第69話 やっと話せる。
で、ようやく話が終ったので、僕は口を挟んだ。
「あの、そろそろ話をしても良いかな?」
「あっ、すまない」
「ごめんね~。ちょっと、妹とスキンシップしてて忘れてたわ~」
デネボラは済まなそうに、レグルスはケラケラと笑いながら謝る。
レグルスの言葉を聞いて、デネボラはキッと睨むが、レグルスはどこ吹く風をしていた。
「このウォルフを捕まえたのだから、レグルスは帰るのかい?」
「う~ん。そうね」
顎に指をあてて考えるそぶりを見せるレグルス。
「……少し観光をして良いかしら?」
「こちらは別に構わないけど」
僕はデネボラを見る。
「其処は姉様に任せます。ちゃんとウォルフを連れて帰るのであれば」
「だいじょうぶ。其処はちゃんとするから」
ニッコリと笑うレグルス。
「でも、その間はウォルフの身柄は、そちらで預かってもらっても良いかしら?」
「それぐらい構わないよ」
ちょっと話がしたいと思っていたし。
「じゃあ、後は任せたわね~」
そう言うなり、レグルスは手をヒラヒラと振って、何処かに行った。
デネボラはその背を見送りながら、溜め息を吐いた。
気持はわかる。
そんな思いを込めて、僕はポンっとデネボラの肩を叩いた。
「・・・ありがとう」
ボソっと呟くデネボラ。
さて、このウォルフを連れて行くか。執務室まで。ちょっと話がしたいし。
僕はデネボラと一緒にウォルフを連れて、執務室に来た。
「ちょっと、話をしたいのだけど良いかな。ウォルフさん?」
何となく年上の様な気がして「さん」付けした。
それを聞いて、デネビラが正した。
「違いますよ。リウイ。ウォルフは今年で十五ですよ」
十五歳っ⁉ こんな見た目で?
どう見ても、二十代ぐらいにしか見えないのだけどな。
「この子。小さい頃から身体だけは大きくなったので、二十代から三十代に間違われたりします」
そうなんだ。
「という事は、僕と同い年?」
「そうなりますね」
その歳で、村を飛び出したとか、凄い奔放だな。
「えっと、じゃあウォルフで良いかな」
「ああ、良いぜ」
「聞きたい事があるけど、良いかな?」
「答えれる事なら良いぜ」
「じゃあ、最初に一つ。どうして、この都市に居るのかな?」
正直に言って、この都市は発展途中だ。
なので、ウォルフが今迄寄って来た都市に比べれば、イマイチな筈だ。
そんな都市に居る以上、何かある筈だ。
其処が気になって訊ねた。
「そんなの、此処が面白いからに決まっているだろう」
「面白い?」
「ああ、そうだ。都市には都市を治める領主の好みが出るからな、だから都市一つ一つには、領主の顔が見えるんだ」
顔ね。独特な表現だな。
「その点。この都市には、面白い顔が見えるぜ。混沌としつつも一定の秩序があるという感じだ」
う~ん。何を言っているのか分からないけど、何となく発展途上と言いたいのかな?
まぁ、気に入ったと言いたいのだろう。多分。
「それで、この都市に居るのは分かったけど、この前の喧嘩の件は?」
「ああ、あれか。あれはよ。最初は『クリムゾン・ティガー』と『ランページクラブ』が喧嘩していたんだけどよ。『クリムゾン・ティガー』の連中が押されてきたから加勢したんだよ。で、その後に『ランページクラブ』が増援を出して来たんだよ。そうしたら『クリムゾン・ティガー』の連中が逃げて決まったんだよ。だから、俺が相手をしていたんだよ」
成程ね。それで一人で暴れている様に見えたのか。
「ところで、こうして捕まったけど、どうする?」
「どうするって、そりゃあ、逃げたいに決まっているだろう」
「どうして、村に戻れば、次期族長だよ」
「嫌だね」
即答か。そんなに嫌なのか。
「あんな堅苦しい役職になるつもりなんかねえよ。俺は自由に生きたいんだよ。何処で寝るのも、何処で死ぬのもな」
成程。自由に憧れているだけではなくて、それに伴う責任がある事を知っているようだ。
それは良いのだけど。
「ちゃんと話し合ってから、村を出て行った方が良いと思うけど」
だから、こうして捕まる事になるんだから。
「そうだけどよ。ネメアーの叔父貴と話したんだけど、全く聞いてくれなくてよ。しまいには拳と拳で語ったんだけど、それでも許してくれなくてよ」
はは、何かその光景が容易に思い浮かぶな。
「ところで、その喧嘩はどっちが勝ったの?」
「勿論。俺だよ」
ウォルフは自分を指差した。
それは、あの人が弱いのか、それともウォルフが強すぎるのか分からないな。
そう言えば、僕と戦った時も何か容易に勝てたな。
「成程ね。それで村を出たのか」
「そうだよ」
「ふ~む。そんなに族長になりたくないのかい?」
「ああ、当然だっ」
心底嫌そうな顔をするウォルフ。
それを見て、僕はうっすらと笑みを浮かべた。
「じゃあ、族長にならない手段があると訊いたら」
「勿論。受けるぜっ。条件次第だけど」
ああ、其処はキッチリしているんだ。
「大丈夫。不自由はさせないつもりだし、もし、嫌だったら止めても良いから」
「・・・それはどんな手段なんだ?」
「簡単に言えば、モラトリアムかな?」
「「もらとりあむ?」」
二人共意味が分からず、首を傾げた。
そうか、二人はこの意味が分からないか。
どう言えば、納得してくれるかな。
頭の中でどう言えば、二人に分かるか考えた。
「……そうだな。モラトリアムと言うのは」
僕は二人に分かりやすく伝える事にした。




