第74話 そろそろ動くな
翌日。
僕はバシドを『ランページクラブ』が拠点にしている所に向かわせると、案の定、チームは混乱していた。その慌てぶりは、まるで蜘蛛の子を散らすかのようだそうだ。
これだったら、かなりいけるな。
僕はその情報を、直ぐに敵対チームの『クリムゾン・ティガー』に流す様に指示した。
これでどう動くか、見ものだな。
今夜あたり『プゼルセイレーン』のたまり場になっている店に行って情報収集するか。
そう思いつつ、僕は書類の山から、一枚書類を取る。
「リッシュモンドが視察に行った所はどうだった?」
「鉱山でしたが、産物と言える物は水晶と魔石ですね」
「水晶と魔石か。それは計画的に採取すれば、どれぐらい採れる」
「調べた限りですと、計画的にやれば数十年採れるといったところだそうです」
「分かった。じゃあ、其処は無理な採掘はしないという事で、水晶と魔石を採るようにしよう」
「畏まりました」
今日は領主の仕事に専念していた。
あまり、リッシュモンドに任せていると、しわ寄せが自分に来る事を自覚して、こうして手伝う事位にした。
とりあえず、夜まで書類仕事で時間を潰せそうだ。
なので、今日は領主らしく仕事を頑張るぞ。
そう思いながら、仕事をしていると、ドアの隙間から視線を感じた。
「……どう思う?」
「リウイが、真面目になっただけでは?」
「え~、リウが? 小さい頃から要領よくて、人に仕事を押し付けるのが天才的な子だよ。そんな子が、真面目に仕事するなんて、有り得ないしょ」
「う~ん。これはもしかして、何かの前兆かしら?」
「…あり得るな」
「それって、まずくない?」
「でも、真面目に仕事をしているのに、仕事をしたら駄目というのもどうかと思うわ」
「確かに」
「でもでも、このままじゃあ、何か起こるかもしれないんだよ?」
「困ったわね」
何かフェル姉さん達が、ドアの隙間から僕の仕事ぶりを見て、色々と言っている。
そんなに仕事していない訳ではないのだけど。
まぁ、仕事の邪魔をしないなら好きに言わせておこう。
姉さん達の事は放っておき、僕は仕事に励んだ。
その夜。
僕は『プゼルセイレーン』のたまり場になっている店に行く。
今日はティナを連れて行かず、一人で行く。
なんで、連れて行かないのかというと、今日は『プゼルセイレーン』はどう動くのか知る為なのと、後は『ランページクラブ』から送り込まれたスパイが誰なのか調べる為だ。
ティナを連れて行くと目立つので連れて行かない。
当の本人は渋々だが了承してくれた。
とは言っても、護衛としてルーティ達は付いて来るのは変わらない。
僕は姉さん達に見つからない様に、コッソリと館を出た。
館を出て少し歩くと『プゼルセイレーン』がたまり場になっている店の前に着いた。
店に入ると、今日は客の入りが悪いようで『プゼルセイレーン』の仮メンバーと正メンバー以外の客達は指で数えるぐらいしか居ない。
メンバーの方は店に入って来た僕に気付くと、手を挙げて挨拶してくれた。
僕は会釈して、カウンター席に座る。
すると、マスターが僕の所まで来た。
「注文は?」
「とりあえず、ミルクで」
僕がそう言うと、マスターはコップにミルクを注いで持って来てくれた。
それからは、ミルクを飲みながら閉店時間まで、時間を潰した。
やがて、閉店時間になり、店から客が居なくなる。
マスターは直ぐに閉店作業に掛かった。
僕はミルクを飲んでいると、メンバーの一人が声を掛けて来た。
「おう。ウィル。今日はティナは居ないのか?」
「ええ、今日は用事があるとかで」
「そうか。まぁ、今日は一人で寂しいな」
別にそうは思わないが、此処は苦笑いして誤魔化す。
そう話している間に、ガイウスが店内を見回した。
「よし、では会議を始める」
ガイウスがそう言うと、皆思い思いの席に座る。
「知っている奴も居るかもしれないが、北地区にあった『ブルーファルコン』と『クレイジーベア』が壊滅した」
ガイウスがそう言うと、皆どよめきだした。
「どうして。壊滅したんだ?」
「ガサ入れされたそうだ。それにより、両チームのリーダー格と幹部を含めた構成員は捕まっちまった」
「じゃあ、北地区は?」
「領主の完全支配下になったと考えた方が良いだろう」
「これで、西地区と北地区が領主の完全支配下になっちまったな」
「残るは東地区と、中央区と南地区か」
「そこで、皆に相談がある」
ガイウスが改まって言うので、皆背筋を伸ばした。
「南地区でにある『ランページクラブ』と『クリムゾン・ティガー』の二つのチームが、近い内に派手な抗争をするという情報が入った。俺達も参加しないか?」
ガイウスは皆にそう訊ねた。




