第61話 面白そうな人と見た。
南地区から中央区に戻った僕達は、寄り道せずに館に戻った。
館の近くまで来ると、僕はギョッとした。
門の前で、ヘル姉さんが腕を組んで仁王立ちしていた。
本人は普段通りしているつもりなのだろうが、身体から〝気〟が漏れており、歩いている人達を委縮させている。
それを見て、早く帰って来て正解だと思った。
「た、ただいま、ヘル姉さん……」
僕が声を掛けると、ヘル姉さんは首を動かして、僕を見る。
「・・・帰って来たか」
「うん」
「早かったな。てっきり、何処かに、寄り道すると思っていた」
「は、はは、ちょっとした用事だったから、直ぐに終わって帰って来たよ」
「・・・そうか」
ヘル姉さんは僕の頭を撫でて、館に戻った。
「・・・・・・あぶねぇ、これで帰りが遅かったら、真面目に恐ろしい目にあってたな」
「リウイ様が恐れるとは、いったいどのような目にあったのですか?」
「・・・口に出すのも恐ろしい目かな」
僕のその言葉を聞いて、ヨシュアさん達は分かったのか、僕の肩に手を置いた。
そして、我らも同じ目に遭いましたと目で語る。
しかし、アルトリアは意味が分からないのか首を傾げた。
館に戻った僕は執務室に行き、リッシュモンドを呼んだ。
呼び出して少しすると。
コンコンッとドアがノックされた。
「どうぞ」
僕は誰なのか確認せずに、中に通した。
「失礼します」
そう言って、部屋に入って来たのは。
「あれ? デネボラ?」
「職務中、失礼します」
部屋に入るなり一礼するデネボラ。
何か用だろうか?
この子ってどちらかと言うと、僕の事をあまり好きではない様な感じがする所為か、あまり寄ってこないんだよな。
他の人達は、それなりに親しくしている。
「で、何の用かな?」
「実は、・・・先程、わたしと共にこの都市に来た部下の一人が、わたしの身内を見かけたと言っていたので、探す許可を頂けますか」
「身内? お姉さんか、妹さんのどちらかがこの都市に来たのかな?」
「いえ、違います」
そう言って、口籠るデネボラ。
「言い辛い事なのかな?」
「その、そういう訳ではないのですが・・・」
「言うと、身内の恥を晒す事になるとか?」
「実は、そうなんです」
デネボラは頭を下げた。
「じゃあ、仕方がない。何処に居るのか分かる?」
「はい。大体の場所は分かりますので、探す許可だけくれると助かります」
「じゃあ、別に良いよ。兵は居るのかい?」
「へ? あの、そんな簡単に決めていいのですか?」
「大丈夫だよ。ただの人探しなんだから、まぁ人手が足りないというなら貸すけど?」
「いいえ、わたしと共に来た者達だけで十分です」
「そうか。手を貸してほしかったら遠慮なく言ってくれ」
「は、はい。では、失礼しますっ」
デネボラは一礼して、部屋から出て行った。
「しかし、捜し人か。どんな人なんだろうか?」
デネボラが探しに行くという事は、かなりの重要人物という事か。
どんな人か気になるな。まぁ、手を貸してほしかったら、向こうから言ってくるか。
そう思っていると。今度はドアがノックされた。
「誰だ?」
『リッシュモンドです。入っても良いですか?』
「どうぞ」
今度こそ、リッシュモンドが部屋に入って来た。
「お呼びに参りました」
「ああ、ちょっと聞きたい事があってさ」
「聞きたい事ですか?」
「うん。南地区には何かの劇場みたいな物があるのかな?」
「劇場ですか? いえ、そんなものはありませんよ」
そうか。劇場はないのか。
だとしたら、何であの人は、何であんな格好をしていたんだろうか?
伊達か? それとも酔狂?
だとしたら、かなりの傾奇者だな。
あの、・・・・・・何だっけ? 名前が思い出せない。
恰好があまりにド派手で衝撃的すぎたから、名前が思い出せない。
「まぁ、バシドに調べさせるか」
そう思って、その人の名前を思い出す事を止めた。




