第21話 実戦訓練の前に調べ物
昼食を三人と共に取り(僕の隣に誰が座るかで揉めたが、じゃんけんで決めた)午後は訓練も休みなので僕は王城の図書室に向かう。
側近の人の話では、強い魔物は居ないと言っていたが、用心を兼ねて調べる事にした。
(この世界はゲームみたいに死んだら蘇えるわけじゃないんだ。ちゃんと調べておいて対策を練っておかないといけない)
僕は掃除をしていた使用人の方に、図書室は何処にあるのか訊いた。
その人に教えられた道の通りに行くと、図書室があった。
公共の施設だろうから、ノックはしなくてもいいだろうと思い扉を開ける。
「わぁ、図書館を思い出すな」
見た瞬間、思わず口に出た。
部屋に入ると、本が醸し出す独特の匂いが香る。
本棚が天井に突く程高くあり、棚には種別ごとに分かれておりその順に本がギッシリと並んでいる。
この世界に来てこれだけ本が有る所は初めて見たので驚いた。
(この間の書き取りで紙に書いていたから、紙の製法はもう実在していると思っていたけど、こんなに本があるとは思わなかった)
こんなに本があるなら、もっと早く行くべきだった。
正直、この世界の文明レベルは中世ぐらいだと思い、こんなに本があるとは思わなかった。
これだけの本があるなら、一日費やしても読むべきだ。
異世界の歴史、風習、文化、地理、魔物の生態等々知っていても損はない。
「今日は取りあえず、ここら辺近くの地形と魔物の生息地域を調べておこう」
文字は書き取りで読めるくらいには分かるようになっている。
なので、後は根気よく探すだけだ。
(マイちゃん達を誘っておけばよかったかな? でも、何か用事がありそうだったしな)
なんとなくだが、そう感じた。
マイちゃん達は午後は何をするのかと訊いたら「ちょっとね。用事があるから」と言って何処かに行ってしまった。
椎名さんは昼食を食べ終えると、直ぐに何処かに行ってしまった。
そんな訳で、僕は一人でここに来た。
「さてと、愚痴っても始まらないから探すか」
棚に置いてある本を一つ一つ確認しながら、僕はお目当ての本を探す。
探す事数十分。
ようやく、お目当ての本を見つける事が出来た。
王都周辺の地図と魔物生息地を記した本だ。
まずは、地図を見る事にした。
「う~ん、これは・・・・・・・」
地図を開いて見たが、すっごい大まかに書かれていた。
僕達が居た世界にあった地図に比べたら、かなり悪い。
何せ、書かれているのは王都の名前と主要都市の名前に、それらを結ぶ街道に森くらいしか書かれていない。
「地図なら、ここに山があるとか坂があるとか、書いてあるものじゃないのか?」
そう思えるくらい位酷い出来だ。
「これじゃあ、あまり参考にならないな」
僕は溜め息を吐いた。地図を閉じて、次に読む本に手を伸ばす。
「せめて、ここらへんに出る魔物がどんななのか調べないと」
本を開きページを捲っていると。
「あら、こんな所で何をしているのかしら?」
横から女性の声が聞こえたので、顔を向けるとそこにはミルチャさんが居た。
「あ、どうも」
会釈すると、向こうも軽く頭を下げてくれた。
「えっと、お名前はイノータ様でしたね?」
「はい、そうです。でも、様はいりませんよ。そんなに偉い身分ではないので」
「ですが、王国ではあなた方を食客で迎える事にしています」
「あくまでも食客でしょう? なら、別に様はつけなくてもいいですよ。食客なんて働きがないとタダの居候ですから」
食客と聞くとカッコよく聞こえるけど、実際は居候に過ぎない。
なので、謙虚に慎ましく生活しないといけない。
「はぁ、貴方がそう言うのでしたら良いのですが」
「それでお願いします」
「ところで何をご覧になっているのですか?」
「ここら辺に出る魔物の生態を知ろうと思いまして」
僕は今見ている本を見せる。
「ああ、そう言えば明日でしたね。近くの森で魔物狩りに行くのは」
「ええ、なので。どんな魔物が居るか知っておこうと思いまして」
「それで一人でここに来たのですか? 良く本を探せましたね」
「ええ、ちょっと探すのに時間が掛かりました」
いや、本当の事を言うと探すの大変だった。
タイトルの順番通りに並んでないので、一つ一つ読んでようやく見つけた。
(頼むから、借りた人、返すときは元に置いていた所に戻してよ。それとここの管理する人、ちゃんと整理しないと駄目だろう)
と思うが、この人に行っても無駄なのは分かっているので言わない。
「流石ですね、下調べをしっかりするなんて、軍師の職業を得ているだけはありますね」
「正直、そんな職業をもらっても、今の所何の恩恵もないので有難味が湧きません」
「そうですか。その内、何かあるかもしれませんよ」
クスクスと笑いながら、僕の隣に座る。
「えっ⁉ あ、あの」
「私も知識として、ここら辺の魔物について色々知っていますので、教えてあげます」
「い、いいですよ。こうして本があるので、教えてくれなくても」
「まぁ、そう言わないの♥」
ミルチャさんは体を寄せて来た。
それにより、ミルチャさんの使っている香水の匂いが僕の鼻を刺激する。
(おおおおおっ⁉ こ、この、馥郁たる香りはっ!)
女性の甘い香りと香水の香りが混ざり、その香りを嗅いでいると、何か幸せになりそうだ。
更に豊満な胸が僕の肘に当たる。
「あ、あの、む、むねが、あ、あたっているんですけど・・・・・・」
「あら、案外初心なのね」
そう言って、ミルチャさんは更に胸を押し付けてくる。
「ち、ちょっと、そ、そそそそその、は、離れて、ください」
「いいじゃない、私が知っている事を教えるだけなんだから♥」
その後、僕はミルチャさんに色々と教えてくれた。
終わると、僕はぼーっとしながら図書室から出て行く。
ミルチャさんとは部屋の前で別れた。
自分の部屋へと歩きながら思った。
(胸って本当に柔らかいんだ)




