第55話 おや、この名前
翌日。
報告を終えた僕は、そのまま仮メンバーの報告が終えるのを待った。その後はガイウスが解散と言ったので、僕達は帰る事にした。
翌朝。目覚めると、僕は寝間着からいつもの服に着替えた僕は執務室に向かう。
今日は昨日の件の後始末の報告がある筈だ。
それを思うと、ちょっと気が重いけど、仕方がないな。
まぁ、『ブルーファルコン』と『クレイジーベア』のチームが壊滅させる事が出来たと思えば安い物だと思う事にした。うん。安い物だ。はっははは。
「リウイ?」
おっと。物思いにふけていた所為か、ヘル姉さんに声を掛けられた事に気付くのが遅れた。
「おはよう。ヘル姉さん」
「おはよう」
ヘル姉さんは笑顔で言おうと頑張ったんだろう。
頬を引きつらせながら、目を睨んでいるかのように細めて言う。
こんな顔をしている所為か、何か怖いと思うんだろうな。
だが、この事を本人に言えば傷つくので言わない。
見た目に反して、繊細だからな。ヘル姉さんは。
「ところで、どうして此処に居るの?」
「・・・リウイに昨日の件の被害状況を聞こうと思って」
ああ、自分達がどれくらいの被害を出したか気になったのか。
「報告はリッシュモンドが持ってくるから一緒に聞こう」
「良いのか?」
「うん。聞こう」
僕はヘル姉さんの手を取って引っ張ろうとしたが、全く進めなかった。
「分かった。行こう」
ヘル姉さんが動き出したのでようやく進めた。
くっ。僕も、もう少し身長と筋肉が欲しい。
そう思うと、何かボディビルみたいに、白い歯を見せながら何かのポーズをとるマッチョな自分が頭に浮かんだ。
・・・・・・・何か違う気がする。
僕はそう考えながら執務室に入り、自分の席に座る。
ヘル姉さんには客人用のソファーに座ってもらう。
僕達が座り少しすると、ドアがノックされた。
多分、リッシュモンドだろう。僕は誰かと訊かないで「どうぞ」と部屋に入る様に言う。
そして、予想通り部屋に入って来たのはリッシュモンドだった。
「おはようございます。リウイ様」
「ああ、おはよう」
リッシュモンドは部屋に入ると、ヘル姉さんが居るのを見ると、僕の顔を見る。
「被害状況を聞きたいそうだ。特に聞いても問題ないだろう?」
暗に、僕が『プゼルセイレーン』の仮メンバーだとばれる様な事は離さないのだろうと言うと。
「ええ、誰が聞いても問題はありません」
だったら、大丈夫だろう。
「じゃ、報告を聞こうか」
「はっ」
リッシュモンドは脇に挟んでいた書類を見る。
「昨日の件で『ブルーファルコン』及び『クレイジーベア』のメンバーの半数を捕まえました。現在余罪を追及している所です」
「その中にいる、……確か、えっと、何だっけ。かんりかんりかん? って名乗っていた人はどうした?」
「はい。その官吏管理官と名乗ったダミアンですが。六年前までこの都市で役人をしていたそうです」
「ああ、だからあの人の制服のデザインが古かったのか」
「はい。本人の話では、六年前に横領をした事で、この都市を追放された様です。ですが、風の噂でこの都市が景気が良い事を聞きつけて舞い戻って『ブルーファルコン』の下についたそうです」
元役人がそんな組織に入るとは、何か小説にありそうな話だな。
「で、役人の時の知識と伝手を活かして、あくどい金貸しをしていたそうです」
「じゃあ、あの時、僕達を捕まえようとした人達は?」
「その者達は『ブルーファルコン』メンバーだったそうです。捕まえて適当な所で、牢屋と偽って放り込んでは、金を取っていたそうです」
「はぁ、成程ね」
「北地区ではダミアンの金貸しの被害者が多いそうです。今、手の者がその者達の話を聞いています」
まさか、金を取ろうとした人が領主なんだから、あの人も可哀そうだったな。
まぁ、あくどい事をしていたようだから、自業自得と言えばそれまでだけどね。
「被害で言いますと人的被害を除けば、建物の被害はさほどではないのですが。道に大きな穴が空いているだけですので、その埋め立てと費用で済みました」
ほっ。家や建物など壊れていないか良かった。
「それと、こちらがつかめた両チームのメンバーの名前の一覧です」
リッシュモンドが書類を机の上に置いたので、その書類を手に取り流し読みする。
ふむ。結構いるな。……うん? これは。
「『ブルーファルコン』メンバー 魔人族 カイン。鬼人族 アルス』だって?」
この名前『プゼルセイレーン』の仮メンバーの名前と種族じゃないか。
同族同名の人か?
しかし、そんな偶然があるのか?
「どうかしましたか?」
僕が書類を持って変な顔をしていた所為か、リッシュモンドが訊ねてきた。
「・・・いや、この『ブルーファルコン』メンバーの名前に知り合いの名前が載っているから」
「知り合いですか?」
何処で知り合ったのか気になっているのか、首を傾げるリッシュモンド。
隠す事でもないから言うか。
「この魔人族 カイン。鬼人族 アルスという二人だけど実はさ『プゼルセイレーン』の仮メンバーにも同種同名の人達がいたからさ、これはどういう事かと思ってね」
「ほう、分かりました。少々お時間を頂きたい。その旨について、その二人の口から聞こうと思います」
「口を割らせる方法はそちらに任せる」
「畏まりました。それともう一件報告事項が」
「どんな事かな?」
「朝早くディアーネ殿の使いの者が来まして、北地区と西地区に商業を許可して欲しいとの事です」
「商業の許可? ……ああ、成程。そういう事ね」
耳が早いな。この館に間者でも紛れ込ませているのかな?
それとも、この都市の全ての地区に諜報員を潜ませているのか?
まぁ、良いや。
「リウイ様。ディアーネ殿がどうして北地区と西地区の商業を許可して欲しいと言ってきたのでしょうか?」
「あれ? 分からない?」
「申し訳ありません」
分からなくて済まなそうに頭を下げるリッシュモンド。
「簡単だよ。ユ、じゃなかったディアーネは西地区と北区を自分の組織の縄張りにするつもりなんだよ」
「縄張りですか。西地区は分かりますが、北地区は未だ『ブルーファルコン』と『クレイジーベア』の勢力が残っていますが?」
「それも近い内に検挙するだろう。その後に残った縄張りを全て奪うつもりなんだよ」
「西地区だけではなく北地区もですか。これでは、その内、南地区と中央区も『ビアンコ・ピピストレロ』の縄張りになりかねませんな」
「そこら辺は、大丈夫だろう。まさか、僕を懐柔して自分の思うがままにするつもりはないだろう」
「分かりました。では、許可するという事でよろしいのですね」
「ああ、頼む。じゃあ、この事をディアーネ殿に話に行く。後の事は、任せた」
「畏まりました」
僕は立ち上がり、リッシュモンドに見送られて部屋を出た。
さて、誰を護衛につけて行こうかな。
何時もの様にアルトリアにするか? それともルーティにするか。
いや、違う人にするのもいいかも。
と、色々と考えながら歩いていると、何か僕の襟を掴まれて、そのまま持ち上げられた。
誰が持ち上げたのだろうと肩越しに振り返ると。
「・・・・・・・・」
ヘル姉さんが、僕の襟首を掴んで、自分の顔の所まで持ち上げた。
「どうかしたの? ヘル姉さん」
「……仕事はしなくていいの?」
「ああ、大抵の事はリッシュモンドがしてくれるから大丈夫だよ」
「そうなの?」
「うん。あれで、優秀な執政官だから」
前世の頃からの付き合いだ。その優秀さは十分に知っている。
「・・・リウイは凄いね」
「そうかな?」
「うん。リウイみたいに何でも任せるなんて無理だから」
それって褒めてるのだろうか?
「それで、さっき話していたディアーネとかいう人の所に行くの?」
「うん。そうなんだ。ああ、そうだ」
「? どうかしたの?」
「姉さんも一緒に行かない? 顔見せに良いと思うから」
「でも、仕事の邪魔じゃあ」
「大丈夫。ちょっとした世間話をしにいくみたいなものだから」
「でも」
「ええ、いこうよ~」
駄々をこねる僕。
ユエにロゼ姉様以外の姉に合わせるのも悪くない。
「じ、じゃあ」
「わたしも付いて行ってもいい?」
「あたしも~」
ヘル姉さんの言葉に被せるかのように言うのは、フェル姉さんとミリア姉ちゃんだった。
「二人共。何時の間に」
「そんな事よりも、ウ~ちゃんの後に付いて行っていいでしょう?」
「まさか、リウはヘル姉は良くて、あたし達は駄目とか言わないよね~」
二人は笑顔で訊いてきた。
「……良いよ」
僕がそう言うと、二人は諸手をあげて喜んだ。
正直、ユエとミリア姉ちゃんを合わせると、何か起こりそうだけど大丈夫か。




