第65話 調査報告
ユエの案内で、僕達は何時もの部屋で話をする事になった。
僕とユエは座るが、ソフィーは僕の後ろで立っている。
「座ったら?」
「いえ、立場は弁えています」
座る様に僕が勧めると、キッパリと断るソフィー。
万が一に備えてかも知れないけど、大丈夫だよ。
まぁ、良いか好きにさせるか。
ユエも僕の顔を見て、好きにさせようという顔をしていた。
「さて、来てもらったのだから、頼まれていた調査報告を話すとしよう」
「ああ、頼む」
あまり時間を掛けると、姉さん達の誰かが気付いて、面倒な事になりそうな気がするからな。
ユエはそう言って、机の上に置いていた書類を手に取り見る。
「頼まれていた人物のサンザジュウエモロンの調査結果ですが。
調べた限りでは、遊び人だがかなりの好漢のようです。
一日中、酒と博打と女を楽しむ。金が入れば、酒に使い宵越しの銭は持たないという暮らしぶり。
喧嘩が起きると何処からともなく現れて、仲裁又は喧嘩を起こした両人を叩きのめすという報告も上がっています。
更には、見ず知らずの者が絡まれている所に出くわしたら、助けるという事もしているそうです。
また、意外に博識で風雅に通じた所もあり、更には腕が立つようです。
一人で『ランページクラブ』のチームメンバーを十数名を相手にして、全員倒したという情報もあります。
最後に、このサンザジュウエモロンは偽名である可能性が大。
というのが、現状で調べられる限りの報告書です」
ふむ。成程な。腕は立つ上に、風雅な趣味を持っていると。
傾奇者というよりも、伊達男と考えた方が良いのかな。
まぁ、どれほど腕が立つか分からない。なので、一度、その腕を確かめた方が良いな。
「リウイ殿。頼まれていた調査の件を言われた通りに手に入れたので、成功報酬は頂けるのだろうな?」
「それは、いいけど……」
何を要求するつもり? ユエ。
「まぁ、その内に頼むつもりとして、もう一つ報告したい事があるのですが」
「もう一つ?」
何かあったかな?
「リウイ殿傘下に入っている部族の人獅子族の者達が南地区に出没しているという報告を受けている」
人獅子族? という事は、デネボラ達の部族か。
そう言えば、誰かを探すみたいな事を言っていたような。
その人物が、南地区に居るという事か。
「探している人物は分かるか?」
「流石にそこまでは、もう少し調べさせないと無理です」
「そうか……」
どんな人物なのか、今度訊いてみる事にしよう。
「情報提供ありがとう。じゃあ」
僕が席を立つ。
「おや、もうお帰りか? そろそろ晩餐の時間なので、一緒にどうかな?」
ふむ。そうだな。
「どうしようか。ソフィー?」
「リウイ様の御心のままに」
「そうか。じゃあ、お言葉に甘えさせてもらうよ」
「承知した」
久しぶりに、ユエと一緒に晩御飯を食べる事にした。
で、晩御飯を誘われたので、僕はユエと一緒に食べる事にしたのだが。
「……なぁ、ディアーネ殿」
「何かな? リウイ殿」
「どうして、僕達は南地区に来ているのかな?」
そうなのだ。何故か、僕達は今、南地区に来ていた。
「ふふふ、言ったでしょうに。今晩の料理の食材を買いに来たと」
「確かにそうだけど」
「それに」
ユエが顔を近づけてきた。
「久しぶりに一緒に買い物が出来るのだ。もっと喜んで良いと思うぞ」
ユエは嬉しそうに笑顔を浮かべた。
「確かにそうだけど」
「それに、ちゃんと護衛は居るだろう」
ユエは後ろを見ると、少し離れた所にソフィーとルーティ達が居た。
更によく見ると、明らかに歩き方と立ち振る舞い方が一般人ではない人達が、僕達を囲むように歩いている。
恐らく、ユエの部下達だろう。
「では、食材を買おう。リウイ殿は何が食べたい?」
「魚」
「……ふふ、本当に変わらないな。お前は」
ユエは含み笑いをする。
それは、前世から好きな物が変わっていない事に対して? それとも、何か問題事が起こりやすい運勢に関して?
まぁ、どっちでも良いけど。
それにしても。ユエは楽しそうだな。
「~~~♪」
鼻歌を歌いながら、食材を見ている。
この買物が楽しいからか?
そう思いながら、僕達は食材を買っていく。
「よし、これである程度、集まったな」
ユエは買った食材を直ぐに部下に持たせて、帰らせた。
そのお陰で、手には荷物を持っていない。
なので、僕達は手ぶらだ。
「このまま、帰るのも味気ない。少し、歩かないか?」
「何で? 早く帰って食べようよ」
僕がそう言うと、ユエは重い溜め息を吐いた。
「・・・ああ、そうだった。こういう奴だったな。お前は」
何か、飽きれる様な事をしたのかな?」
「どうかした?」
「いや、別に。お前がそう言うなら帰る」
と、ユエが言っている最中で。
「喧嘩だ、喧嘩だ‼」
「おいっ、誰と誰が喧嘩しているんだ?」
「知らねえよっ。早く見に行こうぜっ」
喧嘩の見物しようと、走っているけど。
「喧嘩ね。そんなに珍しものかな?」
「さてな、しかし、起きるのも珍しいな。どうだ。後学の為に見て行かないか?」
「…見に往く気満々だね」
「ははは、面白そうだから良いだろう」
「・・・仕方がないか」
肩を竦めた僕は、そのまま喧嘩がしていると思われる場所に向かう。
少し歩き、その場所に着くと。
「おらああっ」
何か掛け声と共に、肉を打つ音が聞こえて来た。
その喧嘩の場所までかなり距離があるのに、ここまで掛け声が聞こえてくるという事は、かなりの大きな声を出ししているという事になるな。
さて、誰が喧嘩をしているのかな。
気になって、人波をかき分けて、僕達は前へと行く。
そして、ようやく喧嘩している所を見れる所まで来た。そこでは。
「ほらほら、そんな腕じゃあ、俺にかすり傷をつける事も出来ないぞっ」
「くそっ、こいつ強ええ」
何か、数人の相手に大立ち回りを演じている男が居る。
あれは、確かサンザジュウエモロンだったかな?




