第60話 南地区に来たけど。
ユエの店を出て、そのまま南地区に向かう僕達。
地区の境を越えて、南地区に入る。
全員、騎乗している所為か、目立つ事目立つ事。
更にお供の『死神騎士団』は全員、黒い鎧を着ているので更に目立っている。
正直に言って、僕より目立っている。
「何だ。あの黒い鎧を着た一団は?」
「見た所、騎士のようだけど、何処の所属だ?」
道端を歩いている人達が、僕達を胡乱な物を見る目で見ている。
その中で、商人の格好をした人が、僕達を見て目を見開かせて驚いていた。
「あ、あれはっ、まさか、こんな所でお目に掛かるとはっ」
「うん? 知っているのか? あんた」
「あ、あの黒い鎧を着た方々は『死神騎士団』と言われている方々です。魔国が誇る精鋭軍団の一つで、末端の騎士一人でさえ兵士二百人分の働きをすると言われている軍団です」
「「「な、なんだってっっ⁉‼‼」」」
そう言えば、そんな話を聞いた事があるな。
ヘル姉さんにそこ所聞いてみたら。
『わたしが訓練をつけていたら、何か強くなった』
と言っていた。
恐らく、地獄のような訓練を潜り抜けて来たんだろうな。
そう思うと、僕はこの人達に頑張りましたねと言いたくなってきた。
「リウイ様。どうなさいますか?」
「そうだな。目立っているから、このままこの地区の中をぐるりを回るか」
「承知しました」
ヨシュアさんにそう言って、僕達はこの地区を歩いた。
僕達が南地区を歩いていると、人だかりがで出来ていた。
皆、道を挟む様に列になっている。
まるで、パレードを見る為に集まっている観衆のようだな。
そう思いながら、歩いていると。
「わきゃっ」
列に並んでいる人達に押し出されたのか、小さい子が僕達の前に出て来た。
後五歩ぐらいと言う所で。
駆けている訳ではなかったので、僕達は戸惑う事なく足を止めた。
「・・・・・ひうっ」
その子は顔をあげると、僕達が目の前に居るのを見て、短い悲鳴をあげた。
そして、身体をガクガクと震わせる。
どうやら恐怖で身体が動けないようだ。
此処は、親が出てきて、謝るのがセオリーではと思い、周りを見た。
そして、声をなくして子供を見ている人達の中で、青ざめた顔でその子を見ている女性を見つけた。
ふむ。どうやら母親のようだ。
流石に道を歩いているのを邪魔したからと言って、無礼討ちみたいな事はしないのだけど。
このままだと、何か悪人みたいに思われるかもしれないので、僕はヨシュアさん達に退けるように言おうと口を開こうとしたら。
「待った待ったっ。其処な騎士様方、お待ち下せえっ」
何だ?
「何処からだ?」
「何者だっ、姿を見せろ!」
観衆の人達も辺りを見回し、ヨシュアさん達が身構える中。
その観衆達を飛び越えて人が僕達の前に姿を見せた。
僕達はその人の姿を見て、言葉を失った。
だって、すんごく派手な格好してるからっ。
昔見た、宝塚の男役の格好にそっくりだった。
赤い衣装に、虎の魔獣の皮で作った上着を羽織り背中には孔雀の様に羽を広げた様な飾りを立てて、その上、大きな丁髷があった。
「凄い傾いているな」
思わず、僕は呟いた。
「何だ、貴様はっ!」
「異形な、何者だ⁉」
「問われて名乗らぬとあれば、答えてやるのが世の情け。てまえ、生まれは魔都の貴族街の片隅にて産湯につかり、名をサンザジュウエモロンと申します、以後お見知り置きのほどを」
この口上。何処で知ったんだろう?
「で、そのサンザジュウ某とやら、何故、我らの前に出て来る?」
「はい。このような小さい子に、何の罪がありましょうや、どうかどうか、此処はわたしめの顔に免じてお許しを」
別に無礼討ちするつもりはなかったんだけどな。
どうしよう、何か変な空気になっちゃたな。
「如何なさいますか? リウイ様」
「・・・そうだな」
此処はこの人の顔を立てるか。
「引き上げようか」
このまま時間を掛けると、ヘル姉さんが怒りそうだからな。
滅多に怒らないのだけど、怒ると姉達の中で一番怖い。
怒ったヘル姉さんは、イザドラ姉上もロゼティータ姉様も止められないからな。
普段優しい人が怒ると怖いって、本当なんだなと思った。
「はっ、分かりました」
ヨシュアさんがそう言うと、僕達は馬首を変えて元の道に戻った。
サンザジュウエモロンか。どう考えても、偽名だろう。
何で、偽名を使うか知らないけど面白い人物と見た。
出来れば、配下になって欲しいな。
と思いつつ、僕は元来た道を引き返していく。




