第51話 〇戸黄門になった気分だ
「だ、旦那‼ へっへ、これで、お前等は終わりだぜっ」
捕まえた男性が『旦那』と呼ぶ人物を見て、僕達は。
「「「……誰?」」」
僕達はその魔人族の男性に訊ねた。
その男性は、僕達をねめつける。
「ふん。この服を見ても知らんとは、何処の田舎か来たのやら」
そう言われて、その服を見たけど官服に似ているけど、デザインが何か違うな。
「ねぇ、ウ~ちゃん。あの服の事を知っている?」
「いや、昔の官服みたいだけど、役人なのかな?」
「リウイは分からないの?」
「う~ん。流石に、全員の顔までは」
リッシュモンドに訊けば分かるかもしれないけど。
「おいっ。何をコソコソ話しているっ」
おっと、輪になって話していた所為か、怒鳴られた。
僕達は直ぐに輪を解いた。
「おほん。わたしはこの北地区の官吏管理官であるダミアン・イーサクスンである」
自分の事をダミアンと名乗った男性はカイゼル髭を弄りながら言う。
官吏管理官? そんな役職あったっけ?
あっ、待てよ。僕が赴任した時に、何か色々な役職があったけど、業務をスムーズにする為に、役職を廃止したりしたから、その中にある役職の事を言っているのかな?
「その、わたしが、この目で、お前達が、この者達に乱暴している所を、ハッキリと見たぞっ」
ダミアンは自分の指で、目を指しながら言う。
う~ん。なんとなくだけど、その現場が目に浮かぶな。
暴虐の限りだったんだろうな。
「よって、官吏管理官であるわたしが命じる。即刻、その者を解放して、賠償金を支払うが良いっ」
「賠償金? 僕らが?」
思わず、キョトンとした。
「ヘルミーネ。聞いた?わたし達に賠償金を払えですって」
「ああ、生まれて初めて言われた」
だよね~。僕も、前世でも今世でも言われた事ないもん。
「何だ。貴様らの態度は、賠償金を払えないとか言うつもりか?」
「はぁ、何と言いますか、僕達の賠償金云々は脇に置いておいて、そのかんりかんりかん? の役職に就いているのだから、その店の事はどうにかしないのですか?」
「? 店だと。お前達は、この店の事を言っているのか?」
ダミアンは指を差した店を、僕達は頷く。
それを見て、ダミアンは鼻で笑った。
「ふん。この店がお前達を捕まえている者に借金をしたのだ。それは事実だ。その借金の返済に店を取り上げる事をして、何が悪い?」
ダミアンは、何処か人を馬鹿にしたような顔をした。
その言葉を聞いて捕まっている者が騒ぎ出した。
「そうだ。ほら、早く解きやがれ。そうしたら、賠償金だけで済ませてやるっ」
捕まった男性はほくそ笑む。
「・・・・・・その、ダミアンさん? で良いのかな」
「何だ?」
「貴方は、その、この都市の役人なんですよね?」
「そうだぞ。北地区に居る官吏の者達を管理する管理官であるっ」
胸を張るダミアン。
「……この都市に『管理官』という役職はないよ」
「えっ?」
ダミアンは、目を見開いて驚いている。
「ついでに言えば、この借用書だけど、無効なんですが」
「な、なんだとっ‼」
今迄、余裕綽綽だったダミアンの顔に焦りが見える。
「な、なにを、根拠にっ、この紙は、領主の館から配布されている正式な借用書だぞっ」」
「確かに、この紙は領主の館にある金融部門から配布されている借用書の紙だ。それは本物だ」
「そうだろう」
「でも、正式に借用書として認められた印はないよ」
「はい? いん?」
なに、それという顔をするダミアン。
僕は良く見えるように、その紙を見せる。
「此処に借りる人と、貸す人の名前は書かれていますね」
「う、うむ。そうだだろう。であれば、もう既に借用書として十分に効果がある筈だっ」
「でも、此処に金融部門から正式に借用書として認められた印はないのだけど」
僕は正式な借用書には押さされている印の所を指差す。
其処には印は押さされていない。
「その印がないと、何か問題でもあるのかっ⁉」
「大有りだよ。此処に印がないと正式な書類と認められず、無効になります」
「と、という事は、もし金を貸しても⁉」
「返さないで良いという事になるのだけど」
僕がそう言うと、顔を蒼白にするダミアン。
「で、ででで、でたらめをいうなっ⁉」
「出鱈目、と言われても。この借用書の紙を渡す時、係員は『記入事項を全て書き終えたら、こちらに持ってきて下さい』とか言わなかった?」
「…………」
言われた記憶があるのか、ダミアンは口をパクパクさせる。
「という訳で、この人達を器物損壊の罪で逮捕しても問題なしという事になるんだな」
僕がそう言うと、周りにいる人達が歓声をあげる。
「でも、リウイ。そのきんゆうぶもん? と言うのは何で、作ったのだ?」
「簡単だよ。ヘル姉さん。こういう問題を対処する為さ」
何せ、金や物の貸し借りの問題は前世の領地でも、結構あったからね。
其処でいっその事、そう言った部署を作る事にした。
と言ってもする仕事は、借金が法外ではないか、金利は問題ないか、ちゃんと借金を返せる計画は立っているのか、その事を調べて、問題なければ、正式に借用書として認める印を押させるだけなんだけけどね。
この都市に来たばかりは、手が足りずに無理だったけど、リッシュモンドとソフィーの協力でする事が出来た。
「ふむ。流石は、わたしの弟だ」
ヘル姉さんは僕の頭を撫でる。
この人、僕の頭を撫でるのが好きだな。
まぁ、気持ち良いから良いけど。
そう思い、僕は姉さんの好きにさせていると。
「何だ⁈ この騒ぎは?」
「おい、見ろよ。うちの奴らが」
何か騒がしい声が聞こえたと思うと、何かハヤブサと熊の旗を持った人達が現れた。
もしかして『ブルーファルコン』と『クレイジーベア』の人達かな?
「おい、ダミアン。これは、どういう事だ‼」
「こ、これは、その……」
ダミアンは言葉を濁らせた。
「まぁいい。おい。お前等っ」
鳥の獣人の男性が、僕達を指差す。
「うちの奴らを可愛がってくれたようだなっ。落とし前をつけさせてもらうぜっ」
「おう、倍返しにしてやるっ」
熊の獣人男性が吠えた。
そう言って、僕達を囲みだした。
「あらあら、これはまた」
「随分と多い、が」
ヘル姉さんは剣を抜き、フェル姉さんは鞭で地面を叩いた。
ああ、姉さん達、もう戦う態勢になっている。
此処は、そうだな。こう言うか。
「フェル姉さん。ヘル姉さん。やっておしまいなさい」
「は~い」
「うむ」
二人共、そう言って、僕達を囲む人達に襲い掛かる。
其処から先は、一言で言えば蹂躙という言葉がピッタリであった。
何せ、フェル姉さんとヘル姉さんの二人が戦っているのだ。
幾ら『ブルーファルコン』と『クレイジーベア』のチームの人達がどれだけ強くても、この二人には敵わないだろう。
だって、この人達、一人一人が前世で戦った魔王並に強いんだもん。
正直、あの時は天城君が居なかったら、僕は死んでたな。
まぁ、その後、殺されたんだけどね。はっははは。
とまあ、呑気に観戦していると、もう終りそうであった。
「スヴァテイ・ストーム」
「覇王剣・竜巻斬り‼」
二人の戦技だろう。フェル姉さんは鞭をぶん回した。その回転する鞭が当たると、両チームの人達は昏倒していく。
ヘル姉さんが持っている剣を八双に構えて、右薙ぎ一閃すると、小さい竜巻を発生させる。その竜巻に巻き込まれて、両チームの人達。
やがて、竜巻が無くなると、空に跳び上がっていた両チームのメンバー達が地面に落ちる。頭から。
隕石が地面に落ちた時の音を立てながら、頭から落ちるのは流石に可哀そうだと思った。
まぁ、それほど高くからではないから、死ぬ事はないだろう。多分。
「ふぅ、こんなものかしら?」
「……歯応えが無いな」
二人は得物を収めた。
僕達の周囲には、野次馬以外は地面に倒れている。
「すげえな。あの姉ちゃん達」
「ああ『ブルーファルコン』と『クレイジーベア』の両チームメンバーを全員倒しちまったぜ」
観戦している人達は姉さん達を称賛している。
さて、これからどうしようかな。
「き、ききき、きさまら、このような事をして、ただで済むと思っているのか⁉」
おや? どうやらダミアンは運が良いのか、尻餅をついた事で攻撃に当たる事はなかったようだな。
「ただで済まないと言われても、ねぇ」
「うむ」
フェル姉さんとヘル姉さんは頷く。
「今なら、儂の力で、許してやる。大人しくしていろっ」
「……尻餅ついたまま言っても、格好悪いよ」
僕がそう言うと、ダミアンは慌てて立ち上がった。
「おほん。お前達、其処を動くなよっ」
そう言って、ダミアンは懐から小さい笛を出して吹いた。
ピーっという音がした後に、衛兵の格好をした人達がやってきた。
何で『衛兵』と言わないのかと言うと、デザインが全然違うからだ。
衛兵は防御力よりも、機動性を重視した鎧なのに、その人達は何故かまるで戦争に行くみたいにガッチガチに武装しているのだ。
その衛兵の人達がダミアンの所まで来た。
「ダミアン様。御呼びですか?」
「うむ。この三人を捕らえよ。騒乱罪だ」
「「「はっ」」」
衛兵の格好をした人達は持っている槍を、僕達に突き付けた。
う~ん。そろそろ、ルーティ達や『白の空中機動機甲兵団』を呼んだ方が良いかな?
そう思っていると。
「貴様ら、誰に槍を突き付けているのだ‼」
そんな声が聞こえたと思うと、僕達と衛兵の格好を人達の間に一陣の風が吹いた。
その風の強さに、衛兵の人達は吹っ飛んで行く。
風が通り過ぎた後に、僕の前にアルトリアが立っていた。
「やぁ、アルトリア」
「御無事ですか。主君」
「うん。大丈夫だよ」
「そうですか」
僕がピンピンしているのを見て、アルトリアが安堵の息を漏らした。
そして、ダミアン達をキッと睨んだ。
「貴様ら、何処の者か知らぬが、我が主君に槍を突き付けるとは良い度胸だ。我が槍の錆にしても良いのだぞっ」
アルトリアは持っている槍をダミアンに突き付ける。
「き、きさま、わしがかんりかんりかんだとしっての、ろうぜきか⁉」
槍が突き立てられているから、声が上ずっているな。
顔から汗が次から次へと流している。もし、ガマガエルだったら、油が沢山取れそうだ。
「カンリカンリカンだと? そんな役職など聞いた事もないわ‼」
「わわ、わしをしらぬのか? どこのいなかものかしらぬが、いますぐやりをおさめるのであれば、おんびんにすませてらろうぞ」
「それは、わたしの言葉だ‼ こちらの方をどなたと心得る‼ 恐れ多くも魔国の魔王陛下の一子にして、この『オウエ』の領主であられるリウイ様であるぞ‼」
アルトリアが手で示しながら、僕が良く見えるように身体を退ける。
「「「……えっ⁉」」」
僕達以外、この場にいる人達が、驚きの声をあげた。
「者ども、頭が高いっ。ひかえ、ひかえっ」
アルトリア、何処で覚えたんだい? その口上。
そして、アルトリアに言われて、野次馬の人達はその場でひれ伏した。
状況についていけないのか、ダミアン達は呆然としていた。
其処に追い打ちを掛ける様に。
「リウイ様!」
あっ、ようやく、リッシュモンドが衛兵達を連れてやってきた。
うん。改めて、衛兵の武装を見たけど、違うな。
「到着が遅れて申し訳ありません」
「いや、いいよ。それよりも」
僕達はダミアン達を見る。
「あの人達を捕まえてくれるかな。罪状はえ~と、偽証罪、傷害罪、器物損壊罪で、後余罪もあるかもしれないから、其処も調べておいて」
「はっ。承知しました」
リッシュモンドは連れてきた衛兵達に指示して、ダミアン達を捕縛していった。
捕まっているダミアン達は抵抗せず大人しくしていた。
というよりも、アルトリアの口上を聞いてた時に、魂が口から抜けた様な表情をしていた。
「うん。これにて一件落着かな?」
正直、何で、こうなったんだろうと思うけど、此処はそんな思いを顔に出さないで、笑おう。
水〇黄門みたいに。




