第82話 こうなる事は予想していました
待つ事、三十分。
「皆様、お待たせしました」
ユエが部屋に入るなり一礼した。
「やぁ、ディアーネ殿」
僕が気軽に挨拶すると、ユエは微笑んだ。
そして、姉さん達を見ていると、イザドラ姉上を見るなり、再び僕を見る。
「こちらの方は?」
「ああ、この人は」
「お初にお目に掛かります。ディアーネ殿ですね。わたしはリウイの姉のイザドラと申します。今後ともよろしくお願いしますね」
何か、今べつな事を言わなかった? 気のせいかな?
「これはこれは、ご丁寧な挨拶痛み入ります。リウイ殿とは常々良くさせております。公私ともに」
ユエも笑顔で言う。
「あら、そうなのですか。リウイも年頃ですからね。女性と親しくなりたいのも仕方がないですから」
「ほっほほ。そうですね。リウイ殿の年頃でしたら、女性に興味を持つのは不思議ではないですね。まして、交友関係に口を出す人は居ませんようですし」
「あら、そうなのですか? リウイ?」
「い、いえ、べつに、そういう訳では」
「ほっほほ、リウイ殿も魔都から離れて、羽根をのばせると言っていたではないですか」
やめて! それ以上、こっちに話を振らないでっ。
たたでさえ、宥めるのに苦労する人なんだから。
「……」
何か、イザドラ姉上が僕を見る目に力が入って来た気がする。
ここは話を誤魔化さないと駄目だな。
「そう言えば、姉上はどうして此処に来たのですか?」
「ああ、そんなの簡単です。可愛い弟に会うために来たに決まっているでしょう」
だと思った。
ユエ以外、皆、僕と同じような顔をしていた。
「あれ? 何か反応が薄いような気がするのですが?」
「う、う~ん。まぁ、予想通りかなと思って」
「よ、予想通りですか。う~む。もう少し驚くと思ったのですけど」
流石に何度もしている所為か、驚く事では無いな。
「イザドラよ。嘘はいかんぞ」
「分かっていますよ。姉様。リウイ、それと皆も、先程のは、冗談ですからね。本当は別の理由があるからです」
「別の理由?」
ユエをいびりに来たのかな?
「その理由って?」
「此処で話す事ではないので、館に戻ったら話します」
結構重要な話のようだな。
「分かったよ。じゃあ、館に戻ろう」
「いえ、戻るのはもう少し後でいいでしょう」
何で?
「もう少し、この方とお話をしてから帰りませんか?」
イザドラ姉上が笑顔でそう訊いてきた。
「いや、もう、話す事はないと思うのだけど……」
笑顔なのにすっごい圧を感じる。
「でも」
「良いではないですか。ああ、ディアーネ殿のお時間はありますか?」
「ええ、大丈夫ですよ。この後は暇ですから」
「そうですか。では、世間話でもしましょうか。ふふふ」
「ええ、そちらの時間を許す限り、存分に話しましょう。ほほほ」
二人共。笑顔なのに、背後に何か鬼やら竜が見えるんだけど?
「……ろ、ロゼ姉様」
「耐えるのじゃ」
ですよね。
仕方が無く、僕達は姉上とユエとの話し合いに参加する事となった。




