第85話 面倒な姉だな
「という事があったんだよ。ユエ」
「成程。それは大変だったな。ノブ」
護衛役としてアルトリアを連れて館を出た僕は、ユエの店に着くなり、茶を飲みながらユエに先程あった話を話した。
「はぁ、弟離れしない姉って面倒だな」
「しかし、姉が居ると言うのも悪く無かろう。わたしは一人っ子だったから、姉も兄も居なくて寂しいと思ったものだぞ」
「それはそうかも知れないけど、流石に限度があると思うのだけど」
「確かにな、だが」
ユエはカップをソーサーに置いた。
「それだけ、お前の事が可愛くて心配だという事も理解してやれ。何度かお前の乳母と話をしたが、子供の頃のお前は目を離すと何処にでもいくやんちゃな子供だったと言っていたぞ」
むっ、それを言われると耳が痛い。……ん? ちょっと待てよ。
「……何時の間に、ソフィーと親しくなったの?」
「お前の館に何度か足を運んだ事があるからな。それで、顔を覚えて、話をする様になった」
「相変わらず、抜け目がないね」
「ふふ、そうかもな」
まさか、ユエに黒歴史を知られるとは、今度からソフィーにはそういう話をしないように言っておかないとな。
まぁ、僕の知られたくない所を知られたが、久しぶりにユエと長話をした。
数時間後。
そろそろ夜になるので、僕は館に帰る事にした。
ユエは「泊まっても構わないぞ」と言ってきたけど断った。何か企んでそうだし。
で、館に戻って来たのだけど。
『シクシクシクシク』
という、何処からか女の人の泣き声が聞こえて来る。
耳を傾けて聞いてみると、何か聞き覚えがあるような声の気がする。
泣き声に聞いていると。前からロゼ姉様がやってきた。
「おお、リィン。お帰りなのじゃ」
「ただいま。ロゼ姉様」
「ちょうど、人をやって迎えに行かせようと思っていた所じゃたが、タイミングが良いの」
「あの、この泣き声は誰があげているの?」
「……イザドラじゃよ」
「姉上が?」
「うむ。お主にきつい事を言われて、気を失って目を覚ましてから、ず~~っと泣き続けているのじゃ」
溜め息を吐くロゼ姉様。
はぁ、何というか、面倒な姉だな。
「という訳でじゃ。済まぬが」
「みなまで言わなくても分かったよ」
「済まぬな」
ロゼ姉様に気にしないでと手を振って、この泣き声に主であるイザドラ姉上の部屋に向かった。
『シクシクシクシクシク・・・・・・』
イザドラ姉上が居る部屋の前まで来ると、泣き声がハッキリと聞こえて来た。
僕は溜め息を吐きながら、ドアをノックした。
『・・・誰だ?』
「この声、ヘル姉さん?」
『そうだ。リウイだな。待っていろ』
少しして、ヘル姉さんはドアを開けてくれた。
「丁度いい時に来てくれたな。リウイ」
「うん。で、姉上は?」
ヘル姉さんは何も言わず、僕を部屋に招き入れると、部屋にあるベッドの上で。
「シクシクシク・・・・・・・」
布団に包まりながら泣き声をあげているイザドラ姉上が居た。
「・・・・・・何時から泣いているの?」
僕がそう尋ねると、ヘル姉さんはコメカミを指で突っつきながら押しえてくれた。
「ええっと、リウイが部屋から出て行って、イザドラ姉さんが気を失って、それでこの部屋に運んで、わたしが看病していると、気を取り戻してからずっと泣きっぱなしだから、かれこれ数時間は泣いている」
そんなに⁉
よく、涙が枯れないな。
「リウイ。言いたい事はあるだろうが。イザドラ姉さんもリウイの事を心配していたのは、確かなんだ。だから、ここはわたしの顔を免じて・・・な?」
むぅぅ、ヘル姉さんにそう言われたら、これいじょう怒れないじゃないか。
…………仕方がないか。
イザドラ姉上も心配していたのは確かなのだから。
僕はベッドに近付く。
「その、姉上」
僕がベッドで包まっている姉上に声を掛けた。
すると、泣き声がピタッと止んだ。
「・・・・・・」
そして、包まった布団の中から僕を見る。
「その、僕も言い過ぎました。姉上が僕を心配していたのは本当なのに、何か信頼されていないと思ってつい、カッとなって」
「・・・・・・」
「ごめんなさい」
言ってて思ったけど、これって僕が謝る事なのか? う~ん。まぁ、いいか。
僕が頭を下げて謝ったが、姉上は布団から出る気配がない。
「ほ、ほんとうにゆるしてくれます・・・・・・?」
「うん。本当にっ」
じゃないと、泣き声で五月蠅くなりそうだし。
「本当の本当に?」
「うん!」
「本当の本当の本当に?」
「だから、うん!」
「・・・・・・りうい~~~」
うわっ、今度は泣きながら布団から出てきて僕に抱き付いてきた。
「うっ、うう~、りうい~~~~~」
僕を力強く抱き締めるので、姉上の豊満な胸で鼻を塞がれ、い、息が出来ない。
「ううううううううう」
姉上は泣き声をあげている所為か気付いていない。
僕がイザドラ姉上の背中を叩いても気付いた様子はない。
顔が胸で埋まっているので、ヘル姉さんに助けも呼べない。
「ん、んんんん~~~~(た、たすけて~~~~)」
僕は胸に顔を埋めながら叫んだが、くぐもった声では何と言っているか分からないようで、ヘル姉さんは。
「ほっ、これで一安心だ」
仲直りしたと勘違いして、安堵の息を吐いていた。
誰でも良いから、助けて下さい!僕は心の中でそう叫んだ。




