第17話 この歳になって
翌日。
「…………」
まるで何処かのボクシングリングで真っ白に燃え尽きた状態でベッドで横になっている僕。
幻聴なのか、何処からか「立て、立つんだ‼ ○ョー」という言葉も聞こえて来た。
まぁ、ボクシングに縁はないので、幻聴だろう。
昨日、ソフィーに連れて行かれた先で、説教を久しぶりに受けた。
ううっ。思い出すだけで、寒気が。
何とか、寝室に戻り、ベッドに横になった。
一夜明けても、身体に力が入らない。
今日の仕事、どうしよう。
「リウイ様。ご加減は如何ですか?」
「ぎゃあああっ⁉ お、鬼乳母が出た⁈」
「鬼乳母って……」
言ってて語呂が悪いなと思うが、それどころではない。
「し、仕事の件? 今日は身体の調子が悪いから、此処に持ってきて」
ぶっちゃけ、全身が痛くて身体を動かすのもキツイ。
「いえ、今日は仕事はしなくてもいいそうですよ」
「はい?」
「リッシュモンド様が『偶には仕事を休まれた方が良いだろう』との事で、五日間ほどお休みになりましたよ」
おお、流石は我が忠臣。よくぞ、気付いた。
これで少し休める。
「まずは、御着替えしましょうか」
「はい?」
「何時までも寝間着のままでは駄目です。という訳で、着替えましょうね」
「ああ、分かった。って、その手は?」
ソフィーの手が何も持ってないのに近付いてきた。
「いえ、お身体の調子が悪そうなので、お手伝いを」
「要らない」
「まぁ、そんなつれない事を言わずに、数年前までお手伝いしたではありませんか」
「何時の話しだよ。こ、こら、変な所に手を入れるなっ」
「そこに入れないと、御着替えが出来ません」
「だから、一人で出来るって、」
「はいはい。脱ぎ脱ぎしましょうね~」
「人の話を聞けっっっっ‼」
……。
…………。
………………。
数日後。
僕はこの数日間ソフィーの世話を欠かさずうけていた。。
それにより、僕はお婿に行けない身体にされた。
うう。今でも夢に出る。あれが。
精神年齢では中年といえる年齢だけど、あれをさせられるとは。
ソフィーは「大袈裟ですね。それに婿に行く当ては沢山ありますよ」と笑顔で言っていた。
ぐううっ。そんな事を言うのだったら、責任取って僕の婿にしろと言ってやろうか?
まぁ、言わないけど。
そして、ソフィーの世話を受けながら、外の情報を手に入れる事は怠らなかった。
で、知ったのだが、どうやら『プゼルセイレーン』がたまり場にしている店が、修理が完成したそうだ。思ったよりも早く終わったな。
やはり、僕に仕えている文官の手が入ったと考えるべきかな。
まぁ、今は店に行くのが先だな。
で、その話しを聞いた夜に、店に行くメンバーは厨房に集まったのだけど。
「久しぶりね。リウイ」
「本当に、元気そうね」
カーミラさんとティナが僕に声を掛ける。
何か、白々しく聞こえるのは。何故だろう。
僕があんな目に遭ったからか? まぁ、今はそんな事よりも。
僕は後ろに居る人達を見た。
「お供させて頂きます」
ルーティさん達が居るのは良いんだ。
でもさ。
「リウイ様。頑張ってください。影から、見守らせてもらいます」
「頑張れよ。息子よ」
何で、ソフィーと母さんが此処に居るの?
「リウイ様が非行に走るかもしれませんで、わたしがしっかりと監視を」
過保護だな。
「ふん。ソフィー。お前は過保護だな。わたしがリウイぐらいの歳の頃は、人の魔獣を盗んで、気が済むまで当ても無く走らせ続けたぞ」
それ犯罪だと思うのだけど。
「まぁ、リウイにはわたしと同じ事は出来ないだろうが、だが、わたしの息子なのだから、何処かのチームのトップになるか、それともチームを乗っ取るぐらいはして欲しいものだ」
時々、思うのだけど、この人、本当に僕の母なのだろうか?
「リウイ。何時までもお母様と話してないで、行きましょう」
「そうだよ。あまり遅いと遅刻したしちゃうよ」
「ああ、そうだね」
まさか、この歳になって、自分の行動が親に監視されるとは。
ああ、何か授業参観を思い出すな。
母さん達に見守られながら、僕は『プゼルセイレーン』のたまり場になっている店に向かう。
歩いている最中、どうにも母さん達に見られていると思うと、気恥ずかしいと思ってしまうな。
はぁ。この歳で授業参観を受けるとは。
「どうかしたの?」
「いや、何でもないよ」
とか言いながら、内心気が重かった。
監視も今日だけなのだろうか? それとも当分続くのかな?
ああ、せめて、今日だけにしてくれないかな。
そう考えている間も歩いていた所為か、何時の間にか店に着いた。
「外観は、前のと変わらないな」
「そうね。まぁ、変に変えて、店が分からなくなるよりもいいんじゃない」
確かに。そうだな。
変わっていたら、店が分からないという事になったら、笑えないからな。
店の前には花輪が飾られていた。
へぇ、こういう飾りは、この世界でもあるのか。
そう思いながら、店に入る僕達。
店の中を見たけど、前と同じ内装だった。
別に改装したした訳じゃあないんだ。
「りじゃなかったウィル。まだ、誰も来てない様よ」
「そうか。じゃあ、待とうか」
店はそれなりに客がいるけど、カウンターは丁度三人分席が空いていた。
僕達はカウンターに座る。席は、僕が真ん中で、右がカーミラさん。左がティナ。
カウンターに座ると、マスターが僕達に話しかけてきた。
「よう、元気そうだな」
「おかげさまで」
「そこのチンチクリンだけじゃなくて、こんなベッピンさんとも知り合いとはな。何処で知り合ったんだ?」
「えっと」
どう言ったらいいかな?
「ウイルの母親とワタクシの母親が友達だったの、その縁でこうして一緒にいるのよ」
カーミラさんの説明を聞きながら、まぁ、あながち嘘では無いなと思った。
シエーラさんは僕の母さんの知人だったようだから。
この都市に帰ってきた時、母さんにシエーラさんの事を話したのだが、母さんはと言うと。
『ああ、そう言えば、シエーラが何とか樹海の出身とか言っていたな。ここの樹海だったのか』
今、思い出しても遅いよ。
友人の娘という事なのか、母さんはカーミラさんを目を掛けている。
何かその内『カーミラをお前の婚約者にする』とか言い出しそうだな。
まぁ、そうなったら、姉上が思いっきり口出しそうだな。
戦争に成らない様に祈ろう。
「で、注文は?」
「じゃあ、エールを」
「わたしは果実酒」
「ワタクシも」
「はいよ」
そう言って、マスターが出したのはミルクではなく、注文通りの品であった。
「マスター。これは」
ようやく、僕達をチームメンバーとして認めてくれたのかな?
と思っていると。
「今日はオープン記念だから、特別にだしてやる。だが、次に注文する時はミルクだからな」
とほほ。結局、まだ認めてないという事か。
まぁ、仕方がないから。ありがたく飲ませてもらうか。
僕達は飲み物が入ったグラスを、目の高さまで持ってきて『乾杯』と言う。
そして、自分達が頼んだ物を喉に流し込む。
んぐ。結構すっぱいな。エールって。
まぁ、そんなに酒精は強くないから、グビグビ飲めるな。
そう言えば、前世でビールとウイスキーの作り方をドワーフに教えたな。
今でもその技術は守られているのかな?
そう思いつつ、僕はエールを喉へと流し込む。
三人で飲んでいると、ドアに付けられているベルが鳴った。
誰が来たのだろうと思って、僕は顔を向ける。
其処に居たのは。
「あっ。リウイ様♥」
「ブウウウウウウウウウウウウッッ⁉」
何処かの漫画の様に吹きだした僕。
其処に居たのは、アマルティアであった。
「あら、リウイも此処に来るのかしら?」
しかも、アルネブさんも一緒だった。
こ、これは、不味い事になった。
「「…………あっ」」
僕が吹き出したので、何事かと思い、ティナ達が入り口を見ると、目を点にする。
「「あっ…………」」
アマルティア達も、僕の両隣に座っているティナ達を見て、声を上げる。
そして、親の仇を見るかのような目で、二人を見ている。
店の中の空気が険悪になっていくのが分かる。
ここで、喧嘩は止めて欲しいな。