真田舞華の心情
「ぶぅ、今日も買い物に付き合って貰えなかった・・・・・・」
学校からの帰り道、あたしはぶーたれながら家へと帰る。
ノッ君を買い物に付き合わせようとしたら、邪魔者二人の所為で出来なくなった。
SHRが終ったらまた声を掛けようとしたら、肝心の本人が風の様に居なくなってしまった。
話し掛ける暇もないくらいの速さだ。あのぽっちゃりとした体型であんなに足が速いなんて、誰も思わないだろう。
今の体型を見ると、皆そう思えないだろうが、ノッ君は昔から足が早く小学校の運動会では一位を何度もなった事がある。ノッ君は意外に運動能力が高い。
あたしも身体を動かすのは好きな方なのだが、今でも駆けっこで勝った事がない。
実際体育の体力テストでグラウンド二十周しても、最後までペースを崩すことなく走りきる事が出来る体力がある。あんな体形だが。
更に勉強も得意で、中学の頃には全国模試でも五位内に入る程の学力がある。人に教えるのも得意なので、あたしも分からない所は全部ノッ君に訊いている。ノッ君は嫌な顔一つせず丁寧に教えてくれる。
「ああ~、今日は買い物が終わったら映画に誘おうと思ったのに」
先程まで最近人気がある警官と女子高生の夫婦恋愛を映画のチケット二枚持っていた。
もっとも、先程恋人がいる友人に渡したのでもう無い。
「ちぇ、これで少しは関係が進むと思ったのに・・・・・・はぁ」
正直、そろそろ幼馴染から一歩進んでも良いと思っている。
なのに、それを邪魔する奴が二人も居るので進展しない。
これは本人達に聞いていないが、恐らく二人もノッ君の事が好きなのだろう。
何でそう思ったのかと言うと、女の勘だ。
まぁ、同じ人を好きになったのだからそう感じたのかもしれない。
「いい加減、気付いてほしいなぁ。あたしがノッ君の事が好きな事・・・・・・」
ノッ君のあの鈍感さは、もう病気と言えるレベルだ。
三人の女性に好意を持たれている事に気付いていないのだ。そう言っても良いだろう。
どうしたら、ノッ君の彼女になれるだろうと、あれこれ考えていると、家の前に着いた。
家に入ろうとした、クラクションが鳴った。
振り返ると、家の前に一台の車が停まっていた。
「やぁ、舞華ちゃん」
ウインドウを開けて、声を掛けてきたのはこの前一緒に仕事したアイドルの人だ。
連絡先をしつこく聞いてくるので、仕方がなく電話番号だけ教えたら、そこからどうやったかは知らないが、家の住所まで調べ上げたのだ。
「何か用ですか?」
「いやぁ、近くを通り掛かったから、これからデートでもどうかなと思って」
はぁ? 何であたしがあんたみたいな、声を掛けたら誰でも僕の虜みたいな事を思っている下種とデートしないといけないのよ。
あり得ないわ。あたしこう奴が一番嫌い。
「結構です。明日も学校があるので失礼します」
「まぁ、そう言わないで、今人気の映画のチケットもあるし、美味しいレストランも知っているからどうだい? 学校なんて一日二日行かなくても問題ないから」
映画のチケット? それは何かのあてつけ?
それに問題ないだと? ふざけるな! あたしが学校に行かないとあのお邪魔虫二人がノッ君に何をするかわからないのよ。それなのに行くなと? 話しにならない。
「結構です。では、失礼します」
あたしはそれだけ言って家に入った。
ああ~、イライラするっ。あいつが居なくなったら塩を撒こう。
ドスドスと足を音を立てながら、自分の部屋に向かう。
今日は家には誰も居ないので、どれだけ音を立てても怒る人は居ない。
部屋に入ると、隣の家を見た。
あたしの家とノッ君の家は隣同士で、更にあたしの真向かいの部屋がノッ君の部屋だ。
ノッ君が居るかなと思って、部屋を覗き込むと、部屋には誰もいない。
それを確認したあたしは制服を着たまま、ベッドの横になり、頭を抱えて転がりだした。
「ああ~、もう何であんな事したかな、あたしはっ」
あんな事とは、何人かの芸能人とデートした事だ。
まぁ、ただ遊んだだけなんだが、中にはあたしといい関係になろうとした人も居たようだが、あたしは口実を作って上手く逃げている。
「あの時は、芸能人とデートしたらノッ君が少しはあたしの事を意識するかなと思ったのに~~」
本音を言えば、そこであたしの事を好きな事が分かり嫉妬してくれたら嬉しかったのだが。
あたしが芸能人とデートしている所を見て母さんに「何だか、マイちゃんが遠い人になった気がします」と言って避ける様になってしまった。
これでは本末転倒だ。
「ああ~、もう何でやる事なす事裏目裏目になるわけぇぇぇぇ⁉」
あたしはベッドに転がりながら大声をあげる。