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第26話 実戦訓練が終って

 洞穴の中から騎士に運ばれて出て来たのは、血に染まり傷だらけの制服を着ている三人の遺体だ。

 身体は傷だらけで顔もボコボコに脹れており、もう誰だが判別がつかないくらいだ。

 制服の内ポケットに学生手帳が入っていたので、それを見てようやく分かった。

 手帳と制服を見て確認が取れた。間違いなく、洞穴に入った長坂君達だ。

「うっ・・・・・」

 知り合いの死体を見て、あまりにショックがデカくて目を反らした。

 涙こそ出なかったが、心にくるものがあった。

「奥には食い散らかした動物の死体はあったが、他には何もなかった」

「しかし、どうしてこんな所にゴブリン共が?」

「鬼人族が強行偵察でもしに来たのかもしれないな」

「ゴブリンはそれほど知能は高くないから、偵察は無理では?」

 騎士達はゴブリンの死体を片付けながら、何でこんな所にゴブリンが居るのかを推論していた。

「・・・・・・・・・」

 これは皆に報告しないといけない。

 狼煙が上がっているから、時期に皆やって来るだろう。

 僕はせめて、死んだ長坂君達にどうか安らかに眠れるようにと黙祷した。

(どうか、魂だけは僕達の居た世界に帰れますように)

 そう祈らずにはいられなかった。

 やがて、狼煙を見た他のクラスメート達がやってきた。

 ここであった事を全て話すと、皆愕然としながら死んだ長坂君達を見る。

 そんな中で、天城君だけは騎士の人に歩み寄って行く。

「長坂を護衛していた騎士の人は?」

「自分達だ」

 天城君はそれを聞いて、騎士の胸倉をつかんだ。

「どうして、どうして⁉ あいつらを止めれなかったんだ! あんた達が止める事が出来たら、あいつらもこんな事にならなかったんだぞ!」

「わ、わたし達が止めるように言っても、それを聞かないで中に入って行ったんだ‼」

「なら、力づくにでも止めたら良かったじゃないか、あんた達はそんな事も出来ないのか‼」

「そうは言うが、勝手に入って行った貴方達の仲間にも非がある‼」

「なんだとっ!」

 天城君は頭に血がのぼっているようだ。このままでは騎士団と険悪な関係になるかもしれない。

 僕は憤懣やるかたない天城君の肩に手を置いた。

「天城君、止めよう。これ以上話しても、ただの水掛け論だよ」

「猪田っ! だが」

「それよりも、早く長坂君達を弔ってあげよう。このままじゃあ、長坂君達が可哀そうだよ」

 僕がそう言うと、天城君は長坂君達を見る。

「・・・・・・くそっ!」

 身を捩り僕の手を払い落とすと、そのまま何も言わず立っている。

 僕は身なりを正している騎士に話す。

「済みません。クラスメートが死んで、天城君はちょっと感情が高ぶっているんです。普段はもっと優しい人なんです。貴方にした無礼な事を許して貰えますか?」

 頭を下げて謝罪する。

「・・・・・・いや、こちらも配慮が足りなかった、許されよ」

「いえ、それとお願いがあるんですが良いですか?」

「どんな事だ?」

「長坂君達を弔いたいので、教会まで運んで良いですか?」

 遺品だけ取って、死体は埋めろと言うかもしれないので訊ねてみた。

 流石に、こんな所で埋まるのは可哀そうだ。教会で然るべき方法で葬ってもらいたい。

「構わない。死体は彼らが乗って来た馬車に乗せよう。それとこの組には、生き残りがいたな、その者は他の馬車に乗ってもらう」

「分かりました。本人に伝えます」

 騎士の人達が担架を持って来て、長坂君達を乗せて馬車に向かう。

 最後の北畠君が担架に運ばれたの見送り、西園寺君が口を開く。

「もう、ここでする事はない。俺達も帰るとしよう」

 西園寺君に促されて、僕達は馬車へと向かう。

 相談の結果、村松さんは僕達の馬車に乗る事になった。

 帰り道、馬車に揺られながら僕達は一言も話さずにいた。

 知り合いの死体を見たので、気が重いのだ。

 そして、その姿をみているとこう思えてきた。

 ――――次は誰が死ぬか分からない。

 ――――僕? それともマイちゃん? ユエ? 椎名さん?

 初めて死体を見た所為か、ネガティブな思考になっている。

 でも、そうならないと言い切れないのが悲しい所だ。

 いつまでもそんな考えに囚われてはいけないと分かっているのだが、どうもそう考えてしまう。

 そう考えていたら、僕の横腹が突っつかれた。

 何だろうと思っていたら、村松さんが僕の横腹を突いている。

「なに、村松さん?」

「猪田、あたしさ遅かれ早かれ、あいつら死ぬだろうなと思ってた」

「・・・・・・どうして、そう思うんだい?」

 村松さんとはそれなりに話す方なので、性格は知っている。見た目はギャルぽいが実は頭はかなり良いのだ。授業で分からない所があったら、良く僕に訊きに来ていた。

「だって、あいつら、あたしより馬鹿だから」

「いや、馬鹿だからって、それで死ぬ事はないと思うけど」

「キモデブは妄想に耽ってるし、チャラ男と取り巻きは何にも考えてないで行動しているから、これはその内死ぬんじゃねとか思った」

「そうなんだ・・・・・・・」

 三人共もっと自重する事が出来たら、こんな事にはならなかっただろうな。

 僕はそうとしか思えかった。

 王宮に着くまで、村松さんは場の雰囲気を明るくする為、しきりに皆に話し掛けてきた。

 正直、ありがたかった。


  王宮に着くと、既に連絡が着ていたのかライデル大司教と他数人の神官達が出迎えてくれた。

 ライデル達は遺体を王宮にある教会で弔ってくれるそうだ。

 後の事は全てこちらで行うと言うので、僕達は自分達の部屋に戻った。

 マイちゃん達も何も言わず部屋に戻る。

 村松さんはライデル達に付いて行くそうだ。

「一応、メンバーだったから最後ぐらいは付き合うわ」

 と言って、ライデル達の後に付いて行った。

 僕は部屋に着くと、制服が皺になるのも構わず横になった。

 目をつぶり、息を吐いていたら、ドアがノックされた。

 どうぞと言うと、メイドさんが入って来た。

「僕は呼んでないのですが?」

「お疲れの様子なので、何か持ってきましょうか?」

 ああ、これは王国の上層部の人が気をつかってくれたようだ。

 しかし何もする気が起きないので、僕は晩御飯まで休ませてくれと頼んだ。

 メイドさんは「かしこまりました」と言って頭を下げて一礼して部屋から出て行った。

 その後は、目をつぶり体を休めた。

(はぁ、これからが大変だな。実質的にリーダーになっている天城君は言われるだろうな・・・・・・)

 訓練でクラスメートが死んだのだ。他のクラスメート達は黙っていないだろう。

 戦争に参加すると言った人達の中からも、参加するのを止めると言う者も現れるかもしれない。

 誰だって死ぬのは怖い。いくら凄い力を持った職業でも使えるようにならければ意味が無い。

 その為の訓練で死んでは本末転倒もいいところだ。

 これからどう纏めるかは全て天城君次第だ。

(僕も出来る限りの事はしよう。そのまえ・・・・・・に、やる、ことは、はなし、あい・・・・・・)

 考え事をしていたら、眠気がきた。僕はその眠気に任せる。

(ばんごはんのときには、おこしてくれる、だろう。たぶん・・・・・・・)

 完全に眠る前にそう思いながら、眠る。


 *************


 コンコンッ!

 ドアがノックされる音で目が覚めた。

 外を見ると、もう夜になっていた。

 まだ眠気が残っている。なので、もう少し眠る事にした。

 コンコンッ!

 またノックされたが、無視した。

 そうしていたら、ノックされなくなった。

(向こうも起こすのを諦めたようだな。さて、寝よう)

 僕は再び夢の世界に旅立とうとしたら。

 ガチャガチャッ‼

 ドアのノブが激しく音を立てる。

(何だろう? 誰か来たのかな?)

 それなら、ノックして僕を起こすだろう。

 マイちゃんなら鍵が掛かっていても、ドアを蹴破って入る筈だ。

 僕を起こすときいつもそうしているので、間違いない。

 じゃあ、誰だろうと思っていたら。

 ガチャッ、キィー。

 鍵を掛けている扉が突然開いた。

(な、ななな何でっ⁈)

 恐怖した僕は、誰が入って来たのか知るために耳の神経をとがらせる。

 床を歩く音を一切出さないで、侵入した人はベッドに近付く。

 眠気は覚めたのだが、侵入した人が誰なのか知る為寝たふりをする。

 そして、侵入した人がベッドの横まで来ると、その人は何も言わず僕の体を揺する。

 揺すられても起きる気配がない僕を見て、再び揺すった。

 それでも起きない僕。さて、次は何をするのかな?

「ふぅ~」

「うひゃああっ⁈」

 耳元にいきなり息を吹きかけられ、僕は驚いて声をあげてしまった。

「あっ、起きてくれた」

 侵入した人は椎名さんだった。

「し、椎名さん」

「おはよう、猪田君」

「お、おはよう」

 無難な返事を返したが、椎名さんは何時の間にピッキングを出来るようになったんだ?

 聞きたいのだが、聞いたら後悔する予感がする。

「と、ところで何か用かな?」

「もう、晩御飯の時間だから、一緒に食べようと思って起こしに来たの」

「そうなんだ。ありがとう」

「どういたしまして、それで食べる元気はある? さっきあんな事があったから」

 あんな事で片付ける事ではないと思うが、気をつかっているのは分かるので、ここは無難に答えよう。

「食欲はそんなにないけど、喉が渇いたから飲み物で貰いにいきたいな」

「じゃあ、食堂に行って飲み物で貰おうよ」

「そうだね」

 僕はベッドから降りて、椎名さんと一緒に食堂に向かう。

 食堂に着くと、席に座っていたのは西園寺君、天城君、村松さん、ユエ、マイちゃん他合わせて数名だった。昨日に比べたらかなり少ない。

 昨日のこの時間だったら、戦争に参加しない人達も食事を取っている時間だったが、今はその人達もいない。

 恐らく、長坂君達の事を聞いてショックを受けているのだろう。

 天城君とマイちゃんは少しショックを受けているようだが、ユエと村松さんと西園寺君は平然と食事を取っている。

(よく平然としているなぁ、クラスメートが死んだのに・・・・・・)

 人それぞれの感性かも知れないが、人が死んだのだからもう少しショックを受けても良いと思う。

 そう思うのだが、食堂い漂う美味しい匂いが、僕の鼻に直撃して、お腹の虫が鳴きだした。

 こんな時でも鳴きだす腹に、恥ずかしいと思いながら、僕は席に着いた。

 僕が席に着くと、隣に椎名さんが何も言わず座る。対面はユエでその隣がマイちゃんという配置だ。

 おなかも空いているので、メイドさんに今日のメニューを頼んだ。

 椎名さんも同じものを頼んだ。

 食事中は誰も話さないので、食器を扱う音だけがやたら食堂に響いた。

 ようやく食べ終わると、それを待っていたのか、西園寺君が「天城、猪田、少し話したい事がある。ついて来い」と言うので、僕達は何だろうと思いながら西園寺君に付いて行く。

 西園寺君を先頭に天城君、僕、ユエ、マイちゃん、椎名さん、それと村松さんが付いて来た。

 食堂には他の人達も居たが、誰も付いて行く事はなかった。

 その道すがらで、話し声が聞こえて来た。

「・・・・・・いやはや、たかが訓練で死人が出るなんて、前代未聞ですな」

「まったくです。我らが護衛していたのに、それで死ぬなど、あってはならない事です」

 話しているのは、どうやら僕達を護衛していた騎士団の人達のようだ。

 それもどうも聞いていて気分が良いと思えない話をしているようだ。

「たかが、訓練で死ぬようなどこの馬の骨かも分からない奴らだと知っていたら、陛下も呼ぶことはなかっただろうに」

「左様ですな。まぁ、これで陛下も我らの意見に耳を傾けるかも知れませんな。あっはははは」

 ・・・・・・こんな人が通る所で話さないで、何処かの部屋で話しなよ。

 通行の邪魔だし、何より誰が聞いているか分からないだろう。

 溜め息を吐いていたら、隣にいる天城君が拳を握り今にも殴りかかりそうなくらい顔を歪ませている。

「ちょっ、天城君、抑えて、抑えて」

「止めるな。猪田っ」

 僕が天城君を宥めていると間でも、話が続いていた。

「まぁ、訓練をしていて薄汚い子鬼共を命と引き換えに見つけてくれたのだ。まぁ役には立っているようだ。今後とも我ら騎士団の役に立って欲しいものだな」

「しかり、陛下もそれを見越してあやつらを呼んだのではないのですかな?」

「そうかもしれんな。はっははははははっ!」

 騎士達の笑い声が聞こえてくる。

 それを聞いて、ますますいきりたつ天城君。

 今にも飛び出しそうなので、僕は羽交い絞めをして動かさないようにしている。

「離せ、離せ。猪田、あいつらに一言言わないと、俺の気が済まないっ」

「今、騎士団の人達と険悪になったら、僕達がどんな目にあうか分からないんだよ。こころは堪えてっ」

「く、くうううううっ」

 天城君は何とか抑えている。

 お願いだから、早く話を終えてどっかに行ってくれと祈るが、そんな思いなど知らずに騎士達は話し続ける。

「そうそう、今回の訓練で死んだ者達は職業がかなり弱い分類だったそうですぞ」

「ほう、そうなのですか?」

「ええ、聞いた限りでは『道化師』『木こり』『戦士』と聞いています」

 長坂君は『道化師』で北畠君は『木こり』で跡部君は『戦士』だ。

「それは何とも『戦士』はありふれていますが、『木こり』と『道化師』とは何の役に立つのやら」

「だろうな。だから、訓練であっさりと死んだのやも知れんな。まぁ『道化師』と『木こり』が死んで役に立ったのだ。死んだ者達も浮かばれているだろう。ははははは・・・・・・」

 それを聞いて、僕は頭の中で何かかが切れる音がした。

 死んで浮かばれただろうだと?

 ふざけるな。誰がそんな事を思うものかっ。

 長坂君も北畠君も跡部君も死んで浮かばれると思う訳ないだろうが。

 僕は羽交い絞めしていた天城君を放して、話している騎士達の所に向かう。

「お、おい、猪田」

「・・・・・・止めないで」

 天城君は止めようとしたので、僕は睨んでやめさせた。

 その眼光に驚いたのか、天城君は硬直している。

 僕は騎士達が気付くようにわざと足音を立てながら歩く。

 その音に気付いたのか、騎士達もこちらを見た。

「おや、これは」

「此度の事はお悔やみ申し上げる」

 騎士達は先程とうってかわって、長坂君達の死を悼むような態度を取る。

 僕はそんな態度を取る騎士達に笑顔を浮かべる。

「うわっ、ノッ君、本当に怒ってるっ」

「そうだな。ノブは滅多に怒らないのだが、笑顔を浮かべながら怒るから怖いんだ」

 マイちゃんとユエが何か言っているが、今の僕には聞こえない。

「そんな、僕達みたいな馬の骨・・・・・みたいな奴らに、そんな態度を取らなくて結構ですよ」

 馬の骨の所を強調して言うと、騎士達も顔の色を変えた。

 僕は更に続けた。

「貴方達のような戦争の訓練にをしている方達に比べて、僕達は平和な国から来たので、訓練で死ぬような軟弱な奴らです。それでも貴方達の王様である陛下が無理矢理呼んだのですから、その期待に応えて役に立つように頑張っています」

 騎士達は顔色が悪くなるが、気にしないで話し続ける。

「死んだ長坂君達はそちらで言う弱い職業を授かりましたが、それでも頑張ろうとしていました。勇猛で高潔な騎士の皆様方に比べたら、弱いと思うかもしれませんが。無理矢理呼んだ期待に応えようと精一杯頑張っていました」

 長坂君達は素振りも走り込みも真面目にこなしていた。

 その行動理由は「デュフフフ、これも後のチート為の布石だ。ここで頑張って訓練したら、後になって最強の職業になるんだ!」とか「道化師でも戦争の参加して活躍したら、女の子にモテてウハウハ生活がある筈だ‼ 待ってろよ。まだ見ぬ可愛い子ちゃん達!」と下心丸見えのだったが、頑張っていた事には変わりはない。

 長坂君達の頑張りを侮辱する事は誰だろうとしてはいけない。

「第一にして護衛に騎士が付いているのに守れなかったんだから、貴方達の力不足だったのでは?」

「な、なんだとっ」

 今まで青い顔をして聞いていた騎士が、顔を赤くしだした。

「だから、長坂君達が死んだんでしょうね。それと貴方達に力が無いから、王様がこうして僕達を呼んだんでしょうね。ああ、王様も可哀そうに自分の国の軍が弱いと言えないから、僕達に頭を下げて協力を呼び掛けたんだろうね」

 肩をすくませながら、首を横に振り溜め息を吐いた。

 今まで聞いていた騎士達も怒りで体を震わせる。

「き、貴様、そこまで言うとは、覚悟が出来ているのだろう!」

「おや、怒る所を見ると図星だったのですか?」

「ほざけくなっ‼ 異世界から来た怪しい奴め」

 騎士の一人が僕の胸倉をつかむ。

 もう片方の手が握られたので、殴られると分った。

 僕は目をつぶり衝撃に備えるが、一向に殴られる気配がない。

(何があったんだろう?)

 瞼をゆっくりと開けると、何時の間にか椎名さんが騎士の後ろにおり、後ろから首にナイフを当てていた。訓練の時に使っていたナイフとは違い。くの形をしたナイフだ。

「ねぇ、今なにをしようとしたの?」

 首元にナイフを当てながら、椎名さんは訊ねる。

 薄く皮膚を切ったのか、赤い液体が首を伝う。

「今、猪田君を殴ろうとしていたよね? ね?」

 椎名さんは光を宿さない目で訊いてくる。

 あまりの恐怖で騎士の人は、顔を青くしながら体を震わせている。

「い、いいいいえ、わ、わたしは、べつにににににっ」

「じゃあ、その手は?」

 そう言われて、胸倉をつかんでいた手を放し、握っていた拳も解く。

「う~ん、どうしようかなぁ」

 椎名さんは今だに首からナイフを外さない。

 流石に可哀そうになったので、助け船を出す。

「椎名さん、もう放してあげて」

「・・・・・・良いの? 猪田君を殴ろうとしたんだよ」

「もう、良いよ」

「う~ん、でもな。こうゆう奴はまたこうゆう事すると思うな。だ・か・ら」

 ナイフが光る。

「ここでやっちゃってもいいと思うな~」

「いやいや、流石にやりすぎだから」

「でも」

「もう、いいから。放してあげて」

「・・・・・・猪田君がそう言うなら仕方がないわね」

 椎名さんはナイフを引いた。

「じゃあ、もうどっかに行ってくれる?」

 椎名さんが般若のような顔で睨む。

「「ひいいいいいいいいいいいいいいっ‼」」

 騎士の人達は脱兎の如く逃げ出す。

 ・・・・・・言い過ぎの所はあったけど、逃げる所を見ていたら可哀そうだった。

 頬を掻いていたら、腕が引っ張られた。

「ノブ、大丈夫か?」

 ユエが僕の腕を自分の胸に引き込む。

 その柔らかい感触で、顔を赤くしてしまう。

「だ、だいじょうぶだから、もう、手を放してよ」

「良いではないか、良いではないか~」

 そう言って、更に僕の腕をギュッと掴む。

「ゆ、ユエ~」

「ふっふふふふ、ほんにお前は面白いな。ノブ」

 ユエは笑いながら、僕の腕に抱き付く。

「うう、獲られた」

「張さん、抜け目ない人っ」

 マイちゃん達が何か言っているか意味が分からない。

「ゴホン、そろそろ行くぞ」

 西園寺君がそう言って、先頭に立って歩き出す。

 僕達はそれに付いて行く。


 



 







 

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