第73話 流石はユエ
館を出た僕は護衛を連れて、ユエの店へと向かう。
ウォルフとヴェインとアリアンを護衛として連れて行った。
偶には違う人を連れて行こうと思ったからだ。
本当はウォルフとアリアンだけの予定だったのだが。
『この者はまだ教育不足ですから、不肖ながら小官もお供致します』
そう言って、ヴェインが付いてきた。
まぁ、教育係がそう言うのだから、まだまだなのだろう。
とは思うものの。
「はい。喜んでお供いたします」
何か、虚ろな目でそんな事を言ってきたけど、まぁ、そんな事を言えるのなら、大丈夫だろう。
それと、久しぶりにアリアンに声を掛けたけど。反応が凄かった。
『っ⁉ ……まぁ、マスターがどうしてもと言うなら、付いて行っても良いですけどっ』
君、そんな事を言うキャラだったけ?
昔はもっとこう神秘的な雰囲気を出していなかった?
まぁ、いっか。
そんな訳で、僕達はユエの店に向かう。
「で、何の用でわたしの所に来たんだ。ノブ」
店に着くと、店員がユエの部屋まで案内してくれた。
ユエが僕の顔を見るなり、そう言う。
隠す事も無いので、正直に言おう。
「実はね」
僕はこれから実行する作戦をユエに話した。
「成程な。混水摸魚の計と二虎競食の計を併せた連環の計か。面白い事を思いつくな」
「そうかな?」
現状で打てる策を打っただけなんだけどね。
「わたしにその話しをしたのだから、何かしらメリットがあるのだろうな? でなければ『ビアンコ・ピピストレロ』は動かさないぞ」
ユエは腕を組みながら、僕をジッと見る。
「勿論、メリットはあるよ」
「ほぅ、どんなメリットだ?」
「一つは他のチームが無くなれば『ビアンコ・ピピストレロ』がこの都市で幅を利かせる事が出来る。そうすれば、商圏が広がるよ」
「……続けろ」
「もう一つは、僕に恩を売る事が出来る」
「……」
ユエは目をつぶり、何か考え込んでいる。
「どうだい? これだけでも十分に『ビアンコ・ピピストレロ』を動かうすのに十分だと思うのだけど」
「……そうだな。悪くないな」
「じゃあ」
「その話しに乗ってやろう」
やった。これで、作戦は成功した。
後は『ランページクラブ』が混乱するのを待つだけだ。
「しかし、良くこのような策を思いつくな。転生しても、その頭の良さは変わらずか」
「そうかもね」
僕はユエが淹れてくれた茶を飲みながら、返事をした。
茶を飲んでいて、ふとある事を思い出した。
――――今度、一緒に美味しい紅茶を飲みませんか?
前世の僕にそんな事を言った女性が居た事を。
「…………」
「急に茶を見つめてどうかしたのか?」
「…ユエ。椎名さんは今、どうしているかな?」
「さぁな。今だに、生死不明だ。わたしの情報網を使っても、まったく情報が入らないからな」
「・・・そっか」
生きていたら、ユエ達みたいに人間を止めているだろう。
別にどんな姿でも良いから、生きているなら会いたいな。椎名さん。死んでいるのなら、墓に花ぐらいは供えたいな。
茶を見ながら、僕はそう思った。




