第40話 後始末が怖いな。
店を出た僕達は、そのまま逃げる様に館に逃げ込んだ。
門の前に居た衛兵達が、帰って来た僕達を見て、驚いた顔をしていたけど無視した。
エントランスホールで、僕達はようやく一息ついた。
「ど、どうにか逃げる事が出来た」
「そ、そうね」
荒く息を吐いていると、シャリュも同じ位に息を吐きながら、頭を下げる。
「す、すいません。わたしが、ちゃんと、ロゼティータ様を、抑えることが、できなくて、こんなことに」
「いや、あれは、シャリュの所為じゃあないから」
「そうよ。ロゼティータ様が奔放過ぎる性格なのが問題なんだから」
確かにそうだよね。
「誰が奔放じゃ。妾は別に奔放ではないぞ。奔放と言うのは、ミリアリアみたいな者の事をいうのじゃ」
「う~ん。それも確かに言えてる。……って、ロゼ姉さん!」
僕は声がした方に顔を向ける。
でも、其処に居たのは別人と言えるくらいに綺麗な女性が居た。
女性にしては高身長であり、でるところ出て引っ込むべきところは引っ込んでいるという誰もが羨む体型。足まで届きそうな位に伸ばした金髪。凛々しい顔立ち。切れ長の眼差しにアメジストのような瞳。
まるで、女王の様な誰もが跪きそうな位の覇気。
ただ、其処に居るというだけで、まるでスポットライトに当たったかのように注目を与える存在感。
思わず「女王様」と言いそうになりそうだ。
「……誰?」
ティナはその女性を見て、首を傾げた。
「ああ、そう言えば、ティナは会った事がなかったっけ。この人はね」
「待つのじゃ」
その女性は手で制した。そして、その女性はティナを見る。
「お主に聞きたい事がある」
「聞きたい事?」
「お主は、リウイと如何なりたいのじゃ?」
「ど、どうって?」
「一言で言えば、夫婦になりたいのかと聞いている」
「ふっ⁈ ふうふっ⁉‼」
ティナは目を見開かせて驚いていた。
「そこの所はどうなのじゃ? うん?」
「そ、そそそ、そんなことを、どうしてみもしらないひとに、いいい、いわないとだめなのよっ」
「妾は聞いておるのじゃ。訊ねられたら答えるのが筋というものじゃろう」
「…………」
ティナは顔から火が吹き出そうなくらいに真っ赤になっていた。
「…………す、すきよ。だいすき、いせいとしてすきよ」
後半、何か小さくて聞き取れなかったけど、そうか、好きなのか。
僕に付いてきたのは、幼なじみというだけじゃあなかったか。
「ふむ。まぁ、及第点にしてやる事としよう」
女性は肩を竦めた。
「と、ところで、あんたは誰なのよ?」
「何じゃ。気付いておらんかったのか? そう言えば、小さい頃からお主は悟るのは早いが、頭の回転は遅い方じゃったな」
「小さい頃って、あんた、あたしの子供の頃の事を知っているの?」
「無論じゃ。お主がリィンと一緒に城の宝物庫に忍び込んで、説教したのは今でも忘れんよ」
「ちょっと、待って、宝物庫に忍び込んだのは、あれがリウイが城を探検するって言うから付いて行っただけだし、って、その時、あたし達を説教したのはロゼティータ様だったわよね」
「うむ。その通りじゃ」
「…………」
女性が頷いたのを見て、ティナもようやくこの女性が誰なのか分かった様だ。
「ロゼ姉さん。どうして、いつもの姿じゃあないの?」
理由は分かっているけど、知らないフリををして、僕は訊ねた。
「リィンを探しておったら、酒場に入ってな、そこで因縁をつけられそうになったと思ったら、何処かのゴロツキ共と縄張り争いが始まってな、あまりに聞き訳がないので、ちょっぴり本気になったんじゃよ」
ちょっぴりね。
明日、カフェ一帯の被害状況を聞くのが怖いな。
「ああ、それとティナよ」
「は、はい。何ですか」
「リィンの嫁になりたいのであれば、手っ取り早い方法があるぞ」
「そんな方法あるんですか?」
「ある。だが、やるとしたらかなりの困難じゃがな」
「その方法とは?」
「イザドラを倒すのじゃ」
それを聞いて、ティナは宙を見た。
ティナの頭の中には、龍の姿で火を吹きながら暴れまわる姿が浮かんだ。
「む、むりです」
「じゃろうな。あの超絶ブラコン妹を倒す事が出来れば、まぁ、誰も文句は言う事はないのじゃがな」




