむ、言っている事が全て一理ある。

 これは困ったのう。こやつ、儂よりも弁が立つぞ。このままでは論破される。どうしたものかのう。

「……っち、使えない」

 おいいっ、イザドラ。おんどりゃあ、父に対して何とと言う事を言っておるんじゃあっ。

 かなり距離があるのに、舌打ちが聞こえるとか、どんだけ大きい舌打ちじゃあ!

 うん? 唇が動いているな。

 ええっと、だ、つ、た、ら、せ、つ、と、く、し、ろじゃと。

 出来たらやっとるわ。しかし、儂では無理の様じゃ。

 そう思って、イザドラを見ると。また唇を動かした。

 今度は、ち、ち、お、や、の、い、げ、ん、を、み、せ、ろじゃと。

 むうう、難しいのう。

 渋い顔をしていた所為か、イザドラは。

「はぁ~~~」

 すっごい重い溜め息を吐きだしおった。

「父上。此処はリウイにはもう一度考える時間を与えましょう。父上程度ではどれだけ話しても無駄ですから」

「イザドラ? 今、何か聞き捨てならない事を言わなかったか?」

「リウイ。本当に本当に魔国を出たいと言うのでしたら、よぉく、考えてから明日、わたしに言いなさい。良いですね」

「・・・・・・はい」

 おぅい、息子! 何で、イザドラが言うと素直になるんじゃあ?

 おまん、儂に恨みでもあるのか? ああ?

「では、下がりなさい」

「分かりました」

 リウイは儂達に一礼して、部屋から出て行った。

「……まったく、少し見てない間に生意気な事を言うようになって」

 イザドラは困った子を見るかのように微笑む。

 顔は微笑んでいるのじゃが。


 ビタン、ビタンビタン‼


 イザドラの尻から出ている尻尾が、床を激しく叩いている。

 こ、これは、まずい。

「イザ姉。マジで怒ってる」

「イザドラ姉さんが尻尾で床を叩いている時は、超不機嫌な時か本気で怒っているかのどっちかだからね」

「やれやれ、面倒な妹じゃのう」

「……」

 おい。娘達、イザドラを宥めんか、姉妹という事で宥める事は出来るじゃろう。

「父上」

「は、はいっ」

「話を進ませても良いですか?このままダラダラと続けても時間の無駄ですから」

 

 ビタンビタンビタンビタンビタンビタンビタンビタン‼


 イザドラは笑顔で尻尾を床を割るかのように叩きつけた。

「お、おお、お、し、しかいは、おまえにまかせる・・・・・・・」

「ありがとうございます」

 イザドラが軽く頭を下げから、皆を見た。

「では、王位継承権を破棄したい者は前に出て、宣言しなさい。そして部屋から出て行きなさい」

 イザドラが司会をして、テキパキと進んでいった。

 ……まぁ、これで肩の荷が降ろせるのう。

 そう思うと、何故かホッとした。

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